イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

LAZARUS ラザロ:第5話『PRETTY VACANT』感想ツイートまとめ

 Webの大海に餌を投じ、大物を釣り上げろ。
 いつまで経っても出口が見えない状況に、焦れたラザロが遂にアクティブに動く、LAZARUS第5話である。

 

 前々回から前回にかけて、アナログで落ち着いた自然と退廃的で眩い街が対比され継承されていたように、前回から今回はスキルのないフェイク野郎をぶちのめす話が、本物の凄腕相手にラザロがぶちのめされる話に変奏されてた感じがある。
 スキナーという聖杯を追い求めてグルグル回り続ける物語、手を変え品を変え新たなアクションとシチュエーションを用意しても、やってることは根っこの部分で同じな感じはある。
 その上で、ちょっとずつ積み上がっていくものも感じる。

 はるかパキスタンからハックしてくるポップコンウィザードを好敵手に、今まで一人バックアップに徹していたエレイナがチームと肩を並べる今回、クセ強メンバー一丸となって事件に挑む手応えは、いよいよ強くなった。
 もうそろそろ折り返しなんだから、ある程度まとまってくれなきゃ困る…ってタイミングではあるのだが、物理的なクラックとデジタルなハックが同時進行する電脳戦を通じて、ようやく五人が一つの運命共同体になった感じではあった。
 そういうまとまりが強まるのに反して、ハーシュとアベルが胡散臭くもなっていくのだが。
 …スキナー探しは人類救済の聖杯探求ではなく共犯者を消すための私欲って話か?

 

 前回はイヤ金持ちのイカニモなイヤ感で話が転がったのに対し、今回はハプナ薬害の渦中にいるデルタ製薬もまた被害者であり、ラザロの野放図なパンク精神が社長の絶望を救うという、ちょっとズラした構図になっていた。
 「ビッグテック=世界の全てを操る悪」だってんなら話もシンプルだけど、どうやら世の中そう単純には出来ていないみたいで、実は同じ船に乗ってたデルタ製薬との共同作戦は、超凄腕に上回られる形で頓挫していく。
 しかしハッキング合戦にプロの心意気を示して、ポップコーンウィザードとラザロは不思議な共感を果たし、壮大な釣りは空振りに終わったのに、なんだか爽やかで前向きなまま次回に引いた。

 物語は毎回小さな手がかりを掴み取って、それをラザロが引っ張り/引っ張られて転がっていく構図だが、ようやく何かを追いかけるのではなく何かを釣り上げようとした(そして失敗した)今回のミッションは、彼らにどんなヒントを与えるのか?
 次回を見届けなきゃ解らないけど、スキルフルでタフな連中の、敵味方を超えた不思議な共感が確かにそこにあったのは感じ取れた。
 それは前回、クソ富豪とAIハッカーをドブに沈めたときには感じられなかった繋がりであり、爽やかさだ。
 顔は見えずともその存在感は抜群だった、ポップコーンウィザードにそういう花束を手渡すあたり、やっぱオールドスクールな身体性を高く買ってる話ではある

 

同時に現状ラザロとデルタ製薬の、ハプナ被害者同盟に出来たのは”全くの空疎(Pretty Vacant)”を餌に大嘘で相手を釣ろうとすることだけで、何らフィジカルな手応えのある一発はいれられてないし、掴めてもいない。
 そもそも原曲自体が、タイトルにVacantを織り込むことで、眉をひそめられつつ大衆の面前でCuntと発言する悪童根性の賜物ではあって、このアニメだって彼らがNo futureと吠えた先でも、生き汚く続いた未来の物語だ。
 シドが死んでも、ジョニーがジジイになっても、都合よく痛みを殺してくれる魔法の薬が世界を危機に落としいれても、音楽は続く。
 続いてしまう。

 そういうブヨブヨ弛緩した未来が確かに現実となって加速し、余裕でSF的な夢を追い抜いていく中で、この一応は未来派思考の物語は、何を描き何を伝えられるのか。
 未だクッキリとした輪郭が見えない現状、ラザロの釣りが空振りに終わるのはまぁ納得ではある。
 スキナーの残滓を追いかけて、小さなヒントを受け身に拾い集めていくこの旅は、その歩みを通じてチームが己を見つけていく…あるいはチームになっていく話でもある。
 その片鱗はスタイリッシュな潮流の中、確かにかすかに見せつつも、まだまだ腹の底もお互いの繋がりも弱々しい、最強チームの現在地。
 そこは必ずしも、ビッグテックに中指突き立ててばっかじゃない。

 別にラザロだけがスキルフルじゃない現状を、ポップコンウィザードとのバトルに思い知らされ、こっから果たしてどこへ転がっていくのか。
 色付きの生理食塩水じゃ誰も救えず、全くの空疎じゃあ悪魔も釣れないと解ってしまったこの悪戦苦闘の先に、チームは何を掴むのか。
 まだまだ旅路は遠いけど、でもあの爽やかな峻峰の朝日を見てると、なんか悪くない未来が待ってる気はする。
 ここでパキスタンデコトラ文化をサンプリングしてくるセンスはスゲー好きだけど、そうやって世界中に散らばった”なんか素敵でクールなもの”を拾遺してるだけじゃ、適切なヴィジョンは作れないとは思う。
 そんなの無いってのが、クールだって話なんだろけども…。

 

 

 

 

画像は”LAZARUS ラザロ”第5話より引用

 不眠症に悩む可哀想なCEOの喉元へ、自由で軽やかな男が殴り込みをかけ、そのパンク精神に蘇った彼と共同してのハッキング合戦が、爽やかに負け戦に終わる。
 相変わらず美術とデザインは毎週最高で、巨万の富を築いたCEOのコンドミニアムが、全くもって何にもない虚無であることを豊かに綴る。
 スキナーと共同して金は稼いだけど、悪魔に踊らされて今はどん底、悪夢にうなされるばかりで何も出来ない。
 そういう無力感はアクセルとは無縁で、狭いエレベーターを舞台に縦横無尽のアクションが冴える。
 いやー良かったなぁ、あの密室コンバット…。

 コンドミニアム襲撃において、アクセルは警備員のネクタイを拘束具に活用して、一対四…しかもこっちは素手で相手は武器持ちの不利な状況を切り抜けていく。
 大きな秩序の飼い犬であることを示す、首輪にして窒息具をアウトローが逆手に取り、自分を屈服させようとする力を跳ね除けていくアクションが、実は同じく被害者だった社長への道のりを開き、邂逅は彼を蘇生させていく。
 LAZARUSは復活せし者であるけど、アクセルの野放図なアクションはハプナが生み出した絶望から誰かを救い、戦う力を蘇らせたのだ。
 ここら辺大変示唆的であると同時に無邪気で、それで抗えてた時代はとうに終わってる寂しさも、活劇の冴えに滲む。

 

 ハプナとスキナーが何を象徴しているのか…あるいはそこに匂わされるものも、サンプリング世代が幾重にも折りたたんだ、空疎な引用の網の、無数にある網目の一部でしか無いのか。
 初めてラザロがアクティブに仕掛け、敗残に終わった今回から物語がどう続くか次第で、そこら辺も見えてくるとは思うけど。

 「この男が自分のスタイルを誇らないなら、世界で誰がドヤれんだよ…」という、渡辺信一郎が画面に溢れさせるイマージュとスタイルには、腕一つで人間が人間で要られた時代、巨大なシステムと無縁に孤立できた時代へのノスタルジーと信頼が、やっぱ色濃く匂う。
 でも僕が見たくて、今刺さると思うのはその先の、遠く遠く前を向いた景色なのだ。

 

 今まで極めてクールにイマドキっぽく、チームで一番クリティカルな情報を探り当ててきたエレイナは、今回同等の好敵手を前にフィジカルな熱をハッキング合戦に発し、強い身体性を宿す。
 その到達点として、あの美しき山嶺の朝日があると思うのだが、そういう手応えがハプナ黙示録を前に、一体どんな意味を持つかは…ふんわりムードでは伝わっても、明瞭な輪郭はない。
 あるいはそこでクッキリ縁取ってしまうのはダサいという、クールでスマートな在り方を徹底的に追い求めることで、このお話の顔が出来上がってる。
 しかしその、クールであることが全てなスタイルの半歩先を描かないと、このアニメは”今”のアニメにはならないだろう。

 衛星通信にカスタマイズされたデコトラも、ハッカーの武器たるギアを谷底に投げ捨てれてしまう身軽さも、駆け抜けていく先にある峻峰と朝日も、どれも最高にクールで素敵だ。
 だがその美しさの断片を整った形とタイミングで並べ、サンプリングの極みを尽くした後に、何があるのか。
 Pretty Vacantから48年、ピストルズの引用していればそれが自分の答えになってくれる時代は、とうに終わってる。
 それを自覚しているから、この話は”第5話”であり、後に来る勝利のために必要な苦く教訓的な敗北として、シリーズの中位置づけられているのだろう。
 …イヤ解んねぇな、マジ徹底してスタイルだけで駆けるのは全然あり得る。

 

 まぁそうなったらそうなったで、”今”やるに値する壮大な花火だったと思えるだけのポテンシャルも、このお話には感じているのだが。
 なんだかんだ、毎週手を変え品を変え描かれる美しい世界の様相、そこでもがく人たちのアクションは肌に合うし好きだ。

 だからこそ、主役よりもスキルフルで、自分だけのスタイルを貫いて、身体的だったポップコーンウィザード(そして、彼女の背後にいる不在なるスキナー)にチーム一丸となって挑み負けた今回が、意味ある回になるような話運びを、今後積み上げていって欲しい。
 そうすることで、このエピソードの意味も煮出されていくと思う。
 次回も楽しみだ。