イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

影鰐 -KAGEWANI- 承:第13話『終局』感想

カーゲーワーニー!!(例のBGM)
ホラーアニメの金字塔、ヒーローフィクションの新たなる聖書もついに最終回、光と闇の影鰐マンによるラグナロク、決着編です。
木村と番場先生の哀しい友情をメインに据えつつ、サプライズもたっぷりご用意して綺麗にまとめました。
奇獣を巡る事件自体は収束しないのは、ホラーのお約束というか、影鰐 転に乞うご期待!! というか。
いやマジ、三期オナシャス。

いろんな事に挑戦してきた影鰐二期、最後にどういう見せ場を用意すんのかなーと思ってましたが、思いの外アクション面は抑えめ。
しかし期待のさせ方とそれを裏切るサプライズの使い方が非常に上手く、八分の短い時間にいくつも起伏のある、見事なクライマックスでした。
ナギが万感の思いを込めて投げた因縁の短刀を(カッコイイBGM)補正ごとたたっ斬る木村、最高のタイミングで再登場を仕掛け全てをぶち壊しにして去っていく奇獣本間と、視聴者の顔面をぶん殴るタイミングはマジ完璧だった。
動き自体は三十路の中年が突っ立って影が動いてるだけなんだけど、シンプルな伏線を的確に活用した結果、ちゃんと心拍数アガる演出になってるというか。
ここら辺の狙いすました演出の巧さは、二期影鰐に共通のものだったと思います。

話のメインは木村と番場先生の愛憎でして、番場に殺されかけてもなお番場と同じ存在になろうとした木村と、その思いを正面からは受け止めきれないにしても、複雑な感情全てを込めて抱擁する番場先生との濃厚な感情が、豊かに綴られていました。
アクションを抑えめにしたことで、むしろ情緒面の圧力は強まった感じもある。
仮面が外れることで『人間』木村の弱さが出てくる所とか、メタファーによる演出も素晴らしかったなぁ。

最終局面の木村は非常に複雑に受け止められるキャラクターでして、番場先生の能力を奪ったのも、更なる力を求めて暴走しているとも取れるし、番場先生の中の影鰐を吸い出し、人間に戻そうとしているとも取れる。
ただの力に溺れた愚か者というには、二期の木村は魅力的な側面を沢山僕らに見せすぎたわけで、これまでの物語で溜まった木村への複雑な愛着を、しっかり奔出させてカタルシスとした最終話の展開は、本当に素晴らしかったです。
悪いやつで、良いやつで、愚かなんだけど愛おしい、敵で味方な木村雅貴をたっぷり見せたからこそ、機械と影鰐という異物を取り込んでもなお人間である木村と、一度は人間に戻るチャンスを与えられつつ、影鰐という異物を自分の意志で受け入れ因縁に決着をつけた番場先生の姿が良く刺さるのだ。

木村の奇獣化は番場先生が力を制御しきれなかったことが原因だし、番場先生が人間としての死を迎えたのは、エージェント木村の強欲が理由だったりする。
二人の複雑な因果は解けようがないほど絡み合っていて、ただ対立するだけではない、味方として支え合う『人間らしい瞬間』もたしかにあった過去が、その関係を補強している。
ショッキングなホラーをしっかり描きつつも、貪欲に男二人の奇っ怪な因縁をほり込んできたこのアニメ、それに付き合ってきた視聴者としては、長尺で己を正当化する木村の狂気は物語必然性に満ちた『欲しい』シーンなのだ。


影鰐と人間の間を行ったり来たりする三十路たちを見ても判るように、人とバケモノの境界線を追いかけるこのアニメは、常に人間の条件を問うてきた。
ホラー・ジャンルが怪物を追いかけ続けるのも、恐怖や混乱という逆光によって人間の尊厳を照らしだす意味合いがあるのだろう。
そういう意味では、人間以下の外道だった本間が奇獣それ自身と化して再登場し、蠱毒を生み出した暗い闇に帰還していく展開は、濃厚なカルマの輪を描いてきたこのアニメらしい決着だったと思う。

人間の思いを込めたナギの短刀は木村を止めれず、奇獣となった本間の一撃が全てを壊す。
クリーチャーとホラーへ猛烈なリスペクトを込めたこのアニメだからこそ、クリーチャーが持つ理不尽が最後の一擲となる展開には、裏切りの喜びと奇妙な納得があるのだ。
やっぱアレよなー、怪物が不意打ちでワーっと登場して、うわーびっくり!! てなるのは大事よな。


と言うわけで、影鰐二期も無事走りきりました。
『ショートアニメにしては』とか『電脳紙芝居のわりに』とか、そういう限定的な言葉を一切排除して、思い切り声を大にして言いたい。
傑作でした。

主人公自体がクリーチャー化したことで、一期のようにオムニバス・ホラーとして展開するには無理が出てきた状況から開始し、番場宗介の『人間の証明』を軸に据えダークヒーローアクションとして舵を切り直した方向設定。
『隠匿』と『暴露』の切り替えだけでサスペンスを作れていたホラーから、視聴者を納得させる『動き』が必要とされるスタイリッシュアクションに切り替わっても、その変化を実力で乗り越えた、工夫に満ちた演出と作画。
番場先生のダークヒーロー路線だけではなく、未だ掘り尽くせぬ魅力を持つ奇獣相手のオーソドックスなホラーや、木村を主人公とした企業抗争モノなど、複数のジャンルを自在に横断するバラエティ。
番場の対になる存在としてのナギ、木村と対になる存在としての本間と、果たすべき物語役割をしっかり背負った追加キャラ。

視聴者的にも影鰐の奇抜さに慣れてくるタイミングで、しっかりと新しい試みを形にし、視聴意欲が萎えていくどころかムクムクと盛り上がる、良いシリーズでした。
新しいことをするだけではなく、木村や番場先生の持つどうにも魅力的な可愛げや、ホラーとしての鮮烈な見せ方など、影鰐の持っている魅力を捨てず、むしろググッと強化していく展開も素晴らしかった。
影鰐のオリジンを活かし『制御不能な技術を追い求める、人の愚かさと傲慢』というテーマを据えて、バイオ企業猿楽と絡めて因果を深めていったのも、非常に良かったです。

濃厚な愛憎劇を演じきった二人の三十路はもちろんのこと、人間サイドのスタイリッシュ担当として新登場したナギちゃんも、非常に良いキャラでした。
復讐心と伝来の技だけで戦う彼女は、人と奇獣の間で揺れながら、『人間の証明』を探し求めるために必要な理由は『影鰐と同化していること』ではないと体で証明していて、テーマの普遍性を広げていたと思います。
番場先生は自分の中の奇獣を制御できる立場にいて、ナギちゃんが復讐心を暴走させて影鰐化していく立場を担当するコントラストは、ダークヒーローが持つ複雑な陰影をくっきりと視聴者に見せていたし、対照的だからこそラストの共闘も映えた。
超スタイリッシュに活躍しつつ、負けるところできっちり負ける良いキャラだったなぁ、ナギちゃん。

テーマ性を深めつつも映像体験としての面白さもけして忘れなかったのは、いくら褒めても褒めたりない所です。
影鰐ハンターたちのスタイリッシュアクションと、最高のタイミングで差し込まれるカッコイイBGM。
動かないはずの劇メーションに『速度』を与える工夫と、従来のホラーとしての優れた見せ方が同居し、お話に必要な演出スタイルを適宜選び取っていたことがとにかく素晴らしい。
色々考えても楽しいし、考えないで映像の波に乗っているだけでも楽しいって、中々出来ることじゃあないですよホント。

と言うわけで、影鰐二期非常に楽しませていただきました。
ダークヒーローを語る際に必要な陰りと哀愁がしっかりあって、ホラーとしての緩急、アクションとしてのケレン味、いろんなジャンルを横断する快楽、貪欲に盛り込まれていた。
良いアニメだったなぁ……素晴らしい。
良いアニメを見せていただいて、本当にありがとうございました。
しっかし木村、最後まで番場先生好き過ぎだったな……番場先生もな~。