ヒロイン攫われ、征くぞサイバーパンク魔王城!
敗北を知った魔王が、かつて生死を闘った勇者とともに、メガコーポの牙城に殴り込みをかけるまでを描く、魔王2099第5話である。
僕はTRPGという遊び…特にFEAR社が制作した、物語に没入する体験を重視したシステムにどっぷり使ってる人なわけだが。
そういう遊びをやってて楽しいと思う部分が、凄まじいスピードで乱打しかけてくるのが、このアニメを見ていていっとう気持ちが良い部分である。
面白いというよりもうちょい、脳髄の原始的で深い部分をぶっ叩いてくる、自分自身が幾度も体験した最高の物語の原液を、別の形式で流し込まれている悦楽。
懐かしいと同時に新鮮でもあるこの感覚を、山盛り与えてくれる作品で大変に気持ちが良い。
わざわざ社長本人が襲撃かけてヒロイン攫ってくる場面とか、復活したばっかでコネもねぇ魔王に頼れる唯一の凄腕として”己を殺した勇者”を思い出すシーンとか、マキナを思う気持ちに炙られて勇者にまとわりついてた時代の錆が落ちる瞬間とか。
なかなかうまく言語化出来ないけども、”コレ”なのである。
このシンプルでダイナミックな、ともすれば陳腐ですらある、当事者性と物語の醍醐味をぎゅっと煮詰めた味わいを、他でもない自分が浴びている感覚。
その幻覚が、途方もなく気持ちいいのだ。
無論ベル様は僕が操るPCではない。
アニメ…あるいは原作小説に独立して存在する三人称のキャラクターであり、この物語はTRPGのセッションではない。
ないのだが、僕が一番親しみを覚えすべての基盤になっている物語体験の、一番気持ちいい部分をとにかく絞り出してくれるキャラではあって、そこから感じる面白さが勝手に、『コイツは俺のPCだ』という錯覚を与えてくれる。
コレに身を投げると、展開される物語にも作品世界にも深くシンクロできて、物語を我が事として楽しむことも出来る。
そういうグルーヴに引っ張り上げてくれるアニメもなかなかないので、こういう角度で摂取できているのは大変ありがたいな、と思う。
陳腐だろうがめっちゃ吹き上がる展開をしっかりやることと、そこに至るための途中経過を大胆にかっ飛ばすこと。
強調と省略のメリハリがしっかり付いていることも、そういうTRPGを山盛り遊んできた自分の感性にビンビン来て、アニメ作品の中に『俺が遊びたかったセッション』を見出す、一種ヤバい愉しみ方に響いているのだと思う。
一応の理屈は付けつつ、どっしり描写してもあんま面白くならなそうな所はサックリ切り落として、とっとと次の面白い所にぶっ飛んでいく足取り…馴染む、馴染むぞッ!
社長が不死炉の薪にされるルートもしっかり組み上がり、そろそろ新宿決戦決着の匂いですが…このアニメ、メチャクチャ楽しんでます。
というわけで玄関開けたら二秒で社長! かつての六魔侯が大火力魔法のぶつけ合い!! である。
理解っていた…お前はわざわざ生身で現場に向かい、片腕ぶっ飛ばされつつ自力でヒロインをさらうタイプの悪役だとッ!!
期待通りの小憎らしい顔芸と、期待以上の血魔術の冴えを暴れさせて、炎の魔神としてのマキナの強さもしっかり見せてくれる。
マルキュス社長…お前はやれるヤツだよッ!!
マキナ戦の勝因になったファミリア・バックドアが、後にくるだろう魔王戦でボロ負けする道筋整えてる所含め、マジ完璧だった。
ド厨房な魔族バトルと並走して、ペーソス溢れる最下層民コメディもしっかり楽しいのがこのお話の良い所。
なんだかんだ魔王様が配信業で成り上がり、ズレた時代感覚で新宿スラムを生き延び、マキナと魔王四畳半に暮らす日々は、見ていてとても面白かった。
だから社長襲撃が”我が家”をぶっ壊し、サイバーパンク世界にしてはモロにPSコンな操作デバイスを燃やす場面には、六魔侯同士の大激突に血が滾ると同時に、不思議な切なさがある。
あっけなく吹き飛んでいく当たり前の日々を惜しむ気持ちは、魔王が玉座でふんぞり返ってる時には感じなかった感覚であり、勇者が仇敵と手を取る決め手になる情でもある。
ゴリッゴリに勢いと定型で押し込んでいるようでいて、実は結構こういう細かい寂しさの描写、それを後の展開に効かせる使い方も上手い話で、マキナVSマルキュス(&秘書)はそういう強さが、良く出たなぁと思った。
社長の超魔力にも押し負けず、用意した伏兵も読んだ上で王手詰め直前までいったけども、500年の妄執が生み出したバックドアにしてやられる決着も、両雄の格を上手く保ったままヒロイン虜囚に持っていってて、大変良かった。
マキナが健気でポンコツなだけのヒロインで終わらず、ガチってもマジすげぇ超魔族なのは嬉しいんだよなぁ…。
そうあることで、魔王様との関係にも脂が乗っかる感じがある。
というわけでマキナ救出のために行くぞ新宿魔王城!
でも独力(ソロ)じゃ無理だよ魔王と同等以上の力を持った凄腕(ホットドガー)じゃなきゃ!
復活したてでコネもないのにそんなの…いたよ! ごみ溜の中でくすぶってる勇者!!
と立て板に水のスピードで、サイバーパンクまおゆう退治がキマリ、お互いの生き様を問いただすシーンが展開される。
き、気持ちいいこの”速度”…こんぐらいあっという間に、必要なシーンでセッション時間を埋めていきたいもんだ。
かつての栄光何処へやら、卑属に助力を請う魔王の姿に、煤けてた勇者も遂に魂魄炎上、燃え尽きた灰に火が入っちまったな!
『TRPGとは問いかけ(クエリー)』とは、ロンメルゲームズ長田さんの言葉でありますが。
かつて全人類を敵に回し、色んな人の大切なものを踏みにじって征服者面してた男が、今度は踏みにじられる立場になって自分を殺した男に頭垂れてくる矛盾に、勇者の魂は淀みから引っ張り上げられ、怒りとともに問いを投げる。
このせめぎあいがお互いの魂の真芯にある、譲れぬスタイルを暴き立てキャラを立てていくわけで、やっぱキャスト同士の問答シーンは素晴らしい。
勇者の怒りが燃え広がる形で、最初卑俗だった魔王様が生来の尊大さを取り戻し、堂々優しいエゴを叫ぶようになる呼応も良い。
勇者がブチギレてる魔王様の極悪非道を背景に押しやり、すったもんだあった末の最終決戦から彼らの関係性を初めている所が、この作品の強みたる気持ちの良い省略の一環だとも思うわけですが。
永生の呪いを身に受けて、勇者は魔王の憂鬱を身を持って思い知り、魔王は勇者に一度殺されどん底に落とされることで、すべてを奪われた仇敵が彼を殺し得た強さを知った。
500年の時を経て、馴れ合い訳では無いが手を取り合える関係へと変化した二人が、お互いの因子を取り入れて、譲り合えるポイントを探り当てている様子も良かったです。
勇者が口を開く度、ツンデレライバルが言うべきことが飛び出してくるのも最高。
今回の勇者大復活&連合結成、あのうどん屋での煤けた現状確認&手を取り合えないすれ違いがあってこそアガる展開であり、あの時期待した全部がドバっと押し寄せて来て、最高の体験だった。
やっぱ大興奮のサビを必然とするためには、効果的に音量を絞って期待を高める展開が必要であり、そういう定番をキッチリ踏んでシッカリ盛り上げてくれるの、最高なんスよね…。
様式美、ベタ足、悪く言えばありふれた定型。
ここら辺の味がとびきりうまく感じるのは、物語情報のオリジナリティより伝達性を重視するスタイルでもって、TRPG遊び続けてきたからなんだろうなぁ…。
ええ、最高にベタで最高に気持ちが良いですこのアニメ。
あと”全体か個人か”という問いかけを勇者が投げて、魔王が欲張りな第三の答えで打ち返す展開も素晴らしかった。
この問いかけ、大概のファンタジーでは勇者が投げかけられる側であり、魔王ぶっ倒した後全体に殺された個人そのものであるグラムが言うのが、コクがある転倒で素晴らしい。
「街か女か」という二択を解決する魔王の答えは、どう考えても社長を薪にするベストチョイスであり、マキナ確保して悦に入ってるマルキュスの全てが奪われる決着を予期させる意味でも、大変良かったな。
そらそーだ、あんだけの悪行積み重ねての決着、自業自得以外道ねぇよなぁ…。
新宿の空に燦然と輝く六尺玉となり、燃えろマルキュス大社長!
そんな未来は次回以降として、勇者は古のダンジョン侘び寂びをぶっ飛ばし、効率的なダンジョンハックをオリジナル魔法でキメる。
ようやっと肩を並べてキャッキャ出来るということで、脂が乗りすぎた二人に高橋GMが「イチャイチャは良いですけど、本筋戻ってくださいねッ!」と釘を刺す光景、三億回くらい見たわぁ…(TRPG者特有の幻視)
外部サポート要員である高橋が、メチャクチャキマったサイバーパンク情景に身を置いて、エーテルハッキングしてるの良かったな…。
そこまで超クオリティってわけではないが、勝負どころで的確な”絵”を差し込めているのは、このアニメの良いところ。
囚われマキナの社長絶対ぶっ殺し顔もいい感じだったし、立ちふさがる抜刀秘書のポジショニングも、勇者が「ココは任せて先に行け」の型叩き込むのにベストだし。
いやー…期待しか高まんねぇなマジッ!
木ノ原が油断ならない強敵だっていう描写は結構やっているので、こっからのマッチアップも面白いもの見れそうで、そういう所もいいです。
程よく先が読めて、しかしどのくらい面白いのか全く侮れない油断できない。
エンタメを見干すのに最高の腹加減をシッカリ整えての、新宿魔炉決戦。
次回も最高に気持ちよくしてくれそうで、めちゃくちゃ楽しみです。
俺、このアニメ好きだわ…。