イマワノキワ

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終末トレインどこへいく?:第6話『そんなにひどいこと言ったかな』感想ツイートまとめ

 終末トレインどこへいく 第6話を見る。

 刹那主義の菌糸類と、ガリバーの国の暴君と。
 レールに導かれ青春の果てを目指す度も二駅越えて折り返し、少し落ち着いた調子で過去と心を深く探る…とか思ってたら、急にゾンビが出てきて再・分・断ッ!
 いい感じに油断させない”揺らし”なども加えつつ、運命共同体の過去と現在と未来が見えてくる回である。
 天文用語の詩情を友達との遠い距離に絡めて、ひどくありふれた青春のすれ違いが、イカれきった世界のサバイバル・ジャーニーに繋がってしまった物語の輪郭を、改めて縁取ってくれた。
 近地点と遠地点…ちっぽけな私達の心は、月よりも遠く彷徨って出会い直すのだ

 

 というわけでここまでチリチリ火の粉上げていた、静留の冷淡で薄情な部分がドカンと爆発し、電車共同体にヒビが入る回である。
 なかなか他人の心に寄り添えない、言葉をうまく使って適正な距離を取れない。
 そんな静留の至らなさは彼女の個性であり、日常が続いたのならば当たり前にぶつかりあって、分かりあって、繋がり直せた青春の傷だったろう。
 しかし世界は狂ってしまって、池袋までの距離は永遠にすら思える。
 ひどく幼くて柔らかなモノと、ひどく捻くれて歪んでしまったモノが同居し、呼応し合う不思議な響きが魅力の作品が、少女たちの心にあるもの、彼女たちを突き動かすものを、改めて描くエピソードとなった。

 『どうせどこにも行けないし』という諦観と、『お前らが勝手についてきただけだし』という冷淡は、静留の中で多分繋がっている。
 夢に向かって具体的な進路を描ける友達を、自分とは違ってどこかへ突き進む推進力をもった青春列車を、羨みながら蔑んで、傷つけることで守る、青臭いアンビバレント
 これと向き合い、手綱の付け方を学び取らなければ、静留はずーっと情を知らないガキのまんまであるが、そうするためには世界を横断し池袋に至り、もう一度葉香と出会わなければいけない。
 この近くて遠い旅路を辿る宇宙船に、アポジーと名付けたのは極めて優れた詩才だ。
 狂ってしまった星よりも、なお遠いものを繋ぎ直す旅。

 

 まだマトモだった夜空の下で、片田舎の自然の豊かさと息苦しさを生っぽく漂わせつつ、回想される別れの瞬間。
 静留が切開したくなかったモノを撫子の大人びた正論は容赦なく暴き立てて、運命共同体に共有していく。
 それが全ての始まりであり、勝手に同行したんだろうがなんだろうが、命がけ一緒に生き延び旅を続ける仲間になった連中の始発点であるなら、覆い隠さず告げなきゃいけないものと、静留はずっと向き合わず、隠していた。
 人情が解らず言葉遣いが拙いだけでなく、弱虫で嘘つきってわけだ。

 でもその欠点は、年相応の当たり前。
 ずっと引きずる傷かもしれないし、ひょんなことから変わる個性かもしれない。
 吾野の小さな学校で、友情とか進路とか悩みつつフツーに生きていく贅沢は、7G世界からはもはや遠い。
 それでもなお、終末トレインに乗り込んだ四人と一匹はごくごく普通の人間と犬であり、凄く身近で難しい問題に悩み、一緒に乗り越えても行ける。
 人間が動物になったりキノコになったりゾンビになったりする、イカレきった世界においてその普通さは、実はとても貴重で大事なものなんだと思う。
 異常事態だからそういう、甘ったれて柔らかいものを横に退けるのではなく、むしろお話のメインエンジンとして友情と青春のありふれた難しさをもってくる手つきが、僕はとても好きである。
 ジュブナイルSFだなー、って感じがする。

 列車が足を止め、疾走する運命共同体ではなく少女たちのシェルターとして機能する今回、改めて少女たちの人格が見えてくる。
 玲実がズケズケモノを言いつつ、悪気は一切なく真っ直ぐである様子とか、めっちゃポチさん愛して心配してる晶ちゃんの優しさとか、時に苛烈な撫子の大人びた正しさとか。
 こういうモノが描けるのは、やっぱ冒険の旅が一旦足を止め、物語のペースが緩やかになったタイミングだからこそだと思う。
 ここで鮮やかに照らされたものが、こっから先の冒険と成長を受け止める大事なヒントにもなってくれるわけで、停滞しているようでいてすごく大事な回だったと思う。
 いやまぁ、ゾンビ登場で一気に転がるがな…。

 

 

 

 

画像は”終末トレインどこへいく?”第6話より引用 

 終末トレインは四人で一つの青春ユニットが、それぞれが体現する個性とどういう距離で向き合っているか、示す心理的キャンバスでもある。
 膝を折り曲げて自分を守るバリゲードを作った静留から、一番遠い位置にいるのは正しいことしか言わない大人の撫子であり、直感と理性を分け合う玲実と晶は、肩を寄せ合って正しさに近い方に座っている。

 静留が感じ撒き散らしている、身勝手な疎外感が見事に可視化された良いカットであるが、この遠さに耐えきれず静留は電車の外に出て、レールを外れゾンビと出会う。
 レールに乗っていれさえすれば、そこで用意された脅威すら乗り越えれば、池袋についてもう一度友情を始め直せるはずの物語は、折り返しのタイミングで一気にその様相を変えていく。

 作品が持つ狂気と混沌にも、慣れて愛着を持ってきたこのタイミングだからこそ、駅ではなくレールの上でもない場所へと舞台を拡張し、思わぬサプライズでダンドリ感をぶっ壊すのは、つくづく良い手筋だと感じた。
 ここら辺の予測と裏切り、乗ってるのが”電車”だからこその話運びよなー…

 それにしたってポチさんは可愛いねぇ…強いし優しいし、元気でいてほしいけど、老犬だったりゲロ吐いたり、マジ心配…。
 ここら辺の感情を、晶ちゃんに掬い上げてもらってきっちり描写するの、イカれてるようで手堅いこの作品の手際。

 

 静留と、彼女をケアするべく電車を降りたポチさんと別れて、三人はご飯を食べてしっかり眠って、どこに行くべきなのかをお互いに話し合う。
 静留の意固地も、答える声を持たないポチさんが隣りにいてくれることでほぐれ、帰ることを選ぼうと気持ちを改めていた。
 静留がどんだけ冷淡さに固執しようとしても、勝手についてきちゃった仲間たちは彼女を一人にはしてくれないし、その事がどこに進むべきなのか、教えもする。
 話の最初っから、小さく緊密な共同体、その成員たる子ども達の純粋さのお話であり続けているのは、僕がこのお話が好きになるとても大きな理由だ。
 答えが出て三人が電車に戻る時の、頑是ない空気ホント好き。

 ゾンビでも友達なのか、友達でもゾンビなのか。
 論理では答えが出ず、だからこそ大事なものをしっかり話し合って、三人はめんどくせー友達が帰ってきたらどう受け止めるのか、事前にしっかり答えを出している。
 それはこの狂いきった7G世界においては、甘っちょろい夢みたいなモンなんだけども、それが大事で信じたいからこそ静留は池袋へ進みだしたし、友達も運命の列車に勝手に乗り込んだ。
 そういう、人間を一人にしておかない奇妙なおせっかいがどんだけ大事で希少なのか、未だ実感できないから静留は苛立ち、傷つき、孤独に自分を守ろうとする。
 それはとても普遍的で、人間的な振る舞いだ。

 凄く綺麗で遠い星を追い求める、果てのない旅。
 時折迷って、帰ろうとしたところでゾンビに襲われたりもするが、目指すべき輝きと進む足取り自体は、概ね間違っていない。
 そういう事を改めて確認しつつ、いい感じでまとめすぎず、不意打ちゾンビで気持ちよく揺らしてくる。
 晶ちゃんのインテリ設定が、静留が葉香から手渡された詩学詩学を見ている側に通訳して、しみじみ『良いなぁ…』といっしょに思えるの、僕らも終末トレインに乗る一員になったかのような錯覚を受け取れて、凄く良かった。

 

 やっぱカオスで元気で騒々しいだけでなく、どっかに透明度高いポエジーがあるから好きだ、このアニメ…。
 次回も楽しみ!!