イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うしおととら:第28話『もうこぼさない』感想

戦って戦って、キミは人のために死ねるか系バトルアニメーション、今週はそれぞれの覚悟と痛み。
前回鮮烈に全てを奪われた潮ですが、しゃがみこんでいると麻子がボーボー燃えちゃうので頑張って立ち上がり、自分もボーボー燃えました。
その後引き返して自分と好きな女の子をボーボー燃やした張本人のために戦いに赴き、とらと一緒に頑張りました。
……こうしてまとめると、マジ見返りなく誰かの為に戦ってんなこの中学生……ヤベェぜ。

うしとらアニメが始まり、夢中になってサンデーめくってた時とは別の視点からこの物語を見つめてみると、やはり古典的かつ強靭な倫理観にドラマが支えられているのを、強く感じます。
自分を邪険にし傷つける妖怪をも殺せない潮にしても、。友の命を救うため震えを噛み殺して炎に飛び込んだ麻子にしても、そこにあるのはまず『仁』という思いやりの気持ちです。
自分ではない誰かの痛みを己のものとして受け止め、それを止めるために体を張る勇気は、常に優しさと背中合わせであり、記憶を失った妖怪たちが振り回す危うい『正しさ』とは一線を画しています。
記憶と余裕と共感を失った妖怪たちの必死さを、しかし麻子はしっかり感じ取っているわけで、このアニメで大事にされているのは強さであると同時に他者を思いやる『仁』の気持ちだなぁと、今回は強く思い知らされました。

真由子とジエメイさんがとらちゃんのツンデレ芸をいじり倒していたのも、人喰いの業を背負い『仁』を知らなかったバケモノが、人とふれあう中で手に入れた『他人の痛みがわかる心』を確認する作業なわけです。
うしおが妖怪の中に人間を見たように、何かと『俺は人喰いのバケモノだからよ~、うまい肉食うために人間助けちゃうぜ~ワルだぜ~』と嘯くとらちゃんも、潮から非常に大事なものを受け取っている。
この『仁』の鎖が完全には解けていないことは、麻子にしろ妖怪にしろ、潮たちと運命を重なり合わせたモノたちの記憶が、完全には消えていない描写からも感じ取れます。
僕らは激しい戦いだけではなく、そこで試される人間の正しさにこそ惹かれ、心を動かされてきたわけで、卑劣な白面の策略が潮の記憶を奪ったとしても、大切な光が完全には失われてはいないという今回の描写は、前回のショックを巧く補う描写でもありました。
かがりが秘蔵の霊薬を惜しげも無く麻子にぶっかける所は、八方塞がりの状況で一縷の望みを感じた、良い描写だったなぁ。
あと麻子の回想シーンのUSIO☆LOVEっぷりね……潮の記憶を奪われているからこそ、気恥ずかしさがぶっ飛んで素直な気持ちが表に出てくるってのは、面白い見せ方だよなぁ……白面マジ許せねぇ……。(二人の純愛を守護りたいマン、怒りの独白)

『仁』と並んで重視されているのが、過去に受けた恩を忘れず報いる『義』でして、白面の陰謀によりネジ曲がってしまった記憶に傷つけられるとしても、うしおは妖怪たちから受けた『恩義』を重く受け止め、誰も傷つけさせないために戦う。
白面によって過去の記憶、つまり『義』の足場となる繋がりを強制的に奪われた妖怪は、自分たちの希望となったうしおの一番大事な存在を、自分たちの手で燃やしてしまう寸前まで行ってしまうわけで、そこまでされてなお失われた『義』のために戦場に戻る潮は、ギリギリの所でほんとうの意味での『正しさ』を体を張って証明している。
もし潮が間に合わず、麻子が鉄に溶けてしまっていたら、如何に記憶を飛ばされていたとはいえ妖怪たちは潮の優しさと正しさに対し、とてもじゃないけど隣に並ぶ資格を失っていたでしょう。
無論潮は自分が心の底からやりたいと思ったことをやっているわけですが、その手前勝手な行動が結果として妖怪たちの人間性をギリギリですくい上げているところをみても、まさにお話を牽引する主人公として十二分に機能しているわけです。


無論正しい行動とはいつでも難しいものであり、このアニメで言えば白面のエゲツない謀略だとか、体を炭と化す炎の痛みとか、かつて仲間だったはずのものが襲いかかってくる切なさとか、色んな障害となって立ちふさがってくる。
しかし試練が厳しいものだからこそ、それをくぐり抜けた心の輝きがただのお題目ではなく本物なのだと心から実感できるし、立ち向かう勇気を応援したくもなる。
そして何より、しっかりと『仁義』が報いられ、他の人の倫理を強化し別の行動に繋がっていくことが、潮の前向きな(時に前向きすぎる)行動が無駄ではないとしっかり感じさせてくれるわけです。

この綺麗事を正面から扱いつつ、それを貫く厳しさからも目を背けない姿勢が一番良く現れているのは、麻子の犠牲でしょう。
ハタから見ててもすっげー熱そうな火炎に、当然震えつつも胸を張って立ち向かい、友のために見を投げ打つ麻子には、何の能力もありません。
しかし力のあるなしが行いの尊さを決めるわけではないし、記憶を失った妖怪たちの危うい正しさをただの女子中学生が乗り越えるためには、本当に危険な行為に挑まなければいけない。
そこでただ綺麗事を並べるだけではなく、真由子に対して感じていた優越感とか、負い目とかを遺言のように告白させ、麻子を失う真由子のすンごい表情を気合を入れて表現(安野さんの絶叫、ほんと凄かったです)し、火傷で損なわれた身体もしっかり表現する。
描写を伴わなければただの看板となってしまう作品のテーマに、しっかりとキャラクターの涙と痛み、人間的な弱さを入れ込んでいることが、うしとらがドドンと胸に迫る物語になっているとても大事なポイントなのです。

麻子の犠牲は当然潮にとっても非常に重要で、『他人の痛みを我がものと感じ、迷いなく為すべきことをする』という『仁』の気持ちを、麻子の背負った火傷を潮も共有することでビジュアル的に表現する激しさは、このアニメらしい強さがありました。
タイトルにもあるように、潮は何度も正義に挑戦する現実の厳しさに膝を降り、救い上げるべきものを取りこぼしてきました。
今回ギリギリの所で麻子を救ったのは、無論自分と麻子のためであり、『仁義』を忘れさせられてしまった妖怪のためであると同時に、過去救えなかった存在への贖いのためでもある。
苦しんで、取り逃して、ようやく一番大事なものをしっかり掴みとった今回の潮は、28話に及ぶ長い道を歩いてきたからこそ感じられる、重たい手応えに満ちていました。

麻子を助けた後、ジエメイに『愛するものか、戦いか』という二択を迫られ、ぶっ壊れたように涙を流す潮の表情も良かったです。
潮はあまりにも正しく『仁義』を選び麻子をジエメイに託すわけですが、その選択には当然痛みがないわけではない。
『正しい』戦いに突き進んだ結果麻子はボーボー燃えるし、誰も自分のことは覚えてないし、中学生が背負うには重たすぎる辛さを、潮だって背負っているわけです。
ここら辺は、報われない戦いを終えた後「感謝されるために戦ったんじゃない……」と呟く表情の虚脱からも、良く感じ取れます。
傷を受け、後悔し、涙を流す『人間』が震える脚を一歩前に進める尊さがちゃんと描かれるためには、やはり弱さも描く必要があり、うしとらはそれがとても上手い、ということなんでしょうね。
ここら辺は『超ヒロイン力満載だった麻子に、私は嫉妬してた!』と告白する小夜さんの姿とも、共通するところでしょうね。


主人公たちの『正しさ』を表すためには、妖怪たちのような『正しさ』と『邪悪さ』の間で迷う存在と、『邪悪さ』を体現する敵が大事になります。
若本さんの油の乗った演技が冴え渡る紅蓮は、もう見るからに聞くからに自分勝手に他人を踏みにじるクソ悪魔であり、同時にそうそう簡単には撃破できないしぶとさを感じさせます。
やっぱ『真っ黒なとら』『鼻面から三本霊剣が生えてる』っていうデザインが良いよなぁハッタリ聞いてて……ぱっと見ただけで『あっ強い、あっ悪い』って分かるもんなぁ。

記憶を失った妖怪軍団は、このエピソードでは物分かりよく潮の正しさを認め、仲間になる訳にはいかないので、うしとらVS妖怪軍団となりそうな所で水を入れ、状況を別のフェイズに動かした紅蓮の乱入はなかなかの妙手でした。
あの後押し問答しててもダルいだけだし、大立ち回りを発生させつつ一端うしとらを引かせ、自分が貫くべき『正しさ』を確認させる間を作ったのは、実際上手いよなぁ。
原作からいろいろぶっ飛んでいるので、紅蓮の悪逆っぷりはまだまだ足りませんが、そこら辺は今後エピソードを再構築する中で補ってくれるでしょう……多分。
実際紅蓮の『こいつマジ速く死んでよ~』と願わざるをえない、徹底した悪逆っぷりは話を盛り上げる大事な要素なので、マッチアップ相手であるヒョウさんともども、速いフォローが欲しくなるわな。

後今回は真由子の覚醒回でもあって、力なきヒロインだったはずの真由子が『お役目様』のちからに目覚め、その能力で持って『正しさ』を守れるヒーロー側に河岸を変えるエピソードでした。
とは言うものの、今回圧倒的に『正しい』行動をしたのは麻子であり、為すべきことをまだ達成できていない真由子は、まだまだヒーロー一年生といったところでしょう。
うしとらの上手い所はまゆこがこの事実を既に把握しているところでして、『炎を恐れず飛び込む勇気』が自分の美徳ではなく、別の自分らしさがどこかにあること、それを見つけ貫くことこそが真由子のヒロイズムだと、この段階で整理しているところです。
真由子のヒーロー街道は今回の発見と決意にしたがって進めばいいわけで、アクションを激しく起こしつつも、今後のドラマの見取り図を抜け目なく視聴者に開示し、見る側を迷わせないサービスがちゃんとしているのは、本当に素晴らしいですね。


というわけで、色々かっ飛ばしつつもそれ故に異質な速度と熱さが生まれている、うしとらクライマックスでした。
エピソード自体はかなりぶっ飛んでんだけど、キメどころの作画や演出が非常に鋭いので、熱量が落ちてないのはホントありがたい。
前回失ったかに見えた潮の記憶=それを核とした『正しさ』もまた、完全には消えていないと麻子が(ボーボー燃えながら)証明してくれたわけで、色々失いつつも希望が感じられる、とてもうしとららしい展開だと思います。

やらなきゃならんこと、やってほしいことは山積しており、やりきれるのかというフアンもあるけれど、やってくれるという信頼も沢山。
うしとらラストラウンド、いい具合に面白くなってきましたよ!
いやマジでなー、時間無いの惜しくもあり、見せ場自体は最高に仕上げてくれて有り難みフルマックスでもあり、色々悩ましい。
悩ましいがありがたい、マジ良いアニメです。