イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

忘却バッテリー:第5話『辞めたきっかけの』感想ツイートまとめ

 忘却バッテリー 第5話を見る。

 大惨敗を通じて、今の実力を思い知らされた元・知将。
 頼れる仲間たちの力を借りて、ゼロから野球人生やり直しだッ!! という回である。
 どっかで”野球”ナメてたパイ毛野郎が、ガッツリ腰を落として競技と向き合うことで、ヘラヘラ笑ってる圭ちゃんも苦しかったり楽しかったり、フツーに真面目に凹んだりするのだと解ってくる。
 そうすると、そういう少年を親身に手伝い、一緒に野球してくれる連中のありがたみも上がってくる。
 クセとアクの強い悪童たちが、思いの外いい奴な地金を顕にして、青春野球物語へと真っ直ぐ突き進んでいく、ある意味真のスタートとなる回である。

 

 

 

画像は”忘却バッテリー”第5話より引用

 前々から気づいてはいたが、このアニメ美術が良い。
 帝徳からのスカウトを受け、揺れながら帰る黄昏の暗さ。
 文字通りチームの”要”となる主人公が、ヘラヘラ笑いながらも野球にマジだと解った後、四人で進み直す時の美しい薄暮
 薄暗い夕暮れの迷路を抜けて、もう迷わないほどにピカピカ輝いてくれている、俺達の”Baseball
 心境と関係の変化が巧みに背景にスケッチされ、迷いながらもクソ都立で、この連中と野球をやっていく決意を決めた少年たちを、見事に際立たせていく。
 こういう強い背景を上手く使えるってことは、演出プランがしっかり機能しているってことだと思うので、折り返しタイミングで安心させてくれる材料でもあるわな。

 圭ちゃんは野球脳リセットされちゃったので、人付き合いも世界認識も小学生レベルの単純さだ。
 イヤってことはイヤって言うし、好きって態度は隠さない。
 この素直さが部の風通しを良くし、色々屈折してた連中を結び合わせる潤滑剤にもなっているわけだが、時折『言ったらおしまいだろオメー…』みたいなことも、思わず飛び出しそうになる。
 俺のせいで負けた、悪かった。
 吐き出してしまえば楽になるけど、楽にしかならない逃げ道が通用する時代へ、藤堂たちはリセット無しでたどり着いてしまっている。
 その苦さを噛み締め、一度は逃げようとして、でも逃げ切れず”野球”に捕まってしまった子ども達。

 結局野球をやるしかない、自分たちの業を思い知らされた上で、環境の整った強豪へ移るか、ゴミカスしかいねぇクソ都立で続けるのか。
 圭ちゃんが下向いて自分の傷と向き合う隣で、エースたちも顔を上げて自分たちの未来を考え、フラフラ青春迷い道である。
 自分の苦しさを吐き出して楽になろうとしたのを、性格悪い仲間たちに突き放されることで”野球”に向き合い、ヤマちゃんつれてバッセン特訓に行く。
 自分たちも迷ってるのにそうして助けてくれる姿には、圭ちゃんが投げ捨てたもの、一人では拾いきれないものをダチが拾い上げてくれるありがたみが滲んで、凄く良い。
 試合中も終わった後も、”野球”はチームでお互い様だ。

 

 他でもない最強バッテリーが微塵に打ち砕き、”野球”やり続ける苦しさを思い知らせて、夢諦めた大人にしかけた連中が、白紙になってもなお残る才能と熱意の眩しさに引き寄せられて、『コイツらと野球やるの、悪くないかもな』と思ってくれる。
 それは圭ちゃんが必死に取り戻そうとしている呪いが、ただ人を腐らせる毒ではなく、傷ついてもなお追いかけたくなる祈りを含んでいる、複雑で不思議で素敵な競技だと、言ってくれている感じがする。

 野球やってて傷ついたから、ヒネた大人…のなり損ないになりました。
 そんな苦しさを忘却して、何も分からないガキに戻って、顔面にボールぶち当たって、怖くて辛くて苦しくて。
 それを吐き出して楽になる道を塞ぐイヤな連中は、そんな事しても楽にならないって知ってるからこそ、白球がえぐり出す複雑な痛みを忘れてしまった元・知将の頑張りを目の当たりにして、ゲラゲラ笑いながら一緒に進む。

 勝負の厳しさ、負ける悔しさ。
 中腰でプルプル震える足と、最高のプレーをした時の気持ちよさ。
 圭ちゃんがブツクサ文句言いつつ、寒いギャグで怖さや痛みを誤魔化しつつ”野球”の全部をもう一度白紙にぶちまけていく旅に同行する。
 それは彼らなり傷つき壊された、彼らの”野球”を小手指で取り戻していく、彼ら自身の旅でもあるのだ。
 そこには高校生らしい笑顔と元気と眩しさがあって、凄く良い。

 

 主人公がボッコにされて”野球”に本腰入れたことで、引っ張られる形で他の連中がどんだけ野球に本気なのか、見えてくるのはやっぱり良い。
 国都くんみたいな、ザ・高校球児な真っ直ぐさは気恥ずかしくてやんないけども、荒くれてたりひねくれてたりする、イマドキ高校生っぽい態度の奥には、ピュアな野球愛と傷つきやすく優しい心根が、しっかりある。
 俺様熱血系の藤堂くんはさておき、もっと皮肉言いそうな千早くんがかーなり前のめり、圭ちゃんの本気と頑張りに手を添えてくれてるのイイんだよなぁ…。
 クールガイ気取りが取り繕うとして漏れてくる、穏やかな温もりからしか得られない栄養ってのが、確かにあるわけよ…。

 圭ちゃんがガチりだしたことで、守備位置の特徴とかどんなプレーが難しいかとか、競技の細かい所に切り込めるようになったのもなかなか良かった。
 ここに適切な補助線が入んないと、肝心のメインテーマがふんわりしたまま進行していく…んだけども、キャラやドラマに愛着ない内から細かく難しいこと言っても、あんま染み込まないからな…。
 ここら辺の課題を、おバカな圭ちゃんがおバカなまんま自分なり”野球”しようとする、白紙だからこその健気な頑張りに重ねて乗り越えていくのは、力強くて良い。

 

 圭ちゃんはバカだけど、周りの人が何考えて野球してるのか、そのシリアスさを感じ取るセンサーは結構敏感だ。
 だから自分が原因で”負けさせてしまった”試合を悔やむし、友達になってくれた仲間といっしょに勝つために、自分がどうしたら良いかとも、必死に向き合う。
 パイ毛パイ毛うるせーけども、生真面目で優しい子なのだ。
 こういう地金が見えるのも、現状に嘘なく競合相手にタコ負けさせたからこそであり、行けそうムードを容赦なくぶっ飛ばし、描くべき敗北を描いた意味は大きかったと思う。
 敗北の後覗き込んだ帝徳の練習が、キッチリ難しくてキツいこと何度も繰り返してると解る作画で、自分たちの現在地からどんだけ遠いか、クソ都立が自然と思い知る納得があったの良かった。
 美術もそうだが、要点のクオリティ勝負勝ってる印象。

 藤堂くん達の口が悪くて、あんま熱血友情をベタベタ押し付けてこない感じなのが、心地よい喉越しでいい感じだと思う。
 根っこの部分は超親切で良い奴らなんだが、そんな自分に照れてるシャイボーイばかりで、『はい、俺たちいい奴らです』みたいなツラしてねぇところが、なおさら可愛い。
 そういう連中がキャッキャ楽しく触れ合う様子を、特等席で観察できる気持ちよさってのもこのお話濃くて、その関係性からいい感じの成長も生まれて、”野球”上手くなると仲も深まって…と、凄く良いフィードバックが回りだしている。
 個人としての変化がチーム全体に波及する気持ちよさも、スタンダードながら力強いのだ。

 

 本命は遅れてやってくるってんで、むっつりエースの難題を見事に受けきることで、圭ちゃんの修行時代に目鼻がついて今回はおしまい。
 練習試合では他の連中全員負けに引きずり込んででも、相棒を気遣いヌルい球投げてたのに、終わってみるとビシバシ不満投げ込んでくるの、遠慮がないというか、甘えているというか…。
 この距離感に包まれ守られ、なんとか俺様エースやれてた葉流火にとって、圭ちゃんが白紙の子どもに戻ってしまったこと…自分が圭ちゃんを支える”大人”にならなきゃいけないことは、凄く当惑することなんだと思う。
 藤堂くん達みたいに、器用に迷いを覆い隠し乗りこなし、向き合って道を探すのとは、少し違う間合い。

 

 それでも葉流火なりに、変化してしまった親友との距離感…その中にいる自分を探り探り、どこに自分と”野球”を持ってったらいいのか、不器用に考えている。
 子どもに戻ってしまったキャッチャーと、子どものままマウンドに立てていたピッチャー。
 とびきりの才能を秘めつつ、色々不安定なエースを支えもり立てる仲間たちのいい奴っぷりが、しっかり描かれる回でした。

 次回へのフリもあって、自身迷う素振りを結構描かれてた二遊間コンビに対し、一切揺るがず”正解”へと圭ちゃん引き連れて突っ走る山田太郎人間力、やっぱりスゲーぜ…。
 身勝手で不安定な人間っぽさと、あるべき正解を掴み取る頼もしさ。
 このバランスが個人レベルでも、それらが組み合わさって成立するチームとしても、かなり精妙なお話なのだと、改めて確認できるエピソードとなりました。

 

 そして先を知ってる身からすると、藤堂くんが圭ちゃんに向き合う全部が後々炸裂する超巨大爆弾すぎて、アニメでどういう描き方するのかブルブル震えている。
 謝っても楽になんないのも、気持ちの問題を越えていくのも、上から目線の答えの押しつけじゃねぇのよ…。
 魂の血が滲む実体験を通じて学んだことを、ぶっきらぼうな口調の奥から手渡してくれているのよ…。
 もうバレバレかと思いますが、俺は藤堂くん大好きなので、次回大変楽しみです。