何も掴めていない虚しい掌を、満たすものはどこに在るのだろう。
俺たち青春ど真ん中、すももが丘高校最初の”勝負”…その末尾を飾る二人の軌跡を描く、花修羅アニメ第8話である。
冒頭、西園寺修羅の圧倒的なパフォーマンスと、それに打ちひしがれつつ決意を新たにする少女たちの群像。
それを追い風に、職人気質な冬賀くんと自己卑下の鬼たる箱山先輩、二人の裏方が眩しく輝く連祷を、丁寧に折り重ねてくれた。
先週から集団製作が主題となり、色んな連中が集って影響し合う”部活”の爽やかな風を、心地よく感じれているこのアニメ。
ここまでフォーカスされなかった二人の関係が、手応え満載で迫ってきた。
追い求める理想が高すぎて、周りを置き去りに摩擦熱を生み出してしまう気性を、どうにも巧く乗りこなせはしない冬賀くん。
それを巧くハンドリングして、苦悩の余地を残したまま”部活”が破綻しないよう、精妙に顧問やってる吉祥寺先生の巧さと優しさが、見えてくるエピソードでもあった。
生徒べったりの暑苦しい距離感ではないが、シビアに放送部で”勝つ”ための方策を睨みつけつつ、生徒個人の顔をちゃんと見た上で適切な提案を差し出せる彼は、優秀だし優しいと思う。
そういう人が維持する場所で、子ども達はお互いに影響し合って変化し、変わった部分が共鳴し合う。
物語の始まりにおいては超ジメジメ、スーパー湿度で島に閉じこもっていた花奈も、瑞希先輩や杏ちゃんと触れ合うなかで、何かが出来る自分の強さを見つけてきた。
そんな彼女の変化が、日傘の奥に自己卑下を湿らせる箱山先輩にも響く回なわけだが、自分にとっての”普通”が誰かにとっての”特別”だというネジレの自覚が、この人間関係のドミノには影響している。
それは花奈の朗読を取材し、率直に自分の感動を伝えてくれた松雪くんの歩み寄りが、生み出した変化だと思う。
そんなふうに、色んな人たちが自分を譲ることなく、しかし相手を否定することもなく響き合って、ちょっとずつ変わっていく。
それは新しくて見知らぬ自分であると同時に、もっと自分らしい本来の顔を宿してもいる。
良いものを良いと認める杏ちゃんのデレに、冬賀くんは最後驚くけども、これも部活の中で花奈とぶつかり合い、認めあったからこそ見えた地金だと思う。
”普通”だと一度投げ捨てたピアノに帰還し、今の自分…共にひとつの作品を作り上げた仲間に相応しい音楽を、ギリギリ見つけられた冬賀くんの変化にも、先進と帰還が不思議に同居している。
自分の根源に立ち戻ればこそ、新たに翼を広げて進み出すことも出来る、人間の面白さ。
それが群像に照らされて、なんとも眩しいエピソードだった。
他のメンバーの熱い青春群像劇に押しやられて、冬賀くんと箱山先輩メインのお話はここまで待たされることになったが、それに相応しい仕上がりだったのも嬉しい。
島から出て部活に入ったことで見つけられた、朗読にかける強い思い。
圧倒的な才能に頭を殴られて、むしろ燃え上がるその思いが自分だけの”特別”なのだと、今の花奈は笑って認められる。
そんな心の足場から、箱山先輩に差し伸べた手に引っ張り上げられて、振り回されつつもその凄さを間近に思い知った後輩に、先輩も助け舟を出せる。
そうして生まれた音楽には分厚い説得力があって、周囲をかき乱すアーティスト気質も冬賀くんの個性と、飲める流れを生んでいた。
放送部を主題にしたアニメらしく、音鳴らすところと黙らせるところのメリハリが力強いこの作品。
今回はラストのピアノを際立たせるために、そこに至るまで巧く音楽を殺した演出も良く聴いていた。
花、風、水、鳥。
ここまでも積み重なってきたモチーフが、新たなキャラクターのドラマでも元気に活かされていたのも、群像連作としてのまとまりを感じれて良い。
これでひとしきり、部活内部でのドラマ(それを通じてのキャラクター表現)が収まり、物語も新たな局面に進み出していくのだろうけど、それをワクワク楽しみに待ちたくなるような、よいフィナーレだった。
ここで音楽での勝負に来るの、かなり好きな運びだな…。




というわけで、散々お膳立てした上でぶっ放される、作中最強生物の領域展開。
花奈の朗読が眼の前の人を、狭い異世界に引っ張り込む感じで展開するのに対し、修羅の朗読は”街”へと一気に広げ、術師が目の前にいなくてもその世界に包みこまれる、異質な存在感を可視化していた。
孤独とすれ違いを主題とした詩なので、この広いからこそ寂しい領域展開は、凄いだけでなく正しくもあるのだろう。
芸事の凄みをアニメに落とし込むために、異質な空間展開するの、アイカツのスペシャルアピールとかプリリズの連続ジャンプの文脈だよなぁ…。
モチーフの操作が話数を超えて一貫しており、花奈であれば「風に揺れる花」をどう描くかが、彼女の内心や変化を画面に焼き付けるアンカーとなっているこのアニメ。
地べたを這いずる陰花から始まり、高く伸びて風に乗る成長の軌跡がここまでの話数描かれてきたわけだが、修羅の朗読に圧倒された今回冒頭、花は再び低いアングルから切り取られ、地面に縫い止められる。
それは知らず天狗になっていた鼻をへし折られ、圧倒的な本物との出会いに震える花奈の、原点回帰を示している。
しかしそこで後ろ向きに後ずさるのではなく、むしろ謙虚にさせてもらったと燃え上がって、想いを叫ぶのが今の春山花奈である。
アツいぜ…。
この風に乗っかって、自分もツンツンの仮面引っ剥がして思いを吠える杏ちゃんの、らしからぬ熱も大変いい。
少女たちの青春を横からカメラが切り取る時、美しい水と風が彼女たちを取り巻いていて、そこにもまた花がある。
これまで幾度か、水に囲まれた島から巣立ち、また島に戻り、命の潤いを与えてくれる水に見守られながら進行してきた物語が、新たな一歩を踏み出す画面は、極めて精妙なモチーフ選択によって支えられている。
ここら辺のカッチリした画面構成、演出の連続性をずーっと続けてくれているのが、映像詩としての一貫性を感じられて好きなポイントである。
同一モチーフを別話数、別キャラに広げることで、横幅出るし
島から引っ張り出されて以来、花奈はかなりの人間的成長を遂げている。
天性の湿った陰あればこそ、朗読に迫力を宿せる彼女は、しかし元々あった”自分らしさ”に満足することなく、色んな人と触れ合い、影響を受けて新しい自分へと花開いていく。
今回修羅の才能にぶん殴られて揺らぎ、その動揺をむしろ喜ばしく受け止める逞しさが見えたこと…それを己の外側に叫ぶことで、部活の仲間に伝播させていく姿は、とても頼もしかった。
こういう変化が適切に可視化されてわかりやすく、また爽やかで好ましいのは、作品全体が上品で靭やかに仕上がる大きな材料だと思っている。
そしてそんな花奈の変化は、表舞台に立たない青年達にも豊かに響いていく。




編集の才能を日傘の奥に握りつぶし、自分を卑下する箱山先輩を、花奈の言葉は日向に引っ張り出していく。
それは自分にとっての当たり前が、実は結構特別に他人を動かしうることを、松雪くんの取材を通じて実感できたからこその行動だ。
吉祥寺先生の提案を、持ち前の負けん気で思わず跳ね除けそうになってしまった冬賀くんに、それがどんだけ渡りに船か翻訳して伝える場面もそうなんだけど。
「つまんねー優等生」に収まってしまいそうな松雪くんの知性と情熱が、結構大事な仕事を果たしている描写が多くて、僕は嬉しい。
熱に当たった先輩を気遣って、冬賀くんが手渡したペットボトルは、彼に虚しさを握らせる。
普通じゃない特別を追い求めて、周りと衝突もしつつ駆け抜けてきた日々を経ても、なお埋まらない空っぽの手。
実はそこに既に、彼だけの特別が握られているかも知れないと、口にするのは箱山先輩には、決意がいる。
それでも花奈が自分を日傘から出してくれた言葉を、その凄さを間近に知っている後輩に手渡そうと思ったからこそ、彼は手渡されたペットボトルを握りしめて、訥々と言葉を紡ぐ。
そこには熱気を和らげてくれる水が…冬賀くん自身が自覚してない確かな優しさが、確かにあるからだ。
瑞希先輩と花奈、あるいは花奈と杏ちゃんの繋がりのように、鮮烈な湿り気にじっとり潤っている筆ではないけども、今回冬賀くんと箱山先輩を描く筆致は確かな絆、そこに宿る感情がしっかり切り取られていて、とても良かった。
カラッと晴れた冬賀くんの気質に引っ張られて、あんま己の内面を言葉にはしない二人ではあるけど、細やかな視線や指先の芝居を通じて、お互いの痛みや焦燥、それを超えていく決意は良く伝わる。
花奈が領域展開によって分かりやすく描いてしまう、本来眼には見えない心の表現を、抑えたトーンに熱を込めて描く手つきは独特で、しかし
収まり良くもある。
この話の、新しい顔の一つだと思える書き方だ。
人と人の繋がり方、そこに立ち現れてくる感情の表現が、性別や情念一本繋ぎではなく、様々な色や温度を宿していること。
しかしその多彩さが確かな芯に貫かれていて、一つの”部活”で起こる人生劇場の一幕なのだと、統一感をもって納得できること。
この両立がこのアニメの強さだなぁと、改めて感じるエピソードでもある。
冒頭、修羅の凄みと花奈の奮起を描く分尺も削られてるわけだが、あんまカメラを振られず素材の蓄積がない中で、よく箱山先輩と冬賀くんの人間を削り出したなーと感心した。
ここら辺のスマートな圧縮率は、やっぱクオリティの高さを適切に使えているがゆえなのだろう。
全国行ってなお後ろ向きな、箱山先輩筋金入りの”陰”が、花奈の光に照らされて前を向き、らしくない前向きを大事な後輩に手渡しても良いんじゃないかと、小さな決意を込めて前へ進む様子が、大変良かった。
「つまんねー優等生」たる松雪くんの描き方もそうだが、類型に乗っかっているように見えてその裏にある個別の輝きを、大事にキャラを描いてくれているのがありがたい。
ここは持ち前のアーティスト気質で、周りを振り回す迷惑野郎としての冬賀くんの善さを、箱山先輩が湿って内省的であるがゆえにしっかり見つめられてるのと、おんなじラインかなと思う。
色んなやつに、色んな難しさと善さがあるのだ。




冬賀くんは捨てたはずのピアノに向き合うことで、インスピレーションの行き着く先を見つけ、勝手なエゴをみんなの作品をより良くする公益へと、巧く繋ぎ合わせられる。
当然眩しい夕日に目を向け、かもめも空を高く飛ぶわけだが、そういう新たな飛翔の一歩目は、花奈が「外行きましょう!」と言い出したことから始まっている。
そうやって、人を光の方に連れて行く強さと喜びは、かつて瑞希先輩が強引に花奈の世界に分け入って、手を引いてくれたから浴びれたものだ。
花奈は自分を救ってくれた憧れに、確かに近づいている。
そう感じられる回でもある。
やっぱ感性の赴くままノーブレーキ、譲れぬ理想へと突っ走っていくアーティストの凄みに憧れ、惚れ込んだ先輩の信頼を、とびきり笑顔で受け止める後輩の笑顔が、最高に良い。
かなりキてる…冬箱の波がッ!!
箱山先輩の陰りに引っ張られて湿り気強くなりそうなもんだが、こっちは花奈軸のカプと違って、カラッと前向きで風通しが良いのも、良い書き分けだなと感じる。
自分の感性第一な天才肌の少年も、自分の身勝手が巻き起こす波紋に確かに傷ついていて、立ち止まって周りを見て…でもそれが、足を止める理由にはならない。
そんな少年の個性を、一緒に裏方作業しながら箱山先輩は、とても好ましく思っていた。
俺は誰かに思いを寄せたり、感動を表に出せる人間は”強い”と思ってるけど、このお話でもそういう価値観は力強く息をしていると思う。
冬賀くんが投げ捨ててしまう”普通”には、自分を揺り動かす特別が確かにあって、それは自分が価値を見いだせない自分の中の”普通”にも、同じく響いている。
そう信じたいから、箱山先輩は冬賀くんが奇跡を形にしてくれると信じて待ち、その気持を告げる。
それをとびきりのニカっと笑顔でしっかり受け止め、こだわりをエゴに貶めず作品を形にした彼は、とても眩しかった。
そういう繋がり方だって、この”部活”にはあるのだ。
うーむ…良い。
良すぎる。
かくして譲れぬ勝負に燃え盛る個人として、皆の思いを一つの作品に託す”部活”として、すももが丘高校放送部は一つのゴールに辿り着いた。
その末尾に、凄くしっかりと二人の青年が自分だけの”特別”を掴み取り、強く心を繋げていく姿を描ききってくれたのが、とても嬉しかったです。
ここまでの物語に刻まれた、二人以外の人たちの眩しさがそこに繋がっているのが、特に良かった。
色んな奴らがいて、だからこそ面白い”部活”という場所を、凄く大事にしてくれてるアニメだなーと思う。
そしてこの到達点は、新たなスタートでもある。
来週からの新展開、とても楽しみです!!