イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ:第17話『クーデリアの決意』感想

この世は悪意の掃き溜めだッ!! 腐りきった権力が弱者を踏みにじる現実の戯画に、少女の決意が突き刺さるオルフェンズ第17話。
フミタンの血で手を赤く染めたクーデリアの中の修羅があっという間に目覚め、綺麗事から散歩ぐらい一気に踏み込んだ革命の道を歩き始める回でした。
仕組まれた反乱とその鎮圧も開始され、人間サイズからMSサイズに闘争が拡大する中、鉄華団も否応なく闘争の渦中に飛び込んでいく展開に。
事態は一PMCの行動半径を飛び越えつつありますが、運命の流れは止まってくれない中、苛立つ少年たちの運命はどっちだという感じのお話。

今回お話しの舵を握っていたのはクーデリアでして、フミタンの死に狼狽える段階はあっという間に飛び越え、彼女の遺言(もしくは呪い)そのままに革命の乙女として動きまくっていました。
火星の『虐げられしもの』とコロニーの労働者を同一視し、ここで引き下がるのは筋が通らねぇとばかりに抵抗を決意、鉄華団とメディアを巻き込み、自分の命を狙ったノブリスとすら取引を狙う。
元々器があったクーデリアですが、フミタンという家族の死を前に甘さを捨て、作戦立案と実務的交渉という鉄華団に足らないピースを一気に埋める策士へと変貌しました。

火星にしろコロニーにしろクソみたいな被差別市民に尺咲いて描写していたのは、何も悪趣味なポルノを微に入り細に入り描きたかったわけではなく、それがひっくり返るカタルシスのためにストレスを積み上げる劇作なわけです。
今回のクーデリアの覚醒はその第一歩であり、そういう意味でもフミタンの死は必要な犠牲でもあるんですが、そういうおはなしの都合は横において、クーデリアは静かに強くフミタンの死をいたみ、胸に刻んでいる。
下着姿で思わず『むっ!』となるサービスシーンの中に、唯一の遺品であるペンダントを二つがけする覚悟を見せる所とか、このアニメらしい意地の悪さで良かったです。

クーデリアは自分の中の『筋』にこだわって動いているわけですが、同時にこのまま雪隠詰めですり潰されても面白くないっていう現実的な状況もちゃんとあります。
宇宙港は封鎖されコロニーから出る手段がない鉄華団にとって、どっちにしても勝負手には出なきゃいけないわけで、ここら辺をシノとユージンの素のリアクションや、ビスケットのセリフで補強しているのは巧い見せ方。
ここでクーデリアの想いと鉄華団の現実が衝突して一悶着あると、『またストレスかよ! 労働者は押さえつけられる、暴動は計画されたもの、虐殺は起こるフミタンは死ぬ!! 空気穴が一個もねぇ息苦しい展開だな!!』と耐えられなくなってました。
『フミタンの死』という最大級のストレスを与えた以上いい加減逆転の狼煙を上げるタイミングには来ているわけで、そういう流れをスムーズにするよう時にキャラクターに共感を演じさせ、時に少しの物語的嘘を盛るバランス感覚は、結構好き。

三日月がイライラしていましたけども、彼は何に苛立っていたんでしょうか。
家族の死に迷わず諦めもせず、理想への決意を燃やしながら現実的な対応を模索するクーデリアに対して、敵を殺すことぐらいしか能がない自分に対してなのか。
大きな流れにとらわれて、気付けば順当な道から外れつつある運命に対してなのか。
どちらにしろ三日月が主体的な選択をしていないことは事実なんですが、オルガに任せっきりで悩みもない過去に比べると、苛立ちを覚える分大きな変化が生まれつつあるのでしょう。
今回のクーデリアのように行動と変化に繋がれば話は大きく動くのですが、まだ三日月の決意は先のようです。
その時も、ふみたんのように犠牲を要求するのかなぁ、この世界。


クーデリアの決意に導かれ、一ヶ月ぶりのMS戦闘に突入する鉄華団とギャラルホルン
グシオンリベイクに流星号、ガンダムキマリスに流星号と、『オラッ! プラモ買え!!』と言わんばかりの新機体がたっぷり投入され、敵味方入り乱れての乱戦になりました。
やっぱMSで殴りあっている時は濃いキャラ描写が出来るようで、これまでの平時の描写からアクションの中でのキャラ描写にテンポが切り替わって、何だか懐かしい新鮮さみたいなものを感じました。

マクギリスは仮面被って高みの見物なので、今回の主役は隣の人改めガリガリことガエリオさんと、遂にMS乗りとして出番を手に入れたシノになります。
統治局の計画的虐殺に嫌悪感を示してる辺り、ガエリオさんは潔癖症なんだなぁ……阿頼耶識に過剰反応してたのも、そこら辺が理由か。
中世の重奏騎士よろしくランスで高速突撃してくるキマリスとの相性も良くて、バルバドスの肉弾戦法でクロスレンジに捕らえられた後、隠し武器で窮地を脱する所とか、油断できぬ手練を感じさせました。
復讐鬼アインくんとの相性も良くて、なかなか侮れないライバルよね。

これまで鉄華団のMS舞台はむっつりミカにがっちり明彦と、真面目ぶってヌキがないメンツがそろっていたわけですが、シノが追加されたことで空気が柔らかくなった感じがあります。
アリアンロッド艦隊が出てきた時の「逃げて~」の軽い調子とか、これまで戦場になかった空気を持ち込んできていて、トリックスターとして期待できる初陣でした。
無論生死のかかった戦場ですので、とぼけつつもやるべきことはしっかりやってたのは高評価。
どうしても重く暗くなりがちな鉄血の戦場を、空元気で風通しよくしてくれると嬉しいなぁ……まぁいつ死ぬか判らんがなホント! 死ぬなよマジ!!

政治レベルの大事になってしまったのでタービンズの支援は期待できなくなってしまいましたが、この話はあくまで鉄華団の物語なので、一旦下がって見守る立場になったのは主人公の当事者性という意味では大事かもしれません。
名瀬の兄さんが一緒にいすぎると、ピンチがピンチとして機能しない時もあるわけで、お嬢が決意を固めて立ち上がり話が大きくなったのは、タービンズを盤面から下ろす意味合いもあったのでしょう。
頼れる親鳥と暖かい巣から離れることで、鉄華団が今後どういう成長をしていくのかは楽しみですね。


戦闘の方は乱入に乱入を重ねつつ機体とキャラクターのお披露目という感じでしたが、計画された虐殺を邪魔された統治局が黙ってるはずもないので、雲霞のごとく出てくる本隊。
MS三体程度でどうにかなるものでもないので、戦闘の外側でお嬢が集めていたカード-暴動に巻き込まれた体験、報道規制に不満を持つメディア、タービンズ経由で動いたバリストン親分、そこから繋がったノブリスとの交渉チャンネル-を全部使って、全世界に向けた演説を成立させました。
この非戦闘的な切り札は、宇宙ヤクザのドンパチを一足で飛び越えて、クーデリアの決意が政治の領域に飛び込んだことを意味しているのでしょう。
お荷物だったはずのクーデリアが、八方塞がりの状況を打破する切り札を切る状況は、鉄華団周辺の力学が大きく変化したことをよく示しています。
オルガもヤクザルールの自己実現だけじゃ乗り切れない立場に追い込まれつつあるけども、そこから一歩先に進むときにステープルトンさんが仕事すんのかね。

ノブリスがお嬢のために報道チャンネルを用意したのは、一つはバリストン親分の事前のネゴシエーションが効いていたことと、もう一つはお嬢の生存が自分の利益にかなっていたからでしょう。
戦乱から利益を吸い上げるノブリスは、お飾りとしてのクーデリアが死ぬことで革命闘争が激化することを望んで彼女を暗殺しにかかったわけですが、フミタンの遺志をついで全世界の『虐げられしもの』のために戦うことを決意したクーデリアは、生きていても革命の炎を煽ってくれるアジテーターに変貌したわけです。
敵の胸中にメールを投げつけてくるタフ・ネゴシエーションと、おそらく来週以降明らかになるだろう取引の材料を合わせて、生きて暴れてもらったほうが利益が上がると判断したからこそ、ギャラルホルンの報道管制・情報支配の裏をかくルートをわざわざ用意したってのが、逆転の秘策が全世界ネットに乗った理由でしょう。

その切り札がどう機能し、イザリビがどこに流れ着いていくかは来週以降の物語。
ヤクザ成り上がりストーリーを大きく飛び越し、抑圧的な政府と抑えきれない反動的革命の衝突に、ステージが変化する回だったと思います。
フミタンの遺志を決意に変え、その先頭に一気に躍り出たクーデリアと、彼女が行使できる唯一の実力として、流されるまま後塵を拝している鉄華団の少年たち。
否応なく変貌していく世界に、今後彼らがどう対応し、『イライラ』をどう使いこなしていく(もしくは持て余す)のか。
まだまだ目が離せない、コロニー編ラストエピソードでした。