イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

プレイレポート 2024/12/20 愛と有刺鉄線

 金曜日の夜に、一次大戦を舞台にした超ナラティブテキストTRPG”愛と有刺鉄線”にお誘いいただいて、三度目のプレイを堪能してきました。
 大変面白かったです!

 システム:愛と有刺鉄線

 中野くん:デーヴィッド・グリーン:19歳男性:イギリス人 やくざ者と娼婦の間に生まれ、都市最下層をトンガリながら生きてきた二十世紀初頭のパンクス。徴兵により過酷な戦場に投げ込まれ、強がりの鎧を絶望によって引っ剥がされた時、唯一残ったものは愛であった。

 千本松さん:アニカ・ガンジー:17歳女性:インド系イギリス人 移民二世としてゴミ溜めのような貧民街に生まれ、慈愛と希望を忘れぬ生き方を続けてきた少女。ふとしたきっかけで助けた少年が戦場に向かった後、過酷すぎる現実に銃後でも襲われつつ、生きるという戦いを諦めない戦士。

 無垢さん:ライラ・パターソン:イギリス人:26歳女性 ごくごく平凡な中流家庭に生まれ、生き遅れ気味の身の上を花嫁修業を強要する家に囚われながら過ごしている女性。戦雲がそんな日常を脅かす中、本当に大事なものに気づいていく。

 コバヤシ:ジョナサン・ニューベリー:26歳男性 牧師のせがれとして生まれ、自分が何者であるのか答えを得れないまま、茫漠と過ごしてきた青年。戦場を生き延びながらも英雄としてではなく、唯一人の人間として過酷な試練の中、自分の形を探していく。


 このような連中が、巡りくる季節の中トランプ様が告げる運命に翻弄され、不穏な気配に震えたり、過酷な現実に打ちのめされたり、それでもなお生きる意味を掴み取ったり、シビアな時代だからこそ輝く人間の証明を、5つの手紙に刻みつけ駆け抜けていきました。
 今回はカードの導きが明るい方向に転がり、初の参加者全員生還で終わることが出来て、PL一同大変ホッとしました。
 つーか自分、デッドエンドにならなかったの三回プレイして初めてだよ……。

 このシビアな感じが、沢山の人達の希望と人生を飲み込み噛み砕いていった、世界大戦という怪物の恐ろしさとしっかり響き合って、ずっしり重たくも手応えのあるゲーム体験を生み出しているのは、本当に良く出来ているなぁと遊ぶ度思います。
 今回は持ち時間が比較的長めだったので、いつもより長いレシートみたいな文章を山盛り打ち込んで、長めの寝言垂れ流しにしたいマンとしては大変満足でした。

 

 過去遊んだ時も、シビアで切実な時代設定と、シンプルながらシステムの構成要素全てがガッチリ世界観と噛み合い、特別で濃厚なゲーム体験を生み出す設計に感動したものでしたが、久々にプレイしてみても惚れ惚れするシステムで、大変楽しかったです。
 今回無垢さんとは初同卓でペアということで、「あんまアクセル踏みすぎたキャラだと、キャッチボールに困るだろうなぁ」と思い、自分なりにスタンダードな感じの迷える青年(やや年嵩)を投入したわけですが、その平凡さが引いたカードといい感じに噛み合い、死と理不尽に満ち溢れた世界で何かを見つける物語を、しっかり走りきれたと思います。

 五感をキーワードにプレゼントをやり取りし、その手触りが地獄で己を保つ唯一の縁になったり、妙にシンクロしたカード引きで運命が上向きになっていったり、このシステムならではの物語生成、戦場と銃後に引き裂かれた恋人たちの未来を、たっぷり楽しむことが出来ました。
 やや歳上なこっちサイドが結構いい感じに希望に向かって進む中、隣では戦場の暗い引力に若い二人がズンズン惹かれていって、この明暗の対比も面白かったなぁ……。

 

 というわけで、大変楽しい時間を過ごさせていただきました。
 良いセッションでした。
 同卓していただいた方、ありがとうございました!

 

 

 

 

 

 

※ジョナサン・ニューベリーからの5つの手紙

 

・夏 スペード(負傷)
 親愛なるライラへ。
 役立たずはベッドの中で撃ち抜かれた片足を抱えたまま、この手紙を書いています。
 お国のために戦う英雄になれとがなり立てられ、その気になって身を乗り出してみたら、ドイツ野郎の銃弾がその意気を砕いたのはなんとも皮肉であり、また順当な結末だったかと思います。
 除隊になって田舎に戻れるほどにはひどくなく、傷を背負ってすぐさま戦場にたち帰れるほどには僕も勇士ではなく、ひどく曖昧で不鮮明な時間を、なんとはなしに過ごしています。

 それは何者でもないままあの、出口のない僕らの故郷に縛り付けられていた時間とそっくりで、地獄に送り込まれても結局その長い影から逃げられない自分に、うんざりしつつ妙な安心感を覚えています。
 子どもがどれだけ汚れても投げ捨てられない毛布のように、己のロクでもなさに溺れて腐っていかないように、何か僕を奮い立ててくれるようなものを贈ってくれると、とても嬉しいです。
 勿論、そうする余裕があるのならば、ですが。
 あるいはそんなものを貴方から借り受けなくとも、足の痛みを乗り越えて戦場に立ち向かえるだけの男にならなきゃいけないのかな?
 自分が何者であるかを掴むには、僕が戦場に身を置いた時間はあまりに短く、考えることが多すぎるベッドに縛り付けられている時間は長いです。
 この愚痴が、そんな事もあったねと笑い飛ばせる未来が僕らに待っていることを祈りつつ。
 さようなら。

 

 

 

・秋 ダイヤ(敬意)
 親愛なるライラへ。
 押し花をありがとう。
 戦場にも花は咲くけども、膝まで血のプールが出来ているような場所ではそれを啜って咲いているような感じがして、とても手に取る気にはなりません。
 共に牧場での仕事を手伝った時、貴方が戯れに作ってくれた花冠はあんなにも美しく、いい匂いがしたというのに、その思い出も遥か遠くにあるかのようです。

 うだるように暑い季節を病院で過ごし、ようやく戦場に戻ってみて、僕ははじめて人を殺しました。
 それは意図しない遭遇戦というやつで、スコップを握ったドイツ兵が僕の仲間を殺そうとしたので、思わず引き金を引いたら、あたって死んでしまいました。
 あまりにあっけなく実感がなくて、咲いている花を手折るよりも簡単に人が死んでしまう場所に、僕は今いることを思い知らされました。
 傷つき動揺もしているのでしょうが、僕が救ってしまった形になった戦友はまるで救国の英雄を崇め奉る余暇のように僕を褒めそやし、心の膿んだ部分をどう吐き出せば良いのか、未だ答えは出ません。
 その手触りはあの村にいた時よりも生々しく、同時にひどくぼやけた手触りをしていて、貴方とともに過ごした時間はもう遠い夢のようです。

 懐かしく、愛しい気持ちだと言えたのならどれだけ良かったかと思いますが、正直な気持ちを書けば全く持って不鮮明な抽象絵画のようで、貴方がくれた絵葉書に描かれていた、パウル・クレーとかいう画家のワケのわからない絵は、時代の精神を正しく切り取った傑作なのだと思います。
 形の見えない不鮮明な世界に囚われながら、僕は悪い夢の出口を探してもがき、その度貴方のことを思います。
 貴方と共に過ごした、なんでもないと思っていた時間がどれだけ輝いていたかを、この悪い夢の中で思い知っています。
 僕が手応えのある何者かになれるのは、結局貴方を思うときだけです。
 遠い最前線で、遠い過去を思い出す時、それがどれだけ偉大で優しい時間だったかという懐旧だけが、僕と正気を繋いでくれます。
 帰りたいですが、帰ることは許されません。
 悪夢から覚めるには、押し花には匂いがなさすぎます。

 文末の定型句が、これだけの熱を持って自分の中に意味を持っている事実が、未だ魂が死んでいない証明となることをありがたく思いながら。
 戦場より愛を込めて。

 

 


・冬 ハート(愛について)
 親愛なるライラへ。
 刺繍のついたハンカチをありがとう。
 水色は好きでも嫌いでもない色ですが、ここで曇り空の灰色と血の赤が嫌いになったので、抜けるような空の色はそれを弾き飛ばすようで、とても嬉しい限りです。
 色も薫りも全てがあせていくような、延々同じことの繰り返しのように思えて、ひどくあっけなく昨日まで共に話していたやつがいなくなってしまう、不条理で理不尽な場所においては、貴方が届けてくれる色や薫りの名残が、唯一自分に居場所を与えてくれます。

 このハンカチさえあれば、戦って生き延びることが出来ると、神話の勇士のように高らかに吠えることが出来たのならば、どれだけ良かったのでしょう。
 しかしどんだけ掘っても水が出てくるぬかるんだ地面と、その湿気で足を切り落とさなきゃいけないほどひどくなる水虫と、轟音の後に何もかもが弾け飛ぶ砲弾で構成されたツギハギの世界で、確かなものは何もありません。
 この灰色の混乱に飲み込まれて、頭がオカシクなってしまった連中をたくさん見てきたし、狂うよりも早く死神に追いつかれた連中も沢山見送ってきました。
 自分がそこに混ざっていないのはただの偶然のようであり、貴方から送られてきた正気の世界の名残をつなぎ合わせて、なんとか命綱にしているような気分でもあります。

 貴方もこの理不尽な世界を生きているのですから、足元が突然砕けて現実の底が抜けるような感覚に、急に襲われることもあるのでしょう。
 それは戦場でも日常でも関係なく、唐突に私達を襲って引き裂くものだと思います。
 希望とともに幕を開けた二十世紀の始まり、私達は何のおそれもない子どもであり、無料で配られるリコリスの飴に舌鼓をうちながら、科学が明るい未来を切り開いてくれる夢を見ていました。
 今その科学は毒ガスを生み出し、ぬかるみに頭を沈めて必死に最悪をやり過ごそうとしている僕らを、塹壕の中で窒息させようとしています。
 後に多分、理不尽と狂気の時代と刻まれるだろう今を必死に生き延びながら、削り取られていく魂の奥で貴方への愛だけが脈を打っていることを、つくづく感じます。
 それは情熱の赤ではなく、爽やかな水色をした感情です。
 そこに手を触れると、生き延び帰って貴方にもう一度会わなければならないと、自分をつなぎとめるものが確かにそこにあることを思い出せます。

 私達の正気を、神様が見守り保ってくれますように。
 あれだけ嫌いだった祈りが、どのような場所から湧き上がってくるのかを実地で思い知りながら。
 戦場より、愛を込めて。

 

 

 


・春 ハート(愛について)
 親愛なるライラへ。
 灰色の雪に包囲された季節が終わり、雪解けは塹壕にひどいぬかるみを連れてきました。
 どこを歩いてもブーツが泥に塗れ、靴下が濡れて放っておけば足を切り落とすほどにヒドい塹壕足になってしまうので、僕らは選択屋のおばさんよりも丁寧に、自分たちの靴下を扱っています。
 人間があまりにもあっけなくその生命を終えてしまう、残酷で理不尽な場所にも確かに生活はあり、色も匂いも僕を見放していない事を思い出せる程度には、僕もこの戦場に慣れてきました。
 人殺しにはいつまで経っても慣れる気配がなく、しかしその違和感を口にすれば臆病者や裏切り者呼ばわりされるわけで、この手紙の中でしか僕の迷いを語ることは出来ません。
 くだらなく女々しい、この忌々しい春よりも湿って粘つく僕の思いを受け止めてくれて、大変ありがたく思っています。

 そんな最悪の場所にも花は咲くもので、この前すみれを見かけました。
 戦友の故郷ではこれを砂糖漬けにして食べるそうで、世の中には色んな場所があり、色んな風習があり、色んな日常と幸せがあるのだと感じました。
 いつかこの悪夢が開けて、貴方のもとに戻ることが出来たのなら、すみれの砂糖漬けを取り寄せて一緒に食べてみるのも、面白いのかもしれません。
 人殺しを繰り返しながら、すみれの砂糖漬けのことを考えているなんてなんとも奇妙で理不尽なものですが、そういう不思議な取り合わせが、説明のつかない乱雑な結び合わせが、僕らが生きていることなのではないかと、ようやく思えるようにはなってきました。

 そうなれたのは貴方が僕の世界に色や匂いを、生きている実感を取り戻させてくれたおかげであり、この手紙はまさに命綱として、僕の正気と生きる力を現世に繋ぎ止めてくれました。
 どれだけ世界が灰色に思えて、何処にも生きるに足りる自分がいないように思えたとしても、私に繋がった貴方の魂は、確かに私が何処にいるかを教えてくれます。
 それを手繰り寄せ、抱きしめることが許されるのであれば、罪と汚濁に塗れたこの身も、色と匂いと音に満ちた世界へと戻っていける気がします。
 帰れる保証もなく、未来への約束も何も出来ない立場ではありますが、無事帰れた時は貴方に求婚したく思っています。
 戦場では時計は壊れてしまっていて、貴方が身を置く故郷と時の流れも、運命の行く末も違うかもしれませんが、僕の胸の高鳴りがそのズレを正してくれることを願いながら、明日へ正気を繋ぎます。
 世界中の人が、早くこの悪い夢から醒めますように。
 

 

 


・再びの夏 (ハート/愛について)
 親愛なるライラへ。
 始まったときと同じく、戦争は唐突に終わりを告げて、どうやら僕は故郷へ帰ることが出来そうです。
 沢山の人を殺し、血に汚れて生き延びて何をなすべきか。
 この場所で見届け体感した理不尽の海を忘れて、なにか生きる意味や価値が世界には確かにあるのだと信じて無邪気に生きていくのは、とても難しそうです。
 停戦のベルが鳴り響き、悪夢からいきなり目覚めたとしても、その名残は僕の心と魂の中に深く突き刺さって、けして抜けはしないでしょう。

 しかしそんな日々を過ごしながらも、僕は故郷にぼんやり突っ立っていた時よりも自分が何者であるかを、確かに掴み取れた気がします。
 あるいは何者でもない自分が、明日理不尽に死ぬかもしれない世界が、それでも色と音と香りに満ち、生きるに足りる場所であることを、なんとか信じ切ることが出来た、というべきでしょうか。
 帰郷の支度をしながら、戦友が分けてくれたすみれの砂糖漬けを食べました。
 想像の中では天井の美味だったはずのそれは、正直あまり美味しいものではなく、それでも貴方に食べて欲しいものだと思いました。
 どんなぬかるみの中にいても私は生きて貴方を愛したいと願い、貴方が手渡してくれたものを頼りにして、なんとか人の形を保ってきました。
 それは世界ではなく私の中に確かにあって、世界へと広がって意味を繋げてくれるものでした。
 もはや薫りのしない押し花も、水色の刺繍をしたハンカチも、香水を染み込ませた手紙も、私の正気を繋いでくれた全てを、私は大事に守り通しました。
 それこそが、多分私の戦いだったのです。
 私と同じ人間でしかないドイツ人を殺す、肉体の戦いではなくそれこそが、ここで私が成し遂げたことなのだと、愚かにも私は思い込みたいのです。

 父が説教で告げる「愛こそすべて」なる言葉が、僕にはどうにも空ごとに聞こえてならず、ずっと嫌いでした。
 しかし神の愛のカケラもない戦場に身を置き、滑稽で愛すべき戦友たちが枯れ木のようにあっけなく死んでいく体験を間近にして、愛だけが私達を地上に繋ぎ止め、いつか高い場所へと解き放ってくれるものなのだということを、知ることが出来ました。
 なんでも説教に結びつける父ならば、見神ということに為るのでしょうが、私にとってはひどく平凡で人間的な、貴方への愛の再発見ということになります。

 無事故郷にたどり着き、貴方にもう一度会えた時、人生の輝かしい光を共にしたいと、心から願っています。
 これから先の日常がどのように流れていくかは僕には未だわかりませんが、あの灰色の悪夢を思い出せば、あらゆる場所が天国でしょう。
 そこに貴方がいてくれるのならば、これ以上望むものはありません。
 ようやく帰ることが出来ます。
 悪夢は醒め、僕は何者でもない自分の影から醒めたのです。
 僕はジョナサン・ニューベリー
 貴方を愛している、戦場帰りの傷ついた男です。