イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ハルチカ ~ハルタとチカは青春する~:第8話『初恋ソムリエ』感想

変人の吹き溜まりの中でキュートガールが青春を疾走するアニメ、今週は思い出は毒の味。
ファンシーなベールに覆われた、後味の悪い学生運動毒殺ネタであり、第5話に続く60年台リバイバルネタでした。
自分の事件を解決して少し自由になった芹澤さんが、想像を遥かに超えた狂犬っぷりを発揮したり、変人の楽園・清水南にまた新しい異形の天才が加わったり、学園要素もたっぷり。
爽やかさと苦さが曇天の下で同居する、このアニメらしいエピソードだったと思います。

今回の謎は芹澤さんの叔母にまつわるもので、真実を暴き立てることが必ずしも幸せを呼んでこないという意味では、第5話に似たお話だと思います。
謎の差出人が既に死去しているという意味では第2話に、切開した真実の痛みが謎の被害者を前進させるという構造は、全話に共通するところですね。
各エピソードに共通の作りが見られるのはやはり、作者が強調したい重要なものがそこに秘められているわけで、リフレインに敏感になるのは大事だなと思います。

60Sの世相が絡むと途端に衒学的になるのがこのアニメでして、今回は学生運動宮沢賢治
作中名言はされていませんが、アジ演説のそのまんまっぷりといい、肉食獣と騒ぎ立てるだけの鳥達の対比といい、まぁわかりやすいメタファーでした。
叔母さんが自分の過去をメタファーに落とし込まなければならなかった所に、40年間解消されなかったトラウマの重たさが感じ取れ、そら握り飯も食えんわなって感じだった。
そこにあったのが恥なのか恐怖なのか憧れなのか、はたまたそれが入り混じった感情なのか。
『初恋ソムリエ』というトンチキな題名に色々込めつつ、明言はしない所がこのアニメらしいところです。

賢治要素はエスペラント話者であること、後半の舞台が花巻であることに顕著ですね。
"星めぐりの歌"に曰く"大ぐまのあしを きたに 五つのばした ところ。"が北極星(ポーラー・スター)であり、ベンジャントが熊に例えられた事を考えても、叔母さんと彼の関係は、永遠に損なわれない星空のように、綺麗で淡い恋でもあったのでしょう。
こぐま座がいつでもポーラー・スターを指し示せるような間柄でありながら、しかし原典がそうであるように事実として目に見える星空からは、少しズレている。
そもそも、ベンジャントが勘違いを秘めたおおぐまだったのか、はたまた真実北極星を己に含んだこぐまだったのか、もはや死んでしまって確かめようがない。
作中でこれみよがしに強調されはしない、読みの結果として浮かび上がってくる要素なんですが、二人の関係を巧く投影した良い詩情だと思います。


メタファーと詩情に覆い隠されつつ、叔母さんが抱え込んだ傷は非常にシリアスかつ生々しいもので、ハルタが初恋ソムリエ研究室で『今日はここまで』と言ったのも、その痛みに踏み込むことをためらったからでしょう。
彼は怜悧な頭脳を持ちつつ、真実が切開された時の苦痛にとても敏感で、不必要に真実を暴かない立場を徹底しているように見えます。
そういう配慮は超狂犬・芹澤さんの大暴走でなぎ倒されてしまうわけですが、しかし真実の切開は痛みだけではなく、止まった時間を先に進めより前向きな歩みを取り戻す助けにもなる。
ここら辺の多面性への目配せは、先程も言ったとおりこの作品の全体に共通するところです。

真実が切開された後の『予後』を丁寧に描いているのもまたこのアニメの特徴でして、今回で言えば無事吹奏楽部に加入なった檜山くんと、彼に心を残していた麻生さんの元気な変人っぷりが印象に残ります。
檜山くんが部に溶け込んだことを示す昼食のシーンで、さり気なくおにぎりが話に先んじて登場している所とか、目配せ効いてて好きです。
芹澤さんの憮然としたリアクションを見るに、芹澤-檜山-麻生の三角関係なのかなぁ……。

今回の話は第6話から続いている芹澤さん攻略戦の一貫でもあって、これまであまり見せなかった超積極的なマッドドッグっぷりに、思わず笑いがこぼれてしまいました。
同じメガネ女子である成島さんは角が取れて弱い生き物になったのに、お前は牙を剥き出しにするのか……静岡のメガネ女子の生態は難しいな。
日常の芝居が活き活きと面白いので、謎から開放されて意外な側面を見せても、キャラが違う床含めて新しい魅力と感じられるのは、とても好きなところですね。

今週もチカちゃんが生来のメガネ殺しを発揮し、芹澤さんとどんどん距離を詰めておりました。
芹澤さんが初恋ソムリエと高校生探偵に縄をかけ、チカちゃんちに乗り込んでくる所は、絵面が面白すぎるやら、これも昼食のシーンで細かく伏線を張ってる所に感心するやら、ジワリとした距離感描写に胸が高鳴るやら、密度の濃いシーンでした。
あそこで安易にベットを水平に並べず、垂直方向にズレつつもお互い側にいる構図で二人の心理を切り取ってきたのは、細田直人っぽいなぁと思いました。
芹澤さんとチカちゃんの間合いは、成島さんとはまた別の距離感が強調されていて、見ていてとても面白い。

フルートの練習風景を細かく入れて、吹奏楽素人であるチカちゃんの孤独と不安、そこに入り込んでくるメンター・芹澤さんとの関係を際立たせていたのも、横幅広くジャンルを横断しているこのアニメらしい描写でした。
今回直接吹奏楽を掘り下げる話ではないのだけれど、だからこそチカちゃんがブラスバンドをどう思っているのか入れこむことで、立体感が出るというか。
いろんな要素を盛り込んだお話は取り回しが難しいけど、その一つ一つを丁寧に磨き上げて描写することで、奥行きと豊かさがでていると思います。


そしてタイトルにもなっている初恋ソムリエ……実にムーディーで、絶妙に胡散臭くて、良いタイトルだよなぁコレ。
チカちゃんと吹奏楽部だけではなく、学校が舞台になる度発掘される変人共を見ているだけで、このアニメ存分に面白い。
実は"古典部シリーズ"や"虹北恭介シリーズ"といった作品群に連なると同時に、"究極超人あ~る"や"涼宮ハルヒシリーズ"の系譜にある、トンチキ変人大集合おもしろ学園青春物語でもあるのだな、このお話。

初恋ソムリエ・朝霧くんは証言を元に状況を整え、真実を発掘するこの作品もう一人の探偵といえます。
チカちゃんはバカなので、推理の材料が並んだ段階でほぼ真相を看破していたハルタと同じラインには並べませんが、部活動として初恋研究会をやってる朝霧くんは、彼と同等の頭脳を持っておるわけです。
これは"名探偵 VS 名探偵"の構図なのですが、二人は別に真実の当てっこで競争するわけではなく、如何に効果的に真実を切開し、叔母さんが抱え込んだ傷を治療するかという部分に意識が向いている。
『変人ながら、根っこの部分が優しい』という意味でも、二人は似た者同士なんでしょう。

しかし初恋研究会、可愛い女の子ばっかり部員だったけど、朝霧くんモテるんだろうか……。
このアニメらしい、エキセントリックだけどそれだけではない、体温のあるキャラクターだったので、再登場してくれると嬉しいなぁ。
今度は真っ向からの推理勝負とかして欲しいけど、(少なくともアニメが捉えている範囲では)謎それ自体よりもそれがハマり込んでいる位置とか、真実が切開された時の痛みの方に重点が置かれてるお話なので、あんま無いかなぁ。


というわけで、叔母さんの初恋を収めるべき所に収めつつ、まーたチカちゃんがメガネ女子を攻略するお話でした。
何かというと抱きつきたがるけど、相手との距離を考えて我慢したりしなかったりするチカちゃんは、とてもキュートで良かったですね。
これでOPから推測される主要メンバーは大体落とした感じだし、コンクール予選も迫っているので、吹奏楽関係で一個大きいの来そうだなぁ。

学園・青春・部活・人生・後悔・恋。
様々な要素を含みつつ、それらが相互に響きあい魅力を引き出し合っているので、どれが来ても面白いっていうのは、作品としてリッチだと思います。
幸せな期待を抱いたまま、来週を待ちましょう。