イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

らんま1/2:第3話『好きな人がいるんだから』感想ツイートまとめ

 奇人だらけのハイテンション格闘ラブコメ、甘酸っぱい純情がひとつ屋根の下に燃える、令和のらんま1/2第3話である。
 前回鮮烈デビューを果たした九能先輩が、話は聞かない最悪の二股野郎…ながら、徹頭徹尾オモシロすぎるので存在を許される”コメディ”部分の塩梅を示しつつ、東風先生とかすみお姉ちゃんを間に挟んだ四角関係の”ラブ”部分の微細さを、同時に示すエピソードとなった。

 九能先輩が異様なテンションと思い込みで突っ走るほどに、あかねと乱馬が超いい感じに胸キュン同居生活を積み重ねている手応えが突き刺さり、”当て馬”というにはあまりにキャラが濃すぎオモシロすぎる男の顔が引き立つのであった…。
 九能先輩の最悪二股ギャグが冴えるほどに、報われない恋に身を焦がすあかねの純情と、それにどう向き合うべきか戸惑いつつも自分なりの誠実を探す乱馬の姿が映える構図でもあんだな。

 令和のコンプラ意識もなんのその…というか、意識した上でギリギリ原作のとおりに飛ぼうとする作劇的アクロバットを暴れさせつつ、そういう無茶が通る理由も三話目にして良く解ってきた。
 とにもかくにも、キャラとお話が面白く、可愛らしい。
 高らかに振り上げた原作由来の面白さで、鋭く的確に見ている側の頭をぶん殴れれば、大体のことは許されるという、シンプルな生存戦術が力強くもある。
 無造作に放り出される女らんまの乳房も、強すぎるツッコミも、溢れかえる怒涛の面白さに押し流されていらん引っ掛かりを失い、「まぁ、らんまだしな…」で飲まされてしまう。
 そういう大胆さの裏に、細やかな表現が折り重なってもいるがね…。

 

 ともあれ思いの外長いあかねのロングヘアーな季節、呪泉郷という漫画的大発明をフル回転させる前の”らんま”は、結構しっとり複雑な情感と、奇人の異様なテンションで突っ走りつつ真顔でボケ倒す、落差ある笑いを見事に使いこなす。
 ラブロマンスとコメディ、両方の味が良いことを思い出させてくれる回だった。

 色んな人たちの立場と思いが折り重なって生まれるこの歯ごたえは、高橋留美子三発目の場外ホームランをガッチリ打ち立て、長期連載への道をひた走る中で微かになっていくモノではある。
 だが確かに、”らんま”の持つ面白さの原点はここにこそあるなと、完結済みだからこそ終点から始点を見返すスタンスでもって、新たに感じることが出来た。

 男子も余裕でぶっ飛ばすスーパー戦乙女なあかねが、東風先生に向ける純情と、それを隣で見つめ寄り添い、無自覚に踏み込んでくるらんまの軽快。
 ハイテンションなだけでは終わらない、人間心理の細やかな部分にしっかり切り込む筆の強さでもって、作品の新たな魅力、キャラクターの秘めたる可愛げでぶん殴られて、このお話がもっと好きになる回だった。
 九能先輩をメインエンジンに、イカれた笑いを全力でブン回すパワーあればこそ、未だ恋の名札をつけられずだからこそピュアで柔らかな二人の関係性が、細やかに突き刺さりもするのだ。
 ここら辺の贅沢な緩急、ラブコメの全領域で勝ちに行く貪欲さは、流石の一言。

 

 

 

画像は”らんま1/2”第3話より引用

 というわけで、「序盤戦の笑いは帯刀にまかせろ!」とばかり、九能先輩が大暴れする回である。
 杉田智和の好演に助けられ、ブレーキも減速装置もぶっ飛ばした思い込みで突っ走り、迷惑振りまきつつも憎めないキャラの濃さが、いい具合に場をかき回してくれる。
 パステル調の色合いが笑いを増幅させ、急に花背負ったり風神雷神登場したり、唐突なシュールさを使いこなすギャグの切れ味は、大変素晴らしい。
 マジ唐突に変なものが画面に飛び出して、なんの説明もなく退場していく説明のなさ、ホントおもろいんだよなぁ…。
 面白さの手数が多くて深いの、高橋留美子100の強さの一つ。

 惚れっぽさと勘違いと棚上げ力に背中を押され、九能先輩はあかねとおさげの女両方を熱烈に求める最悪を、程よい笑いへ変換し、猛烈に加速させていく。
 この「シャレになんないものがシャレになってる」感覚が、作品全体の不謹慎レベルをカチッと定めたりもしているが、乱馬は男性に告白され、求められ、抱きしめられる行為を通じて、男であり男でしかない自分を、サブイボとともに再認識する。
 でけー乳と林原ボイスが唐突に生えても、乱馬の性自認と性傾向はあくまで男であり、女であることはあくまで一つのオプションでしかない。
 この軽快さが、トランス行為を重く捉えすぎず、ファンタジックに切り替え可能な”夢”にもしている。
 …この”ぞぞぞ”を男に抱かれて感じるなら、乱馬が抱きしめたいのは一体誰か、て話にもなってくるワケよ。

 

 乱馬をらんまとして求める九能先輩の歪みを、乱馬は真実を伝え適切に正したりはしない。
 あまりにオモシロすぎるので、誤解を解いてネタが消えてしまうのはもったいない…というメタな事情もあるだろうけど、乱馬が女として求められる状況は逆説的に、彼があかねと向き合う男性性を保持していることを強く強調する。
 素直になれない季節に身を置く、当たり前の男の子と女の子として、直球勝負のラブコメをやれない事情が、そこには面白く引っかかってもいる。
 相手のことが好きな自分に気づいて、素直になってしまえばラブコメは即座に終わりであり、この状況をどれだけ楽しく保留し続けられるかが、作品な足場にもなってくる。

 九能先輩の猛烈なアプローチが隣りにあることで、乱馬の自意識の中で”らんま”がどれだけオプションであったとしても、おさげの女はが作中現実に確かに存在する事実として存在感を得る。
 すごく極端な形ではあるけど、九能先輩の最悪二股猛ダッシュは女としての”らんま”の魅力を際立たせ、男をそれだけ狂わせる魅力が主人公にあることを、笑いの中で可視化する。
 たとえその魅力を、乱馬が自分のものだと認められなくても、だ。
 まぁここで女でもある自分を猛烈に拒絶するのではなく、「女の俺も皆が求めてくれてサイコーッ!」というナルシシズムに後押しされて、便利に使いこなすようになるのが、乱馬とこの作品の心地よい軽快さでもあるんだけど…。

 

 

画像は”らんま1/2”第3話より引用

 おさげの女を追い求めるのと同じ激しさで、九能先輩は早乙女乱馬を恋敵としてライバル視し、風林館高校最強の男として勝負を挑む。
 今回もアクションシーンはいい感じにキレており、体幹を真っ直ぐ保ったままの連続蹴りには痺れた。
 九能先輩が痛いの一発いれてるのを、あかねにしっかり見咎めさせることで彼女の”武”を書いたり、先輩の格をギリギリ保ったり、痛くて泣いちゃう乱馬くんの可愛げを強調したり、シンプルに巧い場面でもある。
 最強無敵な自分を取り繕いたいガキっぽさが、乱馬というキャラの根っこにあって、あかねとの関係が拗れる原因でもあると、自然に侵入ってくる運びだ。

 コミカルな軽妙さを残しつつも、男乱馬としては彼らなりにマジな殴り合いを演じつつ、女らんまは怖気を振るう抱擁に求められ、メコメコに歪んだ愛に捕らわれていく。
 九能先輩を間に挟み込むことで、乱馬とらんまが持っている複雑で魅力的な捻れ、女と男…愛と暴力が”らんま”に同居している心地よい混乱は、加速し形を得ていく。
 この話がなんで面白いのか、主役が持ったフザケた体質のどこが魅力的か、体を張り大暴走を繰り返しながら僕らに教えてくれる九能先輩は、やっぱメチャクチャいい仕事しててくれてありがたい。
 全力でフザケつつも、剣客としての強さが優れたアクションに下支えされて鮮明なのは、やっぱ良いな…。

 

 

 

画像は”らんま1/2”第3話より引用

 九能帯刀を助演に迎え演じられる、アッパーテンションで暴れ倒す格闘ラブコメを補助線に、あかねと乱馬の微細な距離感もより鮮明になっていく。
 乱馬は「運動が得意」という、男性的な優越性を社会的貨幣として差し出す形で、クラスの男子にもすんなり混ざっていく。
 モブたちが当然茶化し問い詰める、許嫁として年頃の男女としての、エロティックな関係性を否定しつつも、乱馬の視線は寸胴女が無防備に見せた華やぎに惹かれ、その頬にボールが直撃する。
 もしかしたら、俺はあかねが好きなのかも。
 そういう事実に向き合おうとする度、暴力的ツッコミがバキッと彼の身体に食い込み、首を明後日の方向に捻じ曲げる。

 クソボケ男子に毎朝追い回され、男の子への苦手意識で自分を守っている、あかねの強がり。
 それに引っ張られ反発する形で、「俺は許嫁なんて好きじゃないんだ」と、乱馬は自分の現状を定位する。

 それは誰かを大事にしたい純情が自分の中にあるのだと認めたくない、思春期男児普遍の頑なさとも繋がっていて、愚かで浅はかな乱馬の横顔は、とってもチャーミングだ。
 ぷいと顔を背け拒絶するようでいて、その背中が相手の温もりを誰より求めている。
 この裏腹な状況を、色んな角度から、的確に笑いという潤滑油を交えつつしっかり書いているのが、”らんま”のラブコメ強度を支えてもいる。

 

画像は”らんま1/2”第3話より引用

 水をかぶって女の形になれば、背中に抱かれることだって出来るのに、本来の自分に戻ったらいつでも顔を背けあって、あるいはグキッと首をあらぬ方向に曲げて、反目し合ってしまう間柄。
 拗れに拗れ素直になれない(つまり、物語が面白くなるポテンシャルを山盛り備えた)関係は、身体的なポジションとしてしっかり描写され続ける。
 このフィジカルな描き方は、”格闘ラブコメ”という身体の触れ合いが大事な作品ジャンルとも共鳴してて、かなり好きだ。
 身体がどう触れ合うか、どつきあいを通じて何を感じるかは、”らんま”においてはとても大事なのだ。

 お転婆なご近所さんの未来に寄り添ってくれる好青年として、乱馬を見込んだ東風先生は腰に爆弾をしかけて、二人が触れ合えるきっかけを手渡す。
 そのお節介はつまり、あかねの気持ちが東風先生に届いていない事実を、残酷に告げてもいる。
 あかね自身そのすれ違いには気づいていて、でも諦めきれない。

 そんな状況に乱馬はふん! と顔をそらし、あっけんべーで下から茶化し、あるいはぶん殴られて正面から向き合えるようになる。
 ガサツに見えて繊細な許婚の内側を、乱馬(と僕ら)が解っていく過程には、彼がそれとどう向き合うのか、身体的な姿勢が付き従っている。

 

 

画像は”らんま1/2”第3話より引用

 らんまの捻れた首を真っ直ぐにしたあかねの拳は、青春を格闘に賭ける二人の関係を、暴力が対等にしてくれる様子を作品に焼き付けもする。
 最初はハンドインポケットでふわりふわり、あかねの本気を受け流していた乱馬だが、彼女が拳に乗っけて託してくる熱を受け取って、素手で受け止め笑顔で切り込み、優しい一撃を対等に打ち込みもする。
 笑うと可愛いよ。
 それは男女の別のない、学校の有象無象とは構築できない関係を求めているあかねの希望とは、ちょっと違う角度から…だからこそ猛烈に、あかねの心臓を打つ。
 俺の心臓もね…ここの胸キュン力、マジ圧倒的だったな…。

 胸に秘めた純情をただ真っ直ぐ突き出したら、別の物が壊れてしまう複雑さを、あかねはしっかり解っている。
 傍から見たらバレバレな恋心を、素直に打ち明けられない難しさを自分のものにするには、乱馬はまだまだ幼い。

 しかしなんだかんだ憎からず思っている女友達の心に、笑顔と人差し指で振れることで、乱馬はあかねが立っている思春期の複雑さに追いつき、彼女をちゃんと思いやれる自分に近づく。
 恋…にもならない淡い優しさの交流が、少年をちょと大人にしていく魔法、それが乙女の体温を上げていく瞬間を見事に切り取っていて、やはり名作である。

 

 ”うる星”から連続で高橋留美子リバイバルの渦中にいる自分は、なぜ彼女の作品を好きでいるのかを、視聴体験を通じて考え直させられている。
 「誰かを大事にしたいという」自分の中にあるシンプルな優しさと、実直に向き合う素直さを気づけば失ってしまった少年少女が、子ども時代の一番美しい場所へ立ち返ることで、思春期から旅立つまでの物語。
 ジュブナイルとしての根本的な強さを、たっぷりの笑いとときめきに交えて描いてくれるところが、やっぱいっとう好きなんだと思う。

 乱馬もあかねもツンデレどうし、素直になれないまま顔を背け、ぶつかり合い、相手を傷つける言葉を投げつけてしまう。
 でもその迷いや衝突は大切なもので、それがあればこそ自分の中にある大事なものに目を向けたり、優しくなっていくことも出来るのだ。
 ドタバタ騒がしいすれ違いを繰り返しながら、このお話の子ども達がどれだけ素敵な人間なのか、スッと胸に届く力強さを真っ直ぐ突き出してくれる瞬間が、見ていて一番好きだ。

 格闘を通じて乱馬が普段の軽妙/軽薄を捨てて、あかねが抱えるシリアスなモヤモヤを自分に引き寄せ、真っ直ぐ見つめて自分なりの一撃を、実は既にかなり大事にしたい女の子に手渡せたここの交流は、柔らかな暖かさに満ちていてとても良い。
 数十年ぶり見返すと、主役二人がとびきりいい子なの強いな、らんま…。

 

 

画像は”らんま1/2”第3話より引用

 乱馬の言葉を受け取り、あかねは火照った心を寝室にくゆらす。
 不在なる母の代理として、”女らしさ”を完璧に体現する姉(であり恋敵でもある人)と見比べ続けて、自分にはないと思いこんでいた可愛さが、確かにあるのかも知れないと鏡に照らす。
 その乙女の繊細な心に、ガラッとカーテンこじ開けて土足で侵入してしまう、ノンデリ青年早乙女乱馬
 かくして真っ直ぐ素直に向き合えていたはずの首は再びネジ曲がり、素直になれない許嫁の関係性は維持されるのであった…。
 前回印象的だった、普通の道を歩かないボヘミアンとしての乱馬が、最後の最後に再来してくるの面白いな…。

 鏡の中でチャーミングに微笑む、女であるあかねの姿を自分自身と認めてしまえば、自覚された恋心は加速を続けエンディングまで真っしぐらである。
 同様に乱馬の首も怒りの鉄拳でネジ曲がり直さないと、ガサツな寸胴女に一目惚れしてしまっている自分と真っ直ぐ向き合い、相思相愛ハッピーエンドで連載終了である。
 凄くピュアで真っ直ぐな気持ちを、拳に乗っけて伝えあえた奇跡は確かにそこにありつつも、同時に物語全部を支配する”答え”ではなく、一瞬の気の迷い…にしておかないといけない、ラブコメ特有の不自由。
 それをドタバタ楽しい空気に交えて、上手く料理する回でもありました。

 

 

 素直になったりなれなかったり、殴り合って心が伝わったり折れ曲がったり。
 なかなか上手くいかないあかねと乱馬の青春が、楽しく可愛らしいものであり続けているのは、やっぱ凄いなぁと思います。
 メチャクチャ笑ってときめけるからな…このシンプルで複合的な面白さは、やっぱり強いよ。

 九能先輩が加速してくれたハチャメチャと対比する形で、かなり繊細な想いにも寄り添う柔らかさが主役たちにあるのだと…そこに踏み込まにゃ話は進まんのだと、己を定める第3話でした。
 果たしてあかねの純情はどこへ転がるのか、乱馬はそれをどう受け止めていくのか。
 ラブコメは始まったばかり、次回も楽しみッ!!