イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うしおととら:第21話『妖、帰還す』感想

時をかける少年&妖怪アニメ、過去の因縁とか色んな物が集約する第21話め。
獣の槍誕生秘話だけではなく、なぜ潮が白面と戦う宿命にあるのか、なぜ主人公なのかを親の因果までひっくるめて描写する回でした。
前回も冴えていたジュビロ顔の演出は今回もバリバリであり、マモの圧力のある演技も相まって、血を吐くような展開に説得力があった。
大量の設定を捌きつつも、熱と慟哭と因果が複雑に入り混じっているおかげで、設定を『体験』出来るという稀有なお話やな、やっぱ。

ぶっちゃけた話今回説明された設定はかなりに部分後付であり、連載が安定してきて今まで流してきた部分に説得力を持たせるべく、色々考えて追加されたブースターです。
しかしながらそういう『お話しの都合』が持つ不自然さを極力感じさせず、キャラクターの血肉として自然に見せるパワー&テクニックこそが、うしとらの強力な武器。
獣の槍誕生に潮が持っている因縁、そこから伸びる女達と母との繋がり。
全ては『説明』であると同時に潮少年の『感情』を揺さぶる事実でもあって、人の命と怨念を吸って生まれた神話兵装というエピソードの熱量もひっくるめて、グイグイ飲み込ませる勢いに満ちています。

無茶苦茶な理屈を勢いだけで飲ませるのではなく、視聴者が感じる疑問点をしっかり拾い上げた上で、熱量を付与しているのが巧いところ。
潮はなぜ槍と出会ったのか、あれだけ強い槍はどんなオリジンを持っているのか、オカンはどんな人間で白面とどんな因縁を持っているのか。
ここまでお話についてきた視聴者であれば皆気になっているところを、しっかり描いたからこそ『お話しの都合』を喜んでゴクゴク飲み込む姿勢にもなる。
こういう幸せな共犯関係を作るためには、やっぱりお話とキャラクターが持つパワー、それを最大限発揮するテクニック両方がなければいけないわけで、良いアニメだなぁとつくづく感じますね。


気のいい兄ちゃんギリョウさんが、なぜ妖怪火吹き男になったのか。
潮暴走編辺りから撒いていた伏線ですが、『ああ……そらなるわ』という展開と描写が積み重ねられており、気合の入った血涙表現も相まって非常に良かったです。
ギリョウさんの修羅の慟哭と、ジエメイの覚悟を完了しきった穏やかな笑顔の対比が、痛ましくも美しかったですね。
やっぱり今回も潮少年は、やり場のない怒りを叩きつける男の受け皿になっており、そういう宿命なのだなぁと唸ることしきり。

このような怨念と悲哀を背負っているからこそ、槍は特別に強い。
主人公と主人公の武器が強いのは少年漫画では当然といえば当然なのですが、そこに説得力を持たせるべく時間を遡行し、濃厚な感情を潮と一緒に体験出来るエピソードをここで挟むというのは、やはり構成の妙といえるでしょう。
今回のエピソードを通過することで獣の槍は、『よく解かんねぇけど、ヤバくて強い』というアイテムから、『時間を飛び越えて因縁を結び、修羅の血と乙女の魂で鍛えられた運命の愛槍』というキャラクターに変質するわけで、うしおととらの物語であると同時に獣の槍の物語でもあるこのアニメにとって、大事な話だったと思います。
そういう話がちゃんと血と涙の匂いがしてたってのは、良いことだなとも。

潮はお母さんの時と同じく、救おうと伸ばした手が空を切って何にもできない無力感を味合わされました。
直情系主人公(っていうほどバカでもないし鈍感でもないんだけど、役割としては)としては残されたギリョウさんを救いたくなるところですが、そこで止めてしまってはお話しの都合が立たない……だけではなく、怨念を受け止めて光に向かって走っていく潮の成長物語も止まる。
なので、俺は全部分かってるぜッ面で潮を止めたとらちゃんは、やっぱり巧すぎるPC2でしょう。
あのシーンの潮のフライング気味の動きは、とらPLとのアイコンタクトが成功したから踏んだロールだよなぁ……『俺走るから止めてね』『解った』的な。


『獣の槍誕生秘話』だけで時逆の異能力を使い切るのではなく、いまいち不透明なオカンの設定や潮に繋がる因縁も説明しきってしまうのが、今回のお話の欲張りなところ。
何しろ須磨子がいるのは海底なので、物理的に接触が難しい。
視聴者からも潮からも遠いところにいるが、お話としては要の位置にいる須磨子をグイッと引き寄せる手段として、時間と空間を超越できる時逆は良い舞台装置です。
舞台装置で終わらないクリーチャーデザインの強さがあるところが、このお話しの強いところなのですが。
いい塩梅にキモくて親しみが湧くんだよなぁ時逆……時順の方も田中真弓さんだとは、聞いててさっぱり判別つかなかった。やっぱベテランはスゲェや。

ジエメイから脈々と繋がる白面との因縁が須磨子に受け継がれることで、その息子である潮もまた、白面と対峙しなければいけない当事者性を強化されます。
ここら辺は獣の槍との因縁強化と同じラインにある話で、『お話しの真ん中にいるけどこれまで描写が薄かった部分を、一気に強くするのが今回のエピソードの狙い』というのがよく分かる。
須磨子の描き方がシュッと清潔感があり、坂本真綾さんの声もしっくり来ていたので、好印象を持って受け止められるのは、良い見せ方だなと感じた。
男眉がやや弱くなっていたのは、現代風のアレンジか……いや、細くしてもなおパワーの有る眉毛で、潮との繋がりが感じられグッドなのですがね。

ラスボス白面の恐怖をしっかり描き、それにブルっちまった潮からたくさんのものを奪うことで、マイナスの因縁を強化する。
同時に獣の槍とジエメイ、須磨子との因縁を『体験』させることで、お話しの中心にいるキャラクターの設定を説明しつつ、プラスの因縁を強化する。
二話に渡った過去への度は、何かと上っ滑りしがちな設定説明という行為を潮に、そして視聴者に熱量と勢いを持って叩きつける、非常に有効な手段だったと思います。
『熱い』とか『正統派少年漫画』という言葉で語られがちで、いまいちロジックの部分に評価が行きにくい印象もあるうしとらですけども、生得の熱さや感情の濃さをどう視聴者に届けるのかという計算の部分、それが実際に実を結ぶテクニックの部分をしっかり確認できたのは、アニメという形で見直せて有り難い部分ですね。

そんなわけで、うしおととらの過去旅行は終わりました。
白面が正体を表す頃から演出がキレッキレで、白面と獣の槍が培ってきた因縁の意図がどれだけ長く、熱いのか、良く伝わるエピソードだったと思います。
同時にややこしい設定説明やモチベーション整理もしっかり行っており、お話しの滑走路を整えて、主人公と物語がより高く飛べる準備をしているところも素晴らしい。
『過去の説明回』というのっぺりなりがちなお話を、こうも面白く、臨場感満載で見せてくれるこのアニメ、やっぱスゲ