イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツスターズ!:第30話『七色のキャンディ』感想

アウトロが終わるとイントロが流れてくる、ページをめくるたび新しい君がいる。
そんなアイドルアニメ、節目の三十話目。
これまで幾度かスタートラインを切ってきた主人公・虹野ゆめが、これまで躍進を支えてくれた『あの力』に裏切られ、友との離別を後悔で汚すことで、決意を新たにするお話でした。
世界のネガティブな側面をあえて物語に取り込んだ、スターズらしい『普通』の話運びではありますが、今回の物語は次に繋がる第一歩でもあり、衝撃的な展開の評価は先の運び方次第かなとも思います。
正直自分の中でこのエピソード、それを背負うアイカツスターズ! という物語とキャラクターについての評価が定まっていない感じもありますが、書きながらまとめていきましょう。

前回桜庭ローラに決定的な敗北を背負わせ、いつものように勝利した主人公・ゆめ。
しかしその先に続いていたのは、最悪で最高のタイミングで『あの力』に裏切られる『負け』の展開でした。
主人公が『負け』、ヒロインにしてライバルも『負け』、涙と後悔から新しい道が続くところは、人間の弱さやネガティブさを作品に取り込むことを恐れない、スターズらしい展開といえます。

今回の話は『ゆめの挫折と再起』『あの力にまつわる因縁』『小春との離別』という、大きな要素が相互に絡み合う、かなり大きく複雑な話です。
それぞれの要素がお互いに深く関係し、『ゆめの夢は、S4になること』というメイン・ストーリーが再構築される土台になっているため、単独で語っていくのはなかなか難しい。
しかし、あえて個別に分割しつつ、相互の関係を見ながら論を進めていきます。

『ゆめの挫折と再起』という軸は、それこそ第1話から既に始まっている物語であり、ファンでしかなかった立場から四ツ星学園に身を投じ、アイドルの現場で次第に真剣さを増していく成長物語の最先端に位置します。
ゆめにとっての『夢』というのは具体性がなく、あこがれだけが先走るあやふやなもので、その軽薄さはローラの具体的な努力や覚悟と対比されてきました。
ローラと比べれば覚悟や真剣味に欠けるものとして描写され続け、それでも『勝って』しまうゆめへの反感はおそらく狙って積み上げられた感情であり、勝因だったはずの『あの力』の反動が最悪の形で顔を出す今回のステージは、非常にキツい言い回しをするなら、怠惰と夢想に与えられた罰とも言えるでしょう。

小春の旅立ちに泥を投げつけ、大きな悔いを残す今回の『負け』はしかし、年相応に夢見がちだっただけの少女に与えられるには、あまりに強烈すぎる傷です。
むしろ、小春を尊敬に値する優しい少女として描いてきたのも、このタイミングで彼女を退場させるのも、今回の『負け』がゆめに与えた衝撃と、視聴者が受け取った痛みをシンクロさせるための計算だったと言えるでしょう。
小春に見守られながら、あやふやな夢に微睡んでいたゆめの幼年期は、この30話の『負け』で非常に残酷な形で終わりを告げ、『二度とあんなステージをしない』という決意を秘めて、ゆめは生まれ変わらなければいけない。
それは非常に鮮烈、かつ納得の行く変化であり、挫折や羞恥、悔恨というネガティブな感情があればこそ刻まれる痛みの記憶です。

人間にとってポジティブな喜びだけではなく、ネガティブな感情もまた己を変化させる大きな材料足り得ます、
それはスターズが己を物語るにあたって選択した根本的なスタイルであり、物語のリアリティラインを前作よりも上げ、キャラクターも状況も『普通』であることをあえて選び取ったからこそ、真正面から切り取れるシビアな物語です。
今回ゆめが無様で、恥ずかしく、てひどい失敗に苦い涙を流すこと、そこに込められた感情が視聴者にとって身近に感じられることは、人間のポジティブな可能性を常に肯定し続けた前作とは違う、スターズ独自の物語を展開させるにあたって、非常に大事なことだと思うのです。

今回ゆめが流した涙、面と向かって伝えられなかった思いがどのように結実するかは、今後の物語を見てみなければなんとも言えません。
前回書いたように、スターズはシリーズ全体が無駄なく展開しているとは僕には思えず、今回打ち立てた再起の足場も、もしかしたら不細工なエピソード選択でヒビが入り、想定通りに機能しなくなってしまうかもしれない。
その可能性が否定できないとしても、今回ゆめが受け取った『負け』の苦さ、そこから立ち上がろうとするゆめの目線は、ここから先の物語を期待させるに充分な熱量を持っていたと、僕は思います。

小春に見守れながら微睡んでいた幼年期の曲が終わり、シビアで真剣なゆめのアイカツがイントロを奏でだすという、製作者がこのタイミング、この展開でこのエピソードを据え付けた狙いは、少なくとも虹野ゆめ個人の感情に限っては、非常に鋭い形で達成できていると思います。
スタートラインが鮮烈に描けたのなら、その先の苦難と奮闘の旅路もまた、鮮やかに続けられるかもしれない。
そうでない可能性を当然孕みつつ、しかしそれを見たいなと思わせる程度には、今回の『負け』は良い物語的コーナリングだったと、僕は感じたのです。


そんなゆめの『勝ち』と『負け』を演出してきた『あの力』ですが、正直不鮮明な部分が多く、そういうあやふやなものに少女たちの願いが左右されていく流れは、あまり納得はできません。
もともと『才能』とか『天分』という、言語化しづらく不公平な要素を具体化するための装置ですし、その正体を追いかけていくことがスターズの物語を引っ張るためのエンジンとして機能しているため、なかなか確定的なことは言えないのかもしれません。
しかし『あの力』の内実が不明なことは、それを隠して立ち回る学園長への不信感を増幅させ、哀しい事態を避けるために最善を尽くしたという信頼感を失わせています。
ぶっちゃけ、諸星学園長の立ち位置が非常にあやふやで、この話数まで体重を預けるに足る人物かさっぱり判らないのは、色んな意味でストレスたまるわけです。

今回ひめが過去を語ることで、『ひめから見た『あの力』』については見えてきても、ひめが把握していない『あの力』全体は不明なままだし、それを知っているであろう諸星学園長は意味深なまま何も言わないしで、未だ『あの力』は原理不明なブラックボックスなままです。
少女たちが、そういうよく分からないものに理不尽に運命を左右されることは、『普通』の人生が持っているままならなさを物語に取り込むという意味ではよく出来ているのかもしれないけど、納得できない部分は残る。
『あの力』について語るひめが、運命に選ばれた同士を見つけて舞い上がっているように見えてしまうのもあって、ここらへんの描写は釈然としないモノが残りました。

しかし、これまでも幾度か描写された『あの力』の反動を最悪のタイミングで炸裂させ、ゆめの順風満帆な勝利を足元から崩してくる使い方に関しては、非常に巧妙だと思います。
前回ローラを理不尽に『負け』させたため、『あの力』のインチキ加減には色々思うところがあり、それを今回しっかり回収する形で切り崩してきたのは、うまい話のまたぎ方だなと思います。
『あの力』に愛されていないローラも、『あの力』に愛されたゆめも、ともに『負け』ることで道を新たにするのは、敗北に伴う自然な感情を消し去らないスターズの方法論とよくマッチしていて、一貫性という意味でも納得は行く。
『S4になる』という夢を祝福し、呪詛もする『あの力』とゆめが今後どういう関係を築けるか、そこに『あの力』に振り回された先輩と言えるゆめがどう関わってくるか。
ここもまた、今後の描写が気になるところです。


そして、ゆめの『負け』の苦さを演出するヒロイン、小春の描写。
物語全体を見渡してみると、かなり早い段階から小春の離脱は用意されていて、そのために(だけではなくても)様々な描写が組み上げられてきたのだということは、素直に理解できます。
それは例えば第25話のように非常に精巧な物語として提出されたり、あるいは第24話のように強引に小春をカメラから外す形で示唆されたりしてきましたが、ともかく彼女の物語仕事が今回の『負け』と離脱にあったということは、疑いようがないところです。

キャラクターは物語進行のための道具であると同時に、作品世界内部で血肉と感情を持つ人物でもあります。
小春は癖の強いキャラクターを繋げる潤滑油として、親友の頑張りを支える仲間として、とても好きになれるキャラクターでした。
むしろ人物としての描写がうまくいったからこそ、彼女の予定されていた離脱の人為性が目立ち、運命的必然として受け入れがたくなってしまった部分すらあると思いますが、ともあれ永倉小春は尊敬に値する、立派な女の子だった。

そういう女の子が旅立つにあたり、今回とそれ以前のスターズの描写は果たして報いていたのか。
なかなかに難しいところですが、ゆめの軽薄なキャラクターに傷を負わせ、『負け』の衝撃を持って己を改めさせるためには、お別れのステージが成功するわけには行かなかったというのは、よくわかります。
メインキャラクターだけではなく、作品世界全体で小春を送り出すことは、(そこに主人公だけが出席を許されないとしても)、それなりに誠実で胸に迫る見送りだったとも思います。
特に関係の深い夜空は、弟の無難な贈り物の後に『香り』というあまりに密接で、意味深な文脈のプレゼントを送ること含めて、なかなか切れ味鋭い演出を貰ってました。
あの女、ホント別れゆく少女の中で自分を永遠にする方法論を完璧にマスターしてやがる……。

その上で、アイドル候補生である夢が唯一送れる真心である『ステージ』で失敗したというのは、その物語的ショックの適切さを踏まえた上でも、やっぱりシンドい。
この後物語が行き過ぎ、今回の『負け』を糧にしてゆめが成長を果たすだろう未来で、今回達成できなかった晴れの舞台を、しっかり小春に見せてあげて欲しい。
そういう思いが強くなる別れではありました。
今後小春の再登場があるのかないのか、常にいろんな都合と闘う女児アニでは確かなことは何もいえませんが、こういう別れ方になった以上、ぜひとも再登場してくれなければ困ると、強く思いました。
いやまあ、単純にね、僕はもう一度会いたいよ、小春ちゃんに。


以上、三つの意味で良い部分と悪い部分、これからを見ないとわからない部分が絡み合う今回でしたが、前回ローラが受けた『負け』のフォローアップとしては、結構良いなと思いました。
堅実に努力を積み重ねつつも、天才の圧倒的パフォーマンスを乗り越えられないローラの姿は前回強調され、彼女自身道を見つめ直し、『少し、離れようと思う』という決意をゆめに伝えました。
それは前回、彼女が流した涙の先にある覚悟であり、映画版であれだけ濃厚に確認した『二人だからたどり着ける場所』にあえて背中を向け、ローラだけの『何か』を求める孤独な戦いになります。

映画版が非常に興奮と充実に満ちた物語だっただけにこの展開の衝撃は大きいですが、ゆめもまた『負け』を経て己の道と向かい合い、一つの決心を硬めた今回の展開をみやるに、離れることで前に進む部分も大きいかなと思います。
ゆめとローラはこれまでも丁寧に関係を作り、二人の絆がどれだけ太いかしっかり描写されてきた分、他のキャラクターが入り込めない閉鎖性を産んでもいました。
ここであえて離れることで、二人の魅力的なキャラクターに新しい可能性が生まれもすると思うので、いい感じに取り回してほしいなと思います……ちょうど、フォローアップを担当してた小春ちゃんもいないしな。
ローラと真昼はある程度関係が深くなってきているので、やっぱあこだなぁ……来週ゆめのフォローでどれだけ的確に動けるかが、今後の試金石になると思います。


というわけで前回含め、作品全体が大きなカーブを曲がる、勝負のエピソードだったと思います。
カーブ自体は衝撃的に、テクニカルに回りきったと思いますが、大事なのはその先のコースをどう走りきるか。
ローラもゆめも『負け』から新しいスタートをきることになり、スターズらしい『普通さ』が色濃く影を伸ばす展開になってきた今こそ、新しい変化を意味あるものとして刻みつけるエピソードが必要なのでしょう。

思い出と優しさを残し、無念を刻み込んで去っていった永倉小春に報いるだけの物語が、今後紡がれるか。
それを見守りたいと思える、永倉小春編の衝撃的なアウトロでした。
ゆめの新しい夢、そのイントロたる来週がどういう滑り出しをするのか、注意深く見守りたいと思います。