イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

orange:第1話感想

取り戻せないはずの後悔を、時空を歪めて取り戻す青春SF、その第1話でございます。
青春タイムリープSFの傑作"STEINS;GATE"の浜崎監督と、ふわっとした原作絵を一気に濃い目に仕上げた結城信輝デザインがタッグを組み、なかなか独特のテイストを醸し出していました。
10年後からの手紙で未来を変えていく時空ミステリパートと、10年前のあまりにも輝いた青春の残照がどう絡み合うのか。
謎の見せ方がなかなか上手いところフックになっているし、青春部分のキラキラ感と自然さが非常にグッドだし、所々に尖った演出も見えるしで、興味をそそられる出だしとなりました。

ジャンル的話をすると、青春と時空改変の相性は非常に良く、既に定番化している印象もあります。
思いつくままに上げれば"STEINS;GATE""ALL YOU NEED IS KILL""紫色のクオリア""魔法少女まどか☆マギカ""CROSS†CHANNEL""僕だけがいない街"などなど、青春の輝きと痛みを、時間の巻き戻しと運命の書き換えというガジェットを使いこなして鮮烈に描いた物語は、歴史にその足跡を刻んでいます。
輝いていればこそそれが喪われることが運命づけられている青春、そこに必ず伴う失敗と後悔の痛み、世界を書き換えて運命をその手に掴むカタルシスと、テーマとガジェットが噛み合えばこそ、青春と時空改変は幾度も出会い、それぞれ個別の物語を生み出してきました。


そういう系譜の上に乗っかったこのアニメ、"Oragne"。
いかにも少女漫画的な『なんてことない毎日の中に、凄く素敵なシャイボーイが飛び込んできて……』という出だしに、『後悔を取り戻すべく送り込まれた、10年前の手紙が届く』というSFガジェットが混ざる作りは、言われてみれば納得の組み合わせなんだけど、実際出てくるまではなかなか思いつかない、鋭いミックスアップだと思います。
オトコノコ向けSFだとメカメカしくなったり中二っぽくなるタイムリープ・デバイスが、『手紙』というポエジー溢れるものになっているのは、少女漫画ジャンルらしい面白みだなぁ。

お話の方は不思議な手紙のメッセージを半信半疑で受け止めつつ、身近な後悔を乗り越える勇気に変える現代のお伽話……という見方は、あくまで過去の主人公の一人称的認識。
未来と過去を行ったり来たりすることで、過去の主人公が認識している『ずっと同じことが続くだろう、平凡で素敵な毎日』が簡単に内破してしまうという事実が、視聴者には認識できています。
過去の主人公は等身大の勇気を絞り出して、等身大の青春を一歩前に進めてポジティブなんだけど、そういうレベルではない後悔が既に埋め込まれているということを、未来で散々暗示される『翔の死』が教えてくれる。
主人公が手紙の後押しで踏み出した一歩が小さく、しかしだからこそ大切なのだと分かるからこそ、未来と過去のギャップはより鮮明に視聴者に伝わります。
彼女が成し遂げた青春の一歩を誇らしく見守りつつも、しかし『やべーって! マジになんないとなんかヤベーって多分!』という気持ちも、しっかり盛り上がるのは、良い出だしだなぁ。

手紙が伝えてくる失敗と後悔はおそらく凄くシリアスなものだし、多かれ少なかれ、僕ら視聴者も常に感じている、馴染みの深い感情です。
しかし主人公はその手紙に込められたシリアスさを真正面から受け取ることはなく、第1の選択肢である『翔を誘う/誘わない』というチョイスに失敗する。
時間を飛び越え、運命を書き換えられるスーパーパワーを持っているのに、今まさにかけがえのない時間の中にいればこそ、事態が致命的になるまで失敗を認識できないジレンマ。
このもどかしさ、一体何が引き金になって致命的な後悔が生まれたのか、まだ明らかにされないミステリ的操作の上手さはなかなか巧妙だなと感じました。
時系列と因果関係を操作する関係上、時空改変SFと真実を隠蔽するミステリの相性って、やっぱり良いのよね。


このお話が青春を扱う以上、俯瞰的なギャップの気持ちよさだけではなく、登場人物が今まさに輝いた瞬間を生きているという感じは、非常に大事です。
その瞬間が輝いていればこそ、それが喪われてしまう宿命への哀悼と愛惜は強くなるし、守りきれなかった後悔もまた深くなっていくわけだし。
なので学生たちがキャフフするシーンがどんだけ瑞々しいかってのは、下手すれば時空ミステリとしての仕掛けよりも大事なわけですが、いやー、ビッカビッカに輝きまくっててオッサン光になって死ぬかと思ったわ。

所在なさ気な転校生を気負いなく誘えるタフガイ・須和くんを中心に、肩の力の抜けた良い友達付き合いが、あの下校シーンだけでビッと伝わってくる渾身の仕上がり。
僕は特にあずさちゃんが好きですね……なっさんのさばけた演技ももちろん良いんだけど、翔との距離を縮めるべく『わざわざ走って、うまい飯を用意してくれる』っていう役どころが良い。
味覚ってのは非常に身近な感覚なので、新しい環境に戸惑う翔が差し伸べられた手を取って、一つのグループに溶け込んでいく媒介として、大量のパンたちは非常に良い仕事をしていたと思います。

そういう気の利かせ方はあらゆる場所に行き届いていて、少年少女の輝く表情や、長野のキラキラした風景、当たり前の光景のはずなのにどっか特別な雰囲気などなど、画面に映るもの全てが青春を輝かせていました。
『確実に身近な風景のはずなのに、でもひどく特別で、見ていて羨ましくなってしまう』というバランスは、青春という人間誰もが通らなければいいけない時代を描く上で絶対必要なのですが、近すぎず遠すぎず、素直に『ああ、良いなぁ』と思える間合いを劇中に創造できていたと思います。
浜崎監督得意の異常に白光りするライティングも健在で、結城デザインの濃いめのキャラクターとあいまって、独特のリアリティを作品に与えていました。
濃い目のキャラデザと青春物語のマリアージュって意味では、やっぱ"少年ハリウッド"思い出すけど……クリエーターの系譜としては土屋さんが結城さんの影響受けてる形だよね、多分。

この生っぽさは出会いだけではなく、『代打をする』という選択を選んだ主人公への共感とか、翔との恋に出会った時のときめきとか、作中で大きな意味を持つ感情を身近に受け止めさせる、大事なパスポートになっていたと思います。
主人公を取り巻く環境や出来事、人物に疎外感を感じず、近寄って行きたいと思わせる魅力が演出できていればこそ、彼女の行動や決断……つまり作品自体への歩み寄りもスムーズになるわけで。
そこら辺の橋渡しを意味でも、素直に『ああ、良いなぁ』と思える絵をたっぷり積み上げていたのは、本当に凄いと思います。

青春の出会いをオーソドックスかつ強力に切り取りつつ、ちょっとエッジの効いた演出もところどこれで顔を出していて。
地図記号を印象的に使ったスウィングする下校風景とか、高速で切り替わるカットとか、球技大会に入るところのネット越しのカメラとか、ちょっと攻めたセンスが薫るシーンがあったのも、非常に良かったです。
なにしろ『青春×時空SF』という取り合わせはもはや定番なわけで、オーソドックスさを重視しつつどっかでエッジを立たせないと、『あ、これどっかで見た』って感じになっちゃうからね。
そういう意味で、土台をきっちり仕上げつつ、少女漫画テイストを入れたり、攻めた演出をしたりという冒険も忘れないのは、良いバランス感覚だと思いました。

この話は青春の物語であり、時空SFであると同時に、恋の物語でもあります。
翔との恋の始まりが今回のラストカットになるわけですが、それは10年後の未来では叶うことはなく、主人公は須和くんと子供を設けている。
未来のシリアスさと今の愚かさだけではなく、未来の恋と過去の恋にもギャップはあって、なぜそのように離れてしまっているかは、手紙のトリックと同じようにまだ不明です。
未達成のギャップはそれを埋めていくことで物語が進むエンジンであるし、興味を引っ張るフックでもあるので、色んな場所に用意されているのはなかなか良いかなと思います。
ギャップの間を埋めることなく、ギャップの存在自体は非常に明瞭に見せている辺り、構成と演出すげー巧いよね。


と言うわけで、時空改変SFとしても、ミステリとしても、青春物語としても、ラブロマンスとしても、なかなか毛並みの良い出だしとなりました。
これだけ色んな要素をまとめつつ、何が起こっていて何が問題なのか、どこにギャップがあってどこを埋めるべきなのか、クリアに視聴者に見えているという捌きの上手さに、非常に感心してしまいます。
テクニカルでロジカルな巧妙さだけではなく、過去の主人公が生きている青春の熱と輝き、それが奪わえてしまった未来の痛みと後悔という、キャラクターの感覚もしっかり伝わってくるのが、非常に良い。

今回手際よく並べた様々な物語要素が、今後どう転がっていくのか。
それは先を見なければわかりませんが、少なくとも期待と満足感、爽やかな『ああ、良いな』という感覚は、たっぷり心に湧き上がってきました。
青春時空SFという新しき定番ジャンルに、名作として刻まれるだけのポテンシャルを感じさせる、良い一話だと思います。
"Orange"という物語が、素晴らしい第一話からどこに駆け上がっていくのか。
非常に楽しみです。