昨日はシェンツさんとTRPGタイマン収め!
超ナラティブ系テキストベースヒストリカル”愛と有刺鉄線”を遊んできました!
シェンツさん:ウィリアム:アーチャー:20歳男性 祖父の代で貴族階級に成り上がった家に、ノブレス・オブリージュを押し付けられる形で最前線に放り出された青年。塹壕に積み上がる死体を前に、明日もしれぬ泥濘から星を夢見る日々の先に待つものとは……。
コバヤシ:キャサリン・マーガレット:15歳女性 アーチボルト家に仕える低級メイドであり、身分違いの恋を花開かせる前に戦雲が全てを覆っていった激動の子。時代の大嵐に運命を翻弄されつつ、新たな生き方を見つけていく。
というわけでシステム初体験なシェンツさんを相方に、一次大戦の激動に引き裂かれていく若き男女の運命を、カードの導きに従い己の手で描くゲームを遊びました。
やっぱ史実要素がギュギュッと圧縮されたゲーム体験、先の見えないカードに物語の行方を委ねるハラハラ感は大変独特で、独自のTRPG筋を使う気持ちの良さがあります。
僕が早々にスペード二枚引いて、もはや円満なハッピーエンドは望めない流れになったわけですが、銃後にいればこそ冷静に時代の趨勢を見れる……見ざるを得ない立場になってしまった元少女と、地獄を目の当たりにしたからこそ新たな希望を見つけた男の対比が、物悲しくも独自の面白さを醸し出していました。
最初は「イノセントな感じの、お花が大好きな純情少女をやるぞ!」みたいな気持ちだったのですが、黒いカードに過酷な運命を突きつけられると、慣れ親しんだ擦れっ枯らしのインテリっぷりに言動が染まっていって、「どうあがいてもこういう味に染まっていくんだな……」という納得があった。
やっぱ史劇だからこそ生まれる独特のコクってやつがあって、シェンツさんがこういうネタの分解酵素が濃いのもあって、大変楽しい時間を過ごすことが出来ました。
楽しいセッションありがとうございました!
今年も色々TRPGをさせていただいて、お声がけいただける方々にはどれだけ感謝しても足りません。
次第に時流についていけなくなっている自分の衰えを感じつつ、卓を一緒にしていただけるありがたさを噛み締めながら、また来年も楽しい時間を過ごさせていただければ何よりと思います。
良いお年、良いセッションを。
一年間、ありがとうございました。
※キャサリン・マーガレットからの手紙
・夏 (ハート/愛)
親愛なるウィリアム様へ。
手紙を書くことがあまりなかったので、自分が正しく書けているかとても不安ですが、お手紙をしたためさせて頂きます。
お屋敷はすっかり夏の気配で、爽やかな風の中で藤棚が優しく揺れて、花の香に誘われた蜂たちが元気に飛び回っています。
蝶たちの番が踊るように庭を進んでいるのを見ると、虫たちすら愛を語らうことを許されているのに、私達が人目を避け、陰の中に身を潜めていた寂しさが、心に宿ります。
その寂寥すらも、ウィリアム様と遠く戦場に離れ、無事のご帰還を待ちわびている今となっては、大変な贅沢だったのだと思い知っています。
口さがない同僚たちは景気の悪化だとか、国同士の争いが及ぼす影響に不安を募らせ、明日の見えない日々に悪態をついています。
お館様のお仕事があまり順調ではないという噂も聞こえてきますが、戦争さえ終わればこのお屋敷も明るさを取り戻し、平和で楽しい日々が戻ってくると私は信じています。
そこには必ずウィリアム様がいて、私の隣で笑ってくれるとも。
戦場で立派に戦えば、お父様も必ずウィリアム様を認めてくださると思います。
祖国のために、数多苦しむ人のために、貴族の義務を見事にお果たしくださることを願っています。
盛りの赤いバラをいくつか、押し花にしたので手紙に同封させていただきました。
戦場で役に立つものではないと思いますが、私の気持ちだと思っていただければ幸いです。
愛を込めて、キャシー。
・秋(スペード/関係性の終わりについて)
親愛なるウィリアム様へ。
同封したバラの押し花は御用にかなったようで、大変嬉しい限りです。
暑い夏が嘘だったかのように秋の気配がお屋敷にも迫り、次第に枯れていく草花を見ていると、微かな憂鬱が募ります。
それでも確かに彼らが生きていることを、土を耕し鋏を入れていると感じるものです。
そんな秋の寂寥の中、お屋敷はすっかり広く感じられるようになりました。
前回お伝えしたお館様の事業の危うさは、噂で収まるものではなく、食事を切り詰め家財を処分し、どうにか貴族としての体面を保とうともがく中で、私の同僚も幾人か暇を出されました。
あの銀食器も、セザンヌの絵画も、愛すべきハーキュリーズ号すらも人手に渡ってしまいました。
景気の悪化とともにこのような下り坂に足を踏み入れる家もいくつかあると、噂では聞いていたわけですが、まさかアーチボルト家がその当事者になるとは思っておりませんでした。
余裕がなくなってくると人も変わるもので、メイド長も執事頭もどこかピリピリしていて、苛立ちと不安が屋敷を覆っています。
寒い冬となりそうですが、懐にある花を温めながら、ウィリアム様のご帰還を待ちわびています。
屋敷を広く感じるのは人員整理だけでなく、徴兵によって男手が戦場に送られた結果でもあります。
かつて小さな傷に右往左往できた幼い日が、まるで夢であったかのように現実はその残酷さを深めていきます。
私達はどこに行くのか、全く解らない不安に苛まれつつ、貴方がここに戻って来る日を心より待ちわびております。
また、花を送ります。
それを見て、私を思い出してください。
愛を込めて、キャシー。
・冬(スペード/関係性の終わりについて)
おそらくこれが最後の手紙になると思います。
雪が降りしきるにつれお屋敷の空気はどんどんと暗くなり、今年一番の大雪が降ったあの日、管財人が屋敷の差し押さえを宣言しました。
お館様の事業はとうの昔に破綻を迎え、微かに露命を繋いでいた虚飾が、ぶっつりと断ち切られた結果でした。
アーチボルト家が雇っていた全ての人員は解雇され、全ての土地と財産は借財の返済のため売却されることとなりました。
ウィリアム様が帰るべきお屋敷は、もうありません。
私もそこにいるわけにはいかないのです。
大急ぎで着の身着のまま、お屋敷を出る支度を整える合間にこの手紙を書いています。
家の一大事ですが、兵士であるウィリアム様を故郷へと戻す算段はつかず、戦争以来の大嵐に巻き込まれたまま、私達の家はバラバラになってしまいます。
戦争さえなかったのならと、叶わぬ願いを天にかけたくもなりますが、それが虚しいことも解っているつもりです。
貴方あの花壇で一緒に笑いあったあの頃、心を満たしていた幸せな夢はもう叶うことはありません。
もとより天涯孤独のみをお館様に拾われ、戻るところもありませんが、それでも生きていかねばならないようです。
いつかもう一度花を育てられたら良いなとは思っておりますが、そもそも明日の食事もおぼつかない中で、そんな贅沢な夢を見る権利は私にはないのでしょう。
貴方のことが好きでした。
しかしわたしたちを閉じ込め繋いでくれていたあのお屋敷無き後、もう一度出会えるとは思えません。
だからさようならを。
もう会うこともないでしょうが、無事を心よりお祈りしております。
愛を込めて、永遠に。
貴方のキャシー。
・春(クラブ/恐怖について)
キャサリン・マーガレットの手記
あの冬からしばらくの時が過ぎ、我が身を襲った大嵐にも少しの落ち着きが見えた。
戦争が呼び込んだ不景気が、多くのの恵まれぬ人を路上に殺した厳冬も緩み、私もこのように久々にペンを取る事ができる。
お屋敷を追い出されるように後にし、おぼつかない足取りでロンドンへ流れてきた私だが、私達をこんな運命に投げ込んだ戦争が生み出してくれた人手不足が、とりあえずの職と寝床を用意してくれた。
女であろうと、花の世話しか知らない幼子だろうと、今のイギリスの余裕の無さは社会に組み込み、なんとか取り繕ってギリギリ、世間というものを維持している。
その余裕の無さゆえに、こうして隙間風が吹き込む屋根裏に”我が家”を確保できているのだから不思議なものだ。
メイドとしての責務から離れてみると、社会情勢というものが少しは目に入るようになってきた。
戦争は泥沼のように果てを知ることなく、そこで散っていく命一つ一つの尊さなどなんでもないかのように、アメーバのように不気味な増殖を続けている。
私達のお屋敷だけでなく、イギリス全部、世界全部を飲み込まなければ気がすまないあの怪物は、ウィリアム様の血も啜って育っているのだろう。
もはやもう二度と会えないけれども、最後に受け取った手紙に書かれていた言葉を胸にしまい込みつつ、その無事を祈る。
イギリス中の母と恋人たちが、あるいはドイツで同じ顔をしている女たちのみなが、同じように祈っているのだろう。
そういう祈りすら飲み干して、わらのように人命や希望が食いつぶされていく巨大な怪物こそが世界の真実の姿だと、この戦争は我々に突きつけている。
日々を生きるのに必死な立場に追い出されてみると、刹那的な虚無主義が時代の精神として、街の空気に染み出しているのには納得がいく。
そうやって変化していく……あるいは生ぬるい夢から覚めて現実を見つめだした世界よりも、それを飲み干せてしまう自分にこそ恐怖を感じている。
慣れていく。
ウィリアム様が明日にも死んでしまうだろう戦場の残酷にも、それを嘆きつつ眼の前の生活を、明日のパンを、どうにか乗り越えていこうとする自分の貪欲な生存能力にも。
花はもう、随分と手に取っていない。
夢に見るのは出会った頃のあの光ではなくて、形のない灰色の、名前のつけられない泥のような色だけだ。
その灰色にも慣れてしまっていることが、一番怖い。
・再びの夏(ハート/愛について)
キャサリン・マーガレットの手記
戦争が終わった。
私が純朴でいられた時代、私達のお屋敷、私とウィリアム様の思い出を何もかもバラバラに引き裂き、街の片隅に投げ捨てた戦争が終わった。
終わってしまうとあっけないもので、恨み言を言っているよりも明日どこへ進み出すべきかを、まず考えることにする。
メイド長であれば眉をひそめること間違いなしの、”新しい女”という奴に私も否応なく成った。
嘆きと恨み言だけで過去に自分を縛り付け、甘く温かい思い出だけを反芻して生きていけるほど私は貞淑ではなかったし、時代は常に現実的であることを我々に求めている。
最悪にして幸いなことに、女が屋敷や台所や花壇に縛り付けられることなく生きていく道も、この戦争が強引にこじ開けてくれた。
市民大学の公開講座に滑り込み、労働に疲れ果てた体を書物に向かわせる日々を経て、私は物書きとしての仕事を少しずつ増やしつつある。
花の世話しか知らなかった小娘として意外でもあるが、案外モノを読み、ものを書く才能というやつが自分の中にはあったようだ。
こうして綴ってきた日記もまぁまぁな量になったが、その全てが実際には何処にも行く宛のない恋文だということを、私だけ走っている。
ウィリアム様の手紙はもはや届くこともなく、生きているのか死んでいるのかも解らない状況であるけど、灰色の世界の中に一つ燦然と、未だ赤く愛が消えずにいる。
あの人のことを忘れてしまえば、もっと楽に生きられると解っていても、ふとした瞬間に思い出す。
あの無防備で曇りのない笑顔、触れ合った手の熱さ、重なることのなかった唇。
もはや届くことのないからこそ、その記憶は消えない疼きを胸の奥に燃やして、消えてくれない。
この決着のつかない難問を抱え込んだまま、私はこの街で一人どうにか生きていくことになるだろう。
未来はわからない。
これだけの人命を失い、社会を壊した愚行を経てなお、世界を巻き込むような戦争がもう一度起こるかもしれない。
耐え難い痛みにも、受け入れがたい喪失にも人間は慣れて、なんとか生きてしまえるものだということを、私は自分を実例として良く知っている。
それでもなお、灰色ばっかりが世界の色ではないことも。
それを伝えられるように、物書きの仕事にもう少し熱心になろう。
ペンは銃弾よりも強いのか、試される日々はまた来るだろう。
人間という動物は、絶望程度でそのあり方を変えるには、あまりにもしぶとすぎるのだから。
バラの鉢植えを買おうかと思う。
赤い、私の終わらない恋の色をしたバラを。
戦争も終わったのだし。