イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

12歳。:第8話『ナマエ』感想

色と恋に浸りつつで己の存在証明を探すアドゥレサンスの地図、今週のイベントは名前呼びとメール。
第3話以来のW主人公を活かした展開でして、幼い恋人を手のひらの上で転がすサディスト紳士と、同じ背丈でぶつかり合う不器用ボーイの生き方の差が良く見えるエピソードでした。
桧山も結衣ちゃんとの恋愛修行で人間を磨いて、いい塩梅にイケメンな台詞が言えるようになってきたのう……。(12歳。を見守る老人ッ面)

花日ちゃんの名前呼びトライも、結衣ちゃんのメールでのアレソレも、恋愛という形で他社との距離感を探り、適切なコンフォータブルゾーンを見つける取り組みということが出来ます。
告白をしたから、キスをしたから、デートをしたから、恋人になったから。
そういうイベントの一つでありながら、彼女たちの行動は人間関係の濃厚な感触を求める具体的なものであり、そういう生々しさがしっかりあるのは、このアニメの強みだなぁとつくづく感じます。

名前呼びやラブラブメールを通じてより近く親しい場所に愛しく大切な人を起きたいという欲望は、恋を通じてしか出来ない個別的なイベントでありつつ、同時に同しようもない寂しさを抱えた人間にとって普遍的な感情でもある。
ひどくオーソドックスで定型化した物語類型を心地よくなぞりつつも、このアニメがなにか特別な熱を秘めて心を叩くのは、そういう普遍的な寂しさに対してしっかりアプローチをしていること、12歳という季節を寂しさとそれを埋める喜びが見え始める時期として描いていることに、強く関係している気がします。
なんというのかな、一種の恋愛ポルノとしての快楽をしっかり供給しつつ、どこかに真心とか本気みたいのが埋められている感じというか。

そこら辺は定形イベントのなかに、血の通った感情の動きをしっかり埋め込めることに成功しているから感じるのでしょう。
名前で呼んでもらって特別な関係になりたいと純粋な願いを抱えつつも、何故か気恥ずかしくて策を弄してしまう花日のもがき。
メールという新しいメディアでどう心を伝えればいいのか迷いつつ、小さくて大きな決断を込めて送信ボタンを押す結衣の純朴。
『大人でも子供でもない』彼女たちが抱える矛盾はひどくくすぐったくて、しかし妙に共感できる(それがN倍以上歳食ったオッサンでも!)柔らかさがある。
こういう小さなイベントに込められた普遍的な感情を切り取る目の良さもまた、小のあに目の強みなんだろうなぁ。

僕は物語を常時整理し心地よく保ってくれる、いわばストーリーの交通整理員としてのまりんちゃんを尊敬しながらこのアニメ見とるわけですが、今回花日と結衣のおバカな悩みを真剣に受け止め、一緒になって考えてくれる彼女の描写は、そういう機能的ありがたみを超えた魅力がありました。
12歳という季節、恋と出会った瞬間にああいう人物が隣りにいるってことは、二人の主人公にとってとんでもなく有り難いことであり、そういう貴重な瞬間を見守れることも、このアニメ見てて楽しいところです。
あの三人のふわっと温かい、どこも力むところのない無垢で優しい空気は、なんかオッサンは見てるだけで幸せになんのよね。
恋愛以外の部分にも人生をポジティブに捉え肯定する要素がたっぷりあるのは、やっぱ良いよね。


そんな風に青春を謳歌するガールズを、それぞれのやり方で受け止めるボーイズたちも良かったですね。
これまでの形通りに、サディスティックに幼い恋人を手のひらの上で転がす高尾と、一歩一歩時々間違えつつ、自分の足で人生の階段を上がっていく桧山。
対象的な二人の恋人たちがいることで、このお話ってかなり広い画角を手に入れていると思います。

お互いぶつかり合い影響し合い成長しあう結衣&桧山に対し、花日と高尾の関係は圧倒的に人格的に成熟した男性が女性のワガママを快く『許して』あげるという、上下関係のはっきりした間柄。
『お前人生何週目だよ』という高尾先生の恋愛スーパープレイを見るのはそれはそれでとても楽しいのですが、これ一本だと不公平感が目立つし、人間関係がからみ合い時には逆転するドラマを作品から遠ざけ、お話が体温を失っていく気がするわけです。
フィクショナルなまでに完成して間違えないスーパーボーイに、思うがまま身を任せ幼さを堪能したいっていう欲望が充足されるのは、無論気持ちが良いんだけどね。

しかし結衣と桧山がいることで、失敗と成長の相互的関係を体験させることが可能になって、12歳という年齢にふさわしい小さな歩みを体温込めて描くことも出来る。
凡人サイドだけだと泥臭くなる所も、高尾の軽やかな恋愛ステップを主軸に組み込むことでいい具合にファンタジーな味わいを取り込んで、軽味を込めて描写できる。
この二組のカップルの相補的関係は、見た目以上に面白いケミストリーを生み出してんだなぁと今回思いました。

欲を言えば花日の中の幼さや無垢さを高みから愛でるだけではなく、それに一発食らって人生の大事な部分をグラグラ揺るがせられるような逆転劇を、高尾先生主役で見たくもあるけどね。
彼は『揺れない』『変わらないこと』でキャラクターの面白さを担保しているキャラクターなので、人格的グラつきを背負わせるのは中々調整が難しい話だとは思う。
しかし普遍の天才としての描写が面白く魅力的だからこそ、自分に欠けている要素を花日に見つけ、そこで余裕をなくすようなシーンが一欠片あるとより面白いだろうなぁ、などと思ってしまう。
『各々の物語役割を的確に果たしているが故に、そこを半歩はみ出した見せ場が欲しくなるが、そうなってしまうと作品の絶妙なバランスが壊れてしまうのではないか』というジレンマは、このアニメが良く出来ているがゆえに感じる悩みだろうね。


と言うわけで、今週もキュンキュン大盛りでお前の心臓にステンと入れさせる!! という殺意を感じる展開でした。
桧山ボーイは母の喪失とかクラスのまとめ役とか、結衣が公的ペルソナとして作り上げた外殻の奥、とても柔らかくて傷つきやすい部分を積極的に背負う方向に成長してて、見てて頼もしい。
そういう部分を背負えるからこそ、『彼氏』という役割は特別だし、『恋愛』という関係と体験はスペシャルなのだろうし。
男として、というより人間として桧山がグングン成長し、子供が背負えないものを頑張って担おうとする姿は、説教臭くない健全さを作品に宿しててグッドやね。

そして来週は、今週仲良しっぷりを強調していたからこそ効く喧嘩回。
すでに彼女たちを取り巻く世界の優しさ、何か辛いことがあってもそれを糧に前に進めるポジティブさはイヤというほど描写してきたので、どういう下げ調子を使いこなしてくるのか今から楽しみです。
甘い味付けだけだと説得力も減っていくわけで、彼女らが人間だからこそ生まれる苦味をどう描くか、非常に楽しみです。