イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない:第1話と第2話の感想

 青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない 第1話と第2話を見る。
 青春に悩む青少年の、時空と因果を書き換える不可思議な現象…青春症候群。
 色んな女の子の思春期カルテに誠実に寄り添い、良いヤツなので当然好きになられ、しかし桜島麻衣への気持ち一本で真っ直ぐな獣道を走りきった梓川咲太も、いよいよ大学生である。

 自分と家族と友達が、透明な毒ガスのような空気と愛憎入り交じる家族関係、錯綜する慕情に振り回される当事者だった時代から少し距離を置いて、青春ブタ野郎も”先生”と呼ばれる立場になった。
 大学生になった咲太も、相変わらず優しいハードボイルドブタ野郎で嬉しい。

 

 TVシリーズ1クールと映画三本、奇跡のような歩みで咲太と数多ヒロインたちの青春を追いかけた物語も、”ランドセルガール”で一つの落着を見た。
 時空の迷宮に迷い込んでも助けたかった人を助け、消えてしまっても忘れたくない人を支え導き、タフにシニカルに生きてきたお人好しも、ようやく恋人の胸の中で思う存分泣けた。
 花楓はよろめきながらも自分の人生に両足で立ち、一度壊れた家族は再生を始め、ブタ野郎はちゃんと大学に受かって恋人とラブラブ学生生活を送り、バイトにも勤しんでいる。
 そんなライフステージの変化が、僕にはまず嬉しい。
 ここら辺、七年前(!)から付き合ってきたからこその手応えかもしれない。

 大学生になった咲太は、思春期の小さな体では受け止めきれない難しさや理不尽のど真ん中で思い悩み、必死に足掻いていたときよりも、なんだか軽やかに生きれている感じがある。
 それは思春期症候群にグチャグチャにされた青春を、麻衣さんと二人三脚一緒に駆け抜け、それなりの擦過傷と沢山の勲章を手に入れて、無事生き延びたからこその態度だと思う。
 あんだけの体験をすりゃー、そら麻衣さんとの絆は最早絶対の運命であり、ハーレムラブコメ特有ののクラクラユラユラはもともと縁遠い男であったが、最早そういう横恋慕で揺らぐ気配もない。
 芸能人とお付き合いする難しさとも、がっぷり向き合える腰の強さもあるしね。

 

 同時にそういう余裕は、見通し悪い世界の中必死に眼の前の理不尽にかじりつき、大事なものを何も諦めなかった少年のがむしゃらを、咲太から遠ざける(ように見える)。
 第2話から本格化する広川さんへの向き合い方を見ていると、少し角度が変わっただけで、彼は相変わらず誰の思春期症候群にも親身に向き合う、優しい男であることが理解るけども。
 世界の形そのものを揺るがすような激浪が、少し遠いところに言ってしまって、でも全てを俯瞰で見通すには少し身の丈が足りない大学生の現状が、静かで詩的な画面構成の中、相変わらず元気だった。
 この静謐なポエジーは凄く好きなので、健在まことありがたい。

 がむしゃらに懐に潜り込んでインファイトするスタイルから、距離を取ってクレバーにカウンターを取るような姿勢に青春症候群との向き合い方が変わって、より際立つようになったものがある。
 咲太は自分の内面をほぼ語らないし、全ては己の外側に出ている言葉と態度が語っている。
 ブタ野郎を綴る文法は、極めてハードボイルドなのだ。
 ムッツリと恋人以外に興味がないように見えて、咲太は自分に縁があった様々な人をよく見ているし、そんな人達を悩ませる影を前に安全圏に引っ込むより、厄介ごとの真ん中に飛び込んで解決に手を貸す方を選ぶ。
 理解されにくいお人好しは、色んな人を助けている。

 

 その奇妙な優しさは、それぞれの世界で髪型なども変えつつ、自分の物語を前に進めているかつてのヒロインたちの群像を照らし、これから触れ合う(あるいはコレまで縁があった)少女たちの未来に、影を投げかけている。
 咲太から少し遠いところで、相変わらず青春症候群は時空と因果を歪め、人のあり方を変えていくわけだが、ライトノベルの主人公としてそういう事件に触れ合う特異性を得てしまっている咲太は、自分の症候群が(一応の)落ち着きを見せても、不可思議な事件を見過ごせない。
 巻き込まれるというより、積極的に飛び込み厄介事を背負っていく、トラブルシューターとしての姿勢が、大学生になった咲太には宿った感じがあった。

 「卑しき藤沢を行く思春期の騎士」などと書いてしまうと、ブタ野郎をちょっとカッコよく綴り過ぎだろうけど、しかし相変わらず一見シニカルで卑属な態度を取りつつ、自分の中にある優しさと熱血に結構自覚的になった青年の姿は、見ていてやはり清々しい。
 この前のめりな軽快を支えている背骨が、間違いなく桜島麻衣への愛である事含めて、大学生になった咲太はここまでの物語に相応しい成長を遂げ、同時に大人になりきっていない魅力的な未熟を漂わせてもいる。

 

 自分自身と家族と友達、そして恋人。
 高校生にとっては世界の全部と言ってもいい問題に一応のケリが付き、皆が自分の物語を迷いなく進んでいける足場が整ったところで、物語は終わっても良かったのだろう。
 しかし咲太の周囲には相変わらず青春症候群に囚われたヒロインたちが現れ、ミニスカサンタの影がちらつく。

 それは大学生になってなお、ハードボイルドな落ち着きを手に入れてなお、咲太の青春が終わりきっていないからこその継続なのだと思う。
 義妹の友達が急に空気読めるようになってしまって、結果見落とせていたイヤな匂いに悩むようになっても来て、さてどんな自分を選ぶのか。
 広川さんに向き合う咲太はひどく落ち着いていて頼もしいけど、そのハードボイルドな青春探偵仕草が、今後どう揺さぶられていくのかは楽しみだ。
 そういう波乱の中にこそ、彼自身の青春症候群を終わらせ、あるいは別の形で向き合っていくための鍵があるのだから。

 

 思えば花楓を襲った青春症候群(それを生み出す不可視で致死性の”空気”)により、家族をメチャクチャにされ空気に殺されかけ、しかし諦めず優しく強くあろうと踏ん張ったおかげで、咲太は全てを取り戻した。
 それは愛する妹や父母、恋ではないけど大事な女友達たち…あるいは消滅しかかっていた未来の恋人だけでなく、実は作中一番傷ついていた咲太自身を、彼は青春症候群と取っ組み合う中で再獲得していたと思う。
 理不尽に奪われ、傷つけられたものがそのまま崩れ去ってしまうような、面白くもなんともないルールを、思春期真っ只中の戦士が書き換えうることを、自分の物語を通じて証明し得たのだ。

 この物語で起こる異常な事件と、シニカルな主役がそれに向き合う過程には、ボンヤリと形にならない最悪に”青春症候群”という形を与え、さんざん翻弄されればこそ立ち向かって答えを出せる、極めて正統派のジュブナイルな手触りが確かにある。
 そういう成果を掴み取るだけの強さと優しさ…ハードボイルドな男の主成分が咲太には確かにあるし、大声でそういう大事なものを喚き立てないからこそ、しみじみ胸に迫ってくる切実な体温もある。
 高校時代の激闘を終え、頼もしき大学生になった咲太が今後立ち向かう異常現象も、また少し温度を変え、対峙するヒロインを変え、生きることの難しさと掛け替えなさを描く大事な画材になっていく。
 そういう期待感が、静かに強い新シリーズ開幕であった。

 

 環境が変わって、元ヒロインたちと少し距離が空いたのは淋しくもあるが、同時に主人公との恋が破れようが…あるいはだからこそタフに自分の物語を生きている、現役ヒロインとしての活力を感じて嬉しくもある。
 ”おでかけシスター”ではあれほど、世界を満たす致死性の毒ガスに苦しんでいた花楓が、友達と仲良く過ごし働き笑っている姿を見て、少し泣いてしまった。
 朋絵も双葉ものどかも、多言世界の記憶を抱えて沖縄に旅立っていった翔子ちゃんも、ヒロインになれなかろうが誇り高く日常を歩み、自分なりの幸せを己の中に積み上げていた。

 その未来に向かって力強く吹く風は、間違いなくブタ野郎が奇妙キテレツな事件に巻き込まれ、立ち向かった結果生まれた空気であり、ここまでの物語があればこそ起きた変化だ。
 新たな物語の予感をはらみつつ、静かに胎動する新章開幕。
 そんなふうに過ぎ去った時代と確かに繋がる今が生き生き描かれていたことは、いつか青春症候群の当事者でなくなるだろう咲太の物語が、ただ過去を切り捨てて大人へと変性する結末ではなく、自分なり噛み締め糧にしていく未来を掴むのだと、予感するには十分だった。

 

 凄くヘンテコで致命的に厄介な事件でも、僕は青春症候群のコトが好きだ。
 身体や身体や時間や空間や因果を捻じ曲げ、極めて現実的な生きる難しさを暴き立てる、不思議な事件。
 それに翻弄される中で、透明な空気の中にあった難しさ、見えていなかった己の心が可視化され、より強く優しい人間になっていくヒントを学び取ることが出来る。

 そういう思春期の問題集として、ここまで紡がれてきた青春症候群は凄く愛しいものだったし、これから大学生の咲太が取っ組み合うモノも同じく、厄介だからこそ大事なものを暴く、素敵な試練足りうるのだろう。
 そういうモノと咲太が最後に対峙する時、ちゃんと未来に向かって握手してくれそうな予感と信頼が、新たな物語が始まったこの段階からしっかりある。
 それはとても嬉しいことだ。

 

 大学編初のヒロインとなった広川さんは、かわいいかわいい花楓がマジしんどい時に手を差し伸べてくれた恩義があって、わざわざ厄介事に飛び込む理由は十分だ。
 今後どういうヒロインが舞台に上がってくるか…朋絵の後輩は青春症候群に魅入られそうな厄介さをバリバリ出していたが、まだまだ解らない。
 でも縁もゆかりも無い誰かであっても、目に見え手が届いてしまう距離で邂逅したのなら、今の咲太は渦中に飛び込むのだろうなと感じている。

 見て見ぬふりが賢い、わざわざ余計な荷物を背負い込む必要はない。
 そういう空気に溢れてる世の中だからこそ、咲太は「厄介事こそ俺の領分」とばかり、空気を読まず/空気を自分から塗り替えて、ハードボイルドに身を乗り出してくれると思う。
 もともとそういう青年で、そうありたかった男の子が、大事な人のために必死こいてそうあろうと背伸びして、気づけばそれが自然なあり方になっていた。

 そういう梓川咲太の成長を感じられる話運びでもあって、大変嬉しい第二章である。
 二年ぶり出会ってみると、咲太はむちゃくちゃチャンドラー的な男であり、しかしLAより温かい藤沢の風は、彼が運命の恋を守り切ることも許してくれる。
 そこら辺の優しい湿り気も、この話らしくて好きだったりする。

 

 

 

 

画像は”青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない”第2話より引用

 フィクションでめったに描かれることのない、三崎口から松輪あたりの景色をゆったりと巡る筆致が、第2話ではとても印象的だった。
 空気が読めるようになってしまった結果、自分を包囲する天井もそれをひとりだけ突破していく道筋も、見えるようになってしまった広川さん。
 バズの波を受け、武道館は遠い夢な仲間たちとは違う場所に飛躍しようとしている偶像としての彼女は、携帯電話の画面の中顔が良く見えない。
 そんな彼女の空疎を、咲太は同志たるのどかよりも早く深く気づき、飾らぬ生身で気ままに歩ける場所へと連れ出していく。

 マージでいい景色とマグロ以外なんもねぇ三浦半島の先っぽを、ゆったり自転車で巡ることを悩めるアイドルに許す咲太には、どっしり構えた頼もしさが力強く漂っていた。
 かつてヒロインに手を差し伸べた時、理由もわからぬまま異常な状況に巻き込まれていたのとはちょっと違う、余裕と距離を保ったままの対峙。
 それは共に夢を追うはずの仲間にも…仲間だからこそ言えない、広川さんの重荷を引っ張り出し、更にその先へと導いても行く。
 咲太の「案外近いぞ」に寄り添われて、たどり着いたばかりの武道館は逢魔が時の色を宿しておどろおどろしく、しかし全てを語りきった後は月下に晴れやかだ。

 

 この二つの変化は、咲太が広川さんを悩ます青春症候群…その奥にある紛れもない己の中の真実に、しっかり向き合い道を示したからこそ生まれている。
 そしてそれは、ここまで色んな女の子と咲太自身が、青春症候群に翻弄され、傷つきながら前に進んできたからこそ、切り開ける景色なのだろう。
 空気が読めるようになってしまった結果、広川さんはずっと見えなかった空気が毒ガス色に色づいていることも、頭の中に他人を住まわせてその声に逆らわない処世術も、賢く身につけつつある。

 でもそういう形で”大人になる”のは、果たして善いことなのか?
 空気読めない広川さんと、マジの本気で向き合ってきたのどかの当惑は正統な疑問だ。

 

 ここで「花楓ちゃんのお兄さん、のどかちゃんのお義兄さん」として、恋にならない距離感で卯月に隣り合い、結果その懊悩の深いところまで踏み込む咲太の姿勢が、僕はやっぱり好きだ。
 いわゆる”ハーレム主人公”とは全く縁遠い、純愛ブタ野郎である咲太は、異性が向き合う時に恋だけが二人を繋いでいるわけではなく、家族であったり友達であったり恩人であったり、そしてかけがえない唯一の想い人であったり、いろんな間合いと角度で繋がりうることを示してくれる。
 そういう多彩な横幅が、広川さんの迷いに頼もしく隣り合う大学生の咲太…彼らが歩む景色の描線から、強く感じ取れた。

 久々にアニメ青ブタに触れると、やや引いたカメラで景色を切り取り、そこに静かに心情を伸ばしていく演出が豊かだと感じる。
 景色に情緒が宿るから”情景”なわけだが、見知った景色をそういう特別な手触りで削り出してくれる面白さは、作品の舞台に住んでる特権だなぁと感じる。
 藤沢近辺に限られていた景色が、大学進学とともに広がっている実感含め、相変わらず景色に良く喋らせてくれるアニメになりそうで、そこもとても楽しみだ。
 咲太があんま自分を語らないので、変わりに天地が泣いたり笑ったりする作りなんだなぁ…。

 

 

 というわけで、二年ぶりに出会った優しいブタ野郎は、相変わらず不器用に優しく、もっっと逞しくなっておりました。
 自分に親しい不可思議を一応乗り越え、幸せのカタチを掴んだからこそのタフな変化が、これから描かれる新たな青春症候群にどういう対峙を生み出していくのか。

 そこで悩み救われていく少女たちの輝き含めて、新しくも懐かしく愛しいものがたっぷり味わえそうで、とてもワクワクしています。
 手が届く範囲が救われてしまった後、咲太の物語はどんな難しさに向き合い、空気を作っていくのか。
 未だ全容定かならぬ新たな不可思議のカルテ…次回も楽しみに読んでいこうと思います。