イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

響け! ユーフォニアム3:第2話『さんかくシンコペーション』感想

 全国大会金賞という目標を定め、動き出した久美子部長の北宇治吹奏楽部。
 しかし部員百人を超える大集団の運営はなかなかに大変で、晴れたり曇ったり押したり引いたり、色んなトライアグルが随所で蠢く……という、ユーフォアニメ三期第2話である。
 2年分の波風に鍛えられ、一見順調に”先輩”やっているように見えて、今まで通り何も完璧ではなく揺れ動き、未来に迷いつつも強がり背筋を伸ばして部長を頑張っている久美子と、彼女を取り巻く様々な三角形。
 それは奏と真由を交えた三人のユーフォ奏者であったり、 麗奈と秀一と三人で引っ張っていく部内政治であったり、3つの楽曲から一つを選ぶ決断だったりする。
 後輩の前では揺るがない安心感を演じ、苦楽を共にする仲間の隣では私人でいられ、吹奏楽を離れたところにも勿論未来が繋がっている、高校3年生が身を置く複雑な景色も含むだろう。
 色んな”さんかく”が複雑な力学の中で踊る中で、未だ成し遂げられぬ黄金の結末へ皆でたどり着くために、久美子は何を選び、何に迷うのか。
 未だ静かな序奏ながら、待ち構える嵐とそれを超えればこその晴れ間は確かに予感できる、ユーフォアニメらしい第2話でした。

 

 

 

 

画像は”響け! ユーフォニアム3”第2話より引用

 というわけで、100人を超える大所帯の部長になった久美子はかつてあすかや優子が見せていた頼もしさを必死で演じながら、より良い音を奏でコンクールを勝ち残るためにも、数多の実務をこなし人間関係を調整する、極めて面倒くさい立場に立っている。
 去っていく人の背中を追い越して、同じ立場に経って初めて見えてくる苦労と、それを見せないことでなんとか成立していた……あるいは荒れに荒れて壊れかけて、だからこそ強くなっていった、部活という社会。
 部長になった久美子は感情むき出しの幼い一年生でも、エースとして後輩を導くニ年生でもなく、揺らぐ弱さを見せられない強豪校の要として、一見頼もしくも見える。
 しかし先輩たちの苦労を思いつつピアノの上で書き記す書類には、どこか頼り投げな影が確かに写っていて、未来を刻む進路調査票も真っ白だ。
 『立場が人を作る』という言葉に従って、完璧で強い自分を演じきって部を背負おうと頑張る姿の奥には、今まで僕らが見てきたまんまの頼りなく愛しい黄前久美子が、確かにある。

 全国レベルの演奏集団として、部活をまとめ上げていくことの難しさは、常に嵐が吹き荒れて、それを背に受けて大きく飛翔してきた北宇治吹奏楽部の生え抜きだからこそ、良く理解っている。
 部長・副部長・ドラムメジャーと役割を分担しつつ、複雑怪奇な小社会をコントロールしなければいけない立場になった久美子たちは、普通の高校生たちのように座席ではしゃぎ、安楽に腰を下ろすことは許されていない。
 帰りの電車でも北宇治首脳会談に頭を悩ませ、三年越しの念願をどう叶えていくべきなのか、完璧ではないからこそ完璧であろうと、必死の背伸びを続けている。
 それはけして楽ではなく、しかし誰かに強要されたわけでもない、彼ら自身の夢の形だ。
 これを性格も能力も立場も異なる百人と、理想をぶつけ合いこすり合わせながらなんとか、一つの曲を奏でられるように闘っていく。
 ヘラヘラ笑って楽しい部活に時間を使う道を、自分たちで拒絶してしまったからには、厳しくても立たなければいけない場所があるのだ。

 

 とは言うものの、どんな立場にいようが久美子たちは人間であり、未熟で発展途上な子どもでもある。
 気心のしれた仲間に信頼を預け、お互い支え合うことでなんとか苦境を乗り越えて、未来への道を切り開いていくためには、弱音や希望を確かめ合う親しさが、どこかに必要になる。
 それがあればこそなんとか背筋を伸ばして立っていられる、厳しい全国への道へと仲間を導いていける、人間としての体重の預けどころに、三年生になった久美子たちがどう向き合っているのか。
 美しさと緊張感のある構図に鮮烈に焼き付ける筆は、三期になっても元気である。
 やっぱユーフォの……京アニの美術とレイアウトは良いなぁ…。

 北宇治を牽引するトロイカにおいて、久美子と麗奈があまりにも特別な……なかなか名前がつかない濃厚な距離感で繋がっていることは既に幾度も描かれた。
 雨上がりのベンチに間近に座り、一つのイヤフォンを分け合って同じ曲を聞く。
 そんな特別すら当たり前の、あまりにも特別な関係。
 部活に加えて恋愛までは背負えないと、一回関係をリセットした久美子のわがままを、苦笑交じりに受け止めてくれた秀一との絆も、未だ素直になれない頑なさを残したまま強いものだ。
 久美子-麗奈、久美子-秀一の二辺に繋がるもう一辺、副部長とドラムメジャーの関係性がどんなものであるか、今回描かれたのはとても面白かった。

 何かと背負いがちな久美子に過剰な重さを背負わせぬよう、細かい言い回しにもピリピリ口を突っ込んでくる麗奈に、秀逸は素直に道を譲って追いかける。
 この優しさが自分に向いてしまうことが、親友をどう揺らがせるか想像できてしまえるところに、麗奈の可愛さと面倒くささ、自分を固く保ちつつも結構他人のことも見える周辺視野の広さが、良く表れていると思う。
 苛烈で己を譲らないからこそ、妥協なく音楽を追求するドラムメジャーをやれている麗奈に対し、仏の副部長は柔らかく不満を受け止め、部内の人間関係を裏から調整する役割を背負っている。
 厳しい嫌われ役と優しい理解者、それぞれ部内政治に必要な役割を背負いながら、確かな信頼で繋がっている二人の距離が、電話ボックスをナメながら的確にスケッチされていく。
 こういう繋がり方があればこそ、あすか達にも優子達にも預けなかった勝負の選曲を三人だからこそ特別に任せてくれたと、確信を込めて麗奈も言い切るのだろう。
 高坂麗奈が三年生になっても、群れに埋没せず、何者かであること……特別であることを常に望んでいる様子も伺えて、そこも面白い回だった。

 

 

 

 

画像は”響け! ユーフォニアム3”第2話より引用

 こんな屋台骨の頑張りで支えられている北宇治高校吹奏楽部だが、人が集まれば影も生まれるわけで、嵐の予感は静かに近づく。
 やはり台風の目は謎めいた転校生・黒江真由であり、聖母めいた透明な笑顔に嘘はないものの、彼女の周囲には底抜けの眩しさだけでなく、濃い影も追いついてくる。
 彼女の微笑みの奥にある獣が牙を向くのは先の話だけども、本気で競い合うからこそ強くなった北宇治イズム(≒滝昇イズム)を押しのけるような、ガチって傷つく人を見たくない優しさが秘める凶暴さは、明暗の中に既に元気だ。
 負けて本気でなく麗奈の気持ちが解らなかった中学時代から、二年の時を経て同じ温度で並び立てるようになった久美子が、過去においてきた柔らかな凶器が、限られた椅子から部長を押しのけレギュラーを奪いかねない実力と、並び合っている静かな強さ。
 そこには客観的な衝突の予感だけではなく、部長でありながら一人の演奏者でもある久美子が、自分の居場所を奪われ、大事な人達と積み重ねてきた何かを否定されてしまう未来への、形のない主観的不安が反射している感じもある。

 部長という立場を得てしまった以上、メチャクチャな意見だろうと一応は聞き届け受け止め、落ち着く場所を見つけてあげなければいけないわけで、シスコン拗らせて暴走する釜屋妹のぶっ飛んだ提案にも、親身に向き合う姿勢を久美子は作る。
 この公平なスタンスが、嫌悪とまでは行かない個人的な違和感や不安を表に出さず、自分を殺して真由に向き合うストレスの影を、長く伸ばしてもいるのだろう。
 ここら辺の私的感情に、先回りして警戒感もあらわに”三人目のユーフォ奏者”に牽制を入れ、けして名前では呼ばない久石奏のイイ性格が、何かと息苦しそうな今の久美子を見ていると、ちょっとありがたくもある。
 に年目の物語において計算高く自分を装い、ビシビシ尖ってぶつかって来た彼女は、だからこそ自分の狡さや賢さすら見つめ受け止めてくれた久美子を、彼女の”特別”として認め愛している。
 おどけた態度で距離近く、ベタベタ引っ付いてくるのは戯れ半分、本気半分って感じだと思うが、公明正大な部長様が付きさせない針を、慇懃な態度の奥からプスプス真由に刺しているのも、愛着の逆位相という感じがする。
 そこら辺の張り詰めた間合いを、隙なくしっかり描くことで、部内に満ち人と人の間に蠢く不可視の空気を、視聴者に伝える静かな雄弁さが、やっぱり俺は好きだ。

 

 真由を中心に渦を巻く不穏さや、愛が高じてメチャクチャ言い出すすずめの言い分は、まだ笑える可愛げに満ちている。
 しかし確かに沢山の人がいる吹奏楽部の未来は、入り交じる空気を反射して晴れ間ばかりではなく、暗くなったり雨が降ったり、色んな天気に移り変わる。
 それでも久美子が率いる人間集団が、より善い音楽を作り上げるべく集まっている以上、世界が黄金に輝くのはやはり、音に満ちた瞬間になる。
 高校生活最後の年、全国に夢を届ける勝負の曲が決まった時、世界を満たしていた湿り気と暗さを一気に押しのけて、眩い光が久美子と麗奈を包む美しさは、圧倒的なまばゆさに満ちていた。
 ずーっと人間と人間が肩を寄せあい、支え合ってぶつかりあって活きてる狭い空間を切り取ってきた(だからこそ、そこに宿る息吹を細やかに切り取れていた)画角が、首脳部全員の気持ちが一つに重なり” 一年の詩 ”が鳴り響いた瞬間、あまりにも広く美しい宇治の情景を黄金色に照らすの、開放感ハンパなくて良かったな……。

 色々薄暗いものもありつつ、苦労し傷ついて譲れない願いを見つけ、ぶつかりあって一つの曲を奏でてきた久美子の歩みは、常に音楽とともにあった。
 晴れる日もあれば曇る日も、吹き荒れる嵐に翻弄されるときだってあったけど、自分を譲らず本気で向き合い、見つけ重ねた歌に嘘はなかった。
 そういう輝きを、湿った暗がりと同じくらい……あるいはそれを上回る力強さと真実味で描いてきたお話の、”特別”がどこにあるのか。
 麗奈と久美子の願いが重なった瞬間を、極めてドラマチックに描く筆先が、改めて語ってくれてとても良かった。
 やっぱこのエモーションの炸裂が、俺はいっとう好きだ……。

 

 

 

画像は”響け! ユーフォニアム3”第2話より引用

 あんなにも世界を美しく染め上げる、強く真っ直ぐな音が鳴り響いたんだから、たかが100人からの社会集団、同じ方向を向いて光に向かってまっしぐら!!
 ……って甘っちょろさが、ユーフォの味じゃないのもまた、皆さんご承知の通りで。
 純粋に善い音楽を追い求めることを役割と求められている麗奈が高く掲げた指先に待つ、険しくも特別な歩み。
 それが多くの部員を包み込みつつも、既に陰りに囚われている誰かがいることをカメラは見落とさない。
 オイー、一年エースの伏せた視線と伸びる影、明らか不穏なんだがッ!

 全国の高みを目指し、一丸となって突き進まなければ夢など叶わないと解りつつ、人間である以上迷いや揺らぎは当然あって、しかしそれを飲み干す度量を見せなければ、部を導くことなど叶わない。
 久美子部長が身を置いている、極めて難しい人生の居場所がどんな影と光に満ちているのか、丁寧に描く回でした。
 ”先輩”になった葉月ちゃんや、アンコンを経て演奏者として人間として頼もしさを増したつばめちゃんを描く筆がなんとも頼もしく嬉しいけども、群像の成長の隣には常に、人が人であるがゆえの、そんな存在が集まるからこその難しさが、複雑な陰影を奏でている。
 さてはてサンフェス近づく中で、一体何が起こるやら。
 次回も楽しみですね。