イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

初恋モンスター:第10話『たまにはまっとうなラブコメでも』感想

顔はいいけど性格と行動に難のある面々が織り成すアクロバディック・ラブ・コメディ、今週は副題どうりのまっとうなラブコメ
越前カニと主人公が友情を育んだ挙句に死ぬわ、顔と体と声だけは良い狂人が薬物を用いた結婚式を強行するわ、イチャイチャオーラに当てられた童貞が発作を起こして壁殴るわ、ヒロインは『10歳時が私の下着姿で勃起しない……別れよう』とか言い出すけども、まっとうなラブコメ
……作中最強のクレイジー女・真冬メインの話だったのもあって、今回一番カオスだった気もするが、まっとうなラブコメだ!

つーわけで、結構長く続いた心すれ違いモードも一段落、ヒロインが華すみ荘に帰ってきました!
まぁ帰宅するなり狂った結婚式で大立回りし、落ち着いたと思ったらくっそ面倒くさい寝言を吐いてまた関係が荒れ始めてきたが、些細な問題だ。
メタ的な話をすると、色恋出回っている話は答えが出て心が落ち着いちゃえば話は終わるしかないので、矢継ぎ早に問題を発掘して話を転がしていくのは正しい姿勢だ。
ピュアな奏は非常に正しい人間なので、その正しさが報われて落ち着いてほしい気持ちもあるが、それは最終回にかなえられる願いなのだ。

今回は茅野さんの演技力が良くない方向にドライブをかける狂愛の権化・真冬が大暴れな回。
たったひとつの目的のためには一切手段を選ばないゲスさが全開になって、やり過ぎ感あふれる狂った空間が展開されました。
他の連中がなんやかんや手加減してくれる中、自分の望みのために一切ブレーキを踏まない真冬がメインになると、一気にネタの火力が上がるなぁ。
小学生連中も加減は知らないんだけど、根本的にバカだし善人なので、そこまでヒドくはならないんだよね。

対して真冬は一応大人側であり、小狡い知恵とかも総動員して自分の良心を黙らせに来るので、話は通じねぇし被害も大きい。
その情け容赦のないヒドさが元気で楽しくて、このアニメの強みである『元気で賑やかな感じ』が良く出たエピソードになったと思います。
いつも変態な嵐はさておき、耕太も良い子ぶった仮面と服を脱ぎ捨ててクソ童貞全開になってたしな……この狂った世界じゃ、そのくらいのほうが生きやすいぜ……。(唐突に煮える)
買われてから食われるまで、カニ子もいい具合に笑いを生んでくれました。
セリフがない上に外見がガチ蟹な所が、シュールな笑いを生んでいて好きだ。


ドタバタ元気な笑いの裏で、じっとりと面倒くさい恋愛模様が展開するのもこのアニメの特徴でして。
弟分の恋を成就させるため、色々骨を折った敦史が自分の気持に迷っていたり、落ち着いたと思った夏歩がまた『愛されていないんじゃないか症候群』に悩んだり、子どもとバカ以外はやっぱり面倒くさかった。
ここら辺のドローっとした大人の事情を奏が理解できていないことが、笑いの源泉でもあり、恋愛がこじれる原因にもなっているわけだ。

『気になるアイツに下着姿を見られちゃってキャー!!』というのは、ラブコメでは定番すぎるほど定番なシチュエーション。
しかしここで『彼氏がガキすぎて勃起しない。女として求められていないのでは?』という疑問がヒロインに湧いてくるのは、なかなか珍しい櫂さばきだなと思いました。
もともと夏歩は相当いい性格しているし、全然ピュアでもなんでもない性格ブスだし、そのくせ性欲は強いしで、ああいう発想に思い至るのは納得がいくところではある。
合間合間にむっちり太ももを強調していたのは、ここで『性欲』を話しの真ん中に据えるためだった……?(おそらくスタッフが描きたかっただけ)

この話における『10歳と15歳の恋愛』は出落ちのギャグネタであると同時に、結構真面目に問題を掘り下げられ、解決に色々手数が必要な厄介ごとでもあります。
二人の間にある年齢差は価値観や現実認識、行動理念のギャップを生み、それが二人を引き裂きまた近づけていくという、非常にオーソドックスなラブ・ロマンスの構図を、このお話は猛烈なネタの嵐の中で見失っていないわけです。

今回の下着ネタも『性欲』つまり『身体性』のギャップが生み出した問題でして、どんだけ身長がデカかろうと声が櫻井だろうと、奏は『ママは天国に行っちゃったけど、パパとは永遠に夫婦なんだ』と純朴に信じる、精通前の少年なわけです。
パパさんは自分の肉欲や煩悶を頑張って押し殺して、永遠の愛を天に捧げる生き方を選んでいるわけだけど、嵐が指摘してたとおりそれは美しくもあり哀しくもある生き方です。
死人のために生きている人間が、自分の欲望を押し殺す姿は必ずしも美談ではない。
一切関係なく大暴走したように見える結婚式は、実は夏歩が過剰に所有する『女としての身体』と、精通前の奏が所有していない『男としての身体』のすれ違いを、巧く予言したりしているわけですね。

まぁ正論言えばナオン見てムラムラするかどうかは個人的かつ身体的な問題でして、『うるせぇ! 私の事好きなら勃起してよ!!』って怒った所で、立たないもんは立たない。
色んな意味で時が満ちていない奏にとっては『ムラムラする』ほうが不自然なのに、過剰な『ムラムラ』を溜めこんだ夏歩にとっては、恋人が自分の肉体を求めない方が不自然なわけです。
『セックスの不一致』というのは結構ドギつくてシリアスなネタなんですが、笑い混じりで気楽に、かつ真剣に掘り下げることができているのは、このあに目がコメディでもある強みだなぁ。


ついさっき『お互いの思いを大事にしよう、二人の間にあるギャップを尊重しよう』みてーなオーラ出して越前から帰ってきたのに、即座に身体性のギャップにウジウジと悩み始める。
考えてみると夏歩は相当未熟かつ手前勝手なクソ女で、敦史がきっちりイビりに来るのはそこら辺の不満を巧く代弁してくれる、良い動きかもなと思いました。
恋愛モノって作中の価値観が特に特権化されやすいジャンルで、『ん? おかしくね?』という疑問が放置されたまま膨れ上がりがちなんだけど、敦史が言い難いことしっかり言ってくれるから、いい意味での毒抜きができている気がするね。
ここら辺は"プリパラ"でドロシー・ウェストが果たしている役割と似通っていて、笑いの中での『毒』、都合の世界の中での『毒』の扱い方について色々おもしろい示唆をくれる気がします。

生来の性格の悪さから夏歩をいびり倒していた敦史だけど、イビっているうちに好きになってしまって、しかし相手はクソ女であり弟分の彼女でもあるという、悩ましい状態。
しばらくは意地悪少年として対応するんだろうけど、今回表面化した身体性のすれ違いを、大人である敦史なら受け止められるわけで、つけ入る隙が十分にあるってのは面白い状況だ。
様々なギャップを持っているが夏帆のことをピュアに愛し守ってくれる彼氏と、性格最悪で意地悪だけど彼氏が持ってるギャップは排除できるライバルつう意味でも、敦史は面白い位置にいるよね。
耕太はイノセント依りのキャラなんで、奏の対立者として恋愛戦線に殴りこむには武器が足らないんだよな……やっぱエグいキャラ以外生存できねぇ世界だなコレ。


そんなこんなで、一難去ってまた一難、年の差カップルの受難は続く! という回でした。
久々に華すみ荘が舞台になってみると、賑やかもろくでもない魅力が存分に引き出され、カオスで面白かったですね。
ホント真冬はキチガイすぎて面白い……特盛りの欲望に、一切のリミッターがついていないのが最高。

ネタの嵐が通りすぎたと思ったら、また面倒くさい黒髪が、面倒くさい自意識をブンブン振り回し始めました。
何かと体育座りしがちなウジウジヒロインを前に、主人公は問題を認識しておらず、ライバルは義理とエゴイズムの間で悩む。
結構面白い方向に転がせそうな状況ですが、さてはて、どういう厄介事が引き起こされるのか。
今から楽しみであります。