イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジョーカー・ゲーム:第4話『魔都』感想

謀略と戦争の世紀を様々な角度から切り取るエスピオネージェンツ・アクション、今週は退廃の魔都・上海が舞台。
朴訥な憲兵軍曹を主人公に、憲兵隊内部の腐敗を追いかける……というお話しの外側に、事件全ての脚本を描き役者を操ったD機関の手際が用意されているお話でした。
第1エピソードも第2エピソードもD機関内部からの視点だったので、今回完全に外部から事件が描写されることで、局地的諜報戦におけるD機関の無双っぷりが目立ちました。
『スーパースパイに、良いように踊らされる実直な軍人』という構図自体は第1エピソードと同じなんだけど、佐久間さんがスパイのやり口を学び自分のいるべき場所を見据えたのに対し、本間軍曹は自分の事件にD機関が介入していることにすら気づいていない。
一度描いた事件に似た物語を綴ることで、逆に差異を際立たせ『こういう勝ち方もあるんだ』というお話の横幅を見せる手際は、まさにオムニバスの醍醐味と言えます。

もちろん明確に異なる部分もあり、日米開戦前夜でまだ余力と統制のある日本と、欲望と謀略と暴力が渦を為す租界上海では、舞台を漂う空気が全然違います。
僕は以前の感想で『スパイという組織、戦中という時代そのものがこのアニメの主人公ではないか』と言っていましたが、前回のヴィシー・フランスも含めて、舞台となる場所によって異なる陰影もまた、この話の主役なのかなぁと思います。
ここら辺は毎回きっちり仕上げ、街ごとの表情を彫り深く見せてくれる美術のパワーが、最大限活きている部分です。

どう蠢かしているのか全く想像の付かない、群衆たちの腹に一物も二物もありそうな表情。
アジアと西洋が欲望を潤滑油に融合し、全世界の豪奢と悪徳が貪婪に花開く華やかな風景。
その奥に一歩入れば、人の命を簡単に飲み込む路地裏迷宮が広がっている。
開戦前夜の上海の光と闇を、怪しくも魅力的に描いた今回最大の主役は、やはり街それ自体な気がします。


そんな街を舞台に展開した物語で目立つのは、赤い花が朴訥な印象を際立たせる本間軍曹ではなく、やはり藤原啓治さんの豹変が印象的な及川大尉だと思います。
憲兵のお硬い仮面の裏で、飲む打つ買うの三拍子を思う存分楽しみ、自分以外の誰が死のうとお構いなし、軍への忠誠クソっ喰らえのゲスな悪党っぷりは、すっげーイイ表情作画も相まって猛烈に印象に残ります。
アヘンの横流しも、少年娼婦を抱いた挙句口封じにぶっ殺して、巻き添えで現地人ぶっ殺すのも、ただただ『気持ち良かったから』なんだろうなぁ……。

及川大尉が咲かせた悪の華のドス黒い輝きに比べると、本間軍曹はイマイチ面白みがないキャラクターに見えます。
草薙の一人二役を見抜くでもなく、誘導されるままに状況を整えて憲兵の立場を弱め、D機関に付け入る隙を
しかし五年前赴任した当時の及川大尉はおそらく本間軍曹と同じか、それ以上に清廉潔白で真っ直ぐで愚鈍な、面白くない男だったんだと思います。
そんな及川大尉が『魔都』の魔力に飲み込まれ、快楽だけを追い求める堕落者が目立つのは、赴任三ヶ月で『魔都』に未だ染まっていない、いわば白紙の憲兵軍曹がしっかりいるからでしょう。
この後しばらくすると上海租界は接収され、及川大尉が思う存分耽溺した華やかなる闇も姿を変えるわけですが、本間軍曹は『魔都』とは無縁な朴訥な存在のままでいられるのかねぇ。

事件が一応の収束を見た後、草薙が事件の舞台裏を披露するところは、D機関の関与が仄めかされていないからこそその実力が感じ取れる、良いどんでん返しでした。
お話の表向きのオチは『ホモの痴情の縺れ』で付くわけですが、そこに落としこむように状況を作っていったんだろうなぁ……本間軍曹の関与と誘導含めて。
本間軍曹の視点から見ると憲兵の正義と規律を貫いた結末なんだけど、その実D機関の権益に沿うように演出され操作されていて、軍曹は己の愚鈍にすら気付けていないという皮肉な結論は、スパイの凄みをサラッと見せてて好きな終わり方です。

と言うわけで、魔都に食われた男と、機関に踊らされた男と、誰にも気づかれないまま全てを操った男の話でした。
オムニバスという形式を活かして、様々な顔をもった街を色濃く描き、捻りの効いたストーリー展開で毎回楽しませてくれるのは、ありがたい限りだ……あまりにも舞台の描写が良いんで、一種の観光アニメの色合いすらあるな。
そうして様々な角度から照らし出すことで、背景となる時代とスパイという存在が持つ多面的な魅力がぐっと浮かび上がってくるのも、オムニバスの力を最大限発揮している感じだなぁ……やっぱ面白いや、このアニメ。