イマワノキワ

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機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ:第33話『火星の王』感想

行きはよいよい帰りは怖い、宇宙世代の任侠血みどろわらべ唄、各々の道が示される第33話です。
マクギリスが差し出した物語のゴール『火星の王』に引き寄せられ、さらなる栄光と破滅を選び取ったオルガと、それに準じる者たち。
そして、勇気を持って家族のために降りたタカキと、それぞれの決断を静かに描く話でした。
鉄華団だけではなく、蒔苗の誘いを蹴って現場に身をおくことを選んだクーデリアや、マクギリスとの対決姿勢を強めていくアリアンロッドなど、色んな人々の決断が切り取られた、節目の回だったと思います。

というわけで、武力衝突は様々な場所に楔を打ち込んだまま決着し、ギャラルホルンは灰色の迷走を維持し、鉄華団は地球から撤退、蒔苗は己の衰えを自覚するという形で落ち着きました。
自分たちの足場が不安定なことを思い知らされ、後ろに下がるのではなく前のめりに倒れていくことを選ぶあたり、マクギリスとオルガは似たもの同士なのだと思います。
ラフタルが訝しんでいた『行動の理由』を、マクギリスは仮面を外した会談の中で語っていましたが、額面通りに受け取ると『ギャラルホルン創設時の理想を取り戻す』なのかなぁ……いまいち読み切れん。

三日月の視線に背中を押され、ビスケットというブレーキも途中でぶっ壊れたオルガにとって、タービンズ配下のヤクザとして現実的に自己実現をするよりも、『火星の王』という大きすぎて全体像を把握できない夢のほうが、魅力のあるものなのでしょう。
というか、犠牲が出れば出るほど死人に報いるべく己を追い込み、際限のない拡大以外の方向性が取れなくなっているのか。
クーデリアやステープルトンさん達『女』は『寝言に酔っ払ってんじゃねぇぞ、事務所類も片付けられねぇ三助共のくせに何が王様だ』って顔しているのに、『男』たちはオルガの掲げる夢の危うさに気づかないまま、黙って手を取って前に進むのは、面白い対比ですね。
ドロップしたタカキが結構『女顔』で、降りた理由も『妹』だしなぁ……ホモソーシャルな場が異物を排除する瞬間を、男女の差異でまとめた感じかな。

オルガも暴走機関車な自分に満足しているわけではなく、行き場のない子供たちに居場所を作ってやるはずが、安定とは程遠い生き方をしている現状を嘆いてはいます。
殺人マシーンにして自分の背中を押す悪魔たる三日月が、『抜けてくれてホッとした』という思いを言葉にした時複雑な表情をしたのは、三日月が無意識のうちに感じている疲労や危うさを叩きつけられて言葉を失ったのか、自分が作り上げた組織が安住とは程遠いことに気付かされたのか、多分両方なのでしょう。
それでも止まることは出来ないし、止めることが出来る人間は死ぬかやめるかだし、オルガはマクギリスとの悪魔の契約のままに、『火星の王』という巨大で曖昧な目標に、今後突き進んでいくのでしょう。
その過程で何人死ぬのか、あんま想像したくはないですが、つい想像してしまうように話しを組み上げているからなぁ……性格悪いわぁ。(褒め言葉)

一応主人公サイドなのに、どう考えても鉄華団は『火星の王』には慣れそうもないようムードを作っているのは、非常にオルフェンズっぽいなと思います。
教育も受けていないガキの浅はかさも、あまりにワンマンな組織の危うさも、都合の悪い部分をたっぷり映しながらこのアニメは先に進んでいて、そこで切り取られる足場の悪さを見れば、視聴者は主人公たちに無条件に体重を預ける気には、どうしてもなれない。
しかしそこには、マクギリスが惹きつけられたような必死の生命力があり、目を離せない妖しい魅力も存在しています。
来るべき破滅を楽しむ悪趣味を掠めながら、先の読めない展開を維持し続ける、一種冷淡なバランス感覚は、このアニメの特長なんでしょうね。


そんな『鉄華団』のやり方から、意思を持ってまっすぐに降りる男がようやく出てきたのは、作中の組織のあり方としても、キャラクターの描写としても、物語の蓄積が生み出した変化をうまく凝縮したと思います。
ビスケットが降りれないまま轢き殺された運命の列車を一旦止めて、臆病で、しかし至極真っ当な価値観に基づいて離れていくタカキを描く筆は、プラスでもマイナスでもないプレーンな色合いをしていて、とても素直で誠実だなと思いました。
鉄華団』は『家族』のために生き、『家族』のために死ぬ狂信でつながってんだけども、一応の社会的成功を収めたこの段階に来てようやく、『家族』のためには死ねないという選択肢を許せるようになってきたわけです。
一期最終戦では、『降りる自由』が一切許されず、『家族』のために死ぬ狂気でしか状況を突破できなかったのとは、明瞭な対比だと思います。

タカキの選択を『まぁ、一理あるな』と思わせるためには、アフリカ編の出口のない迷走と同時に、彼が帰るべきホームの暖かさ、守るべき妹の可憐さをちゃんと描く必要があります。
鉄華団の『家族』の前では泣けなくても、血を分けた『家族』の前では泣ける(そこでしか泣けなかった)タカキの弱さに共感させる意味で、フウカが非常に素直に可愛らしく描かれていたのは、すげー大事だったと思います。
頬を寄せたときに、むにっと潰れる感触が絵になっていたのは、彼女が持っている体温を視聴者に感じさせ、その温もりのために背中を向けるタカキの選択に頷かせるためには、重要な描写だったと思うなぁ。

三日月と同じ行動を取りつつ、『鉄華団』になりきれないまま道を外れたタカキは、ヒューマンでブリのまま死んでいったアストンと何処かで通じ合う、裏切り者の兄弟だったのでしょう。
鉄華団』の価値観を作中絶対の真理としてではなく、危うく揺らいでいる灯火として書いているこの作品において、狂信に染まりきれないキャラクターを継続して描くのは、重要なことだと思います。
鉄華団の行動理念は、苛烈だからこそ視聴者を惹きつけるパワーがありますが、視聴者の目線を維持するためにはそこに溺れきらず、半歩後ろに下がるキャラが必要になる。
ビスケットやタカキ、ステープルトンさんやクーデリアと行ったキャラを身内においておくのは、難しいバランス取りを成立させる、大事な力点なんでしょうね。


『家族ではない存在』として、タカキの決断にも重要な示唆を与えていたクーデリアは、蒔苗の権力移譲を断り、あくまで火星の現場で戦うことを選択していました。
オルガがマクギリスのフンワリとした誘惑に見事につられたのとは真逆の決断で、面白い対比を一話の中に仕込むな、と思いました。
物語が始まった時点では『夢見るお嬢と、現実にすり潰されたガキ』だった二人が、今や『自分に出来る範囲で理想を目指す革命家と、出世の圧力に押し出された若きカリスマ』に入れ替わっているのは、皮肉というか運命というか成長というか、なんともいい難い複雑さです。

今回二人が果たした決断がどこにたどり着くかは、ここから先の物語を見なければわからないことですが、おんなじ道を歩いているようでオルガも、クーデリアも、マクギリスも見ている未来は違います。
オルガに乗っかるようでいて、その苦悩や焦りを共有しきれていない『鉄華団』の面々も合わせて、今回は差異を強調するお話だったのかなぁと思います。
その最先鋒として、タカキに胸を張って物語を降ろさせたのは、視聴者の感覚をうまく物語に取り込む、いい展開だったと思います。

オルガのカリスマ以外に道を知らない若造共は、『火星の王』という空看板にも黙ってついていく感じですが、アストンとの関係含めて、特に明弘が今回は目立っていました。
ラフタとの恋愛フラグも着実に積み重ねてんだけども、このアニメ幸福がいつ不幸のスパイスになってもおかしくない話だからなぁ……素直に『ラブラブ頑張ってね!!』と応援できない怖さがある。
『カリスマを感じた男の背中に、黙って引き寄せられる男』という意味では、ハッシュが三日月に心をひらいていく様子と、『火星の王』を黙って飲み込んだ幹部連中の姿は、妙に重なるやね。


火星ネズミたちがドブの中で野望を夢見る中、ギャラルホルンは相変わらず、高潔なる腐敗とでも形容するべき泥沼に、腰までハマっています。
当てこすりと政治的レトリックが正面衝突する会議シーン、ラフタルのいやみったらしい接触と、マクギリスの感じているイヤーな空気が巧く表現されていて、『マッキーも大変だな……そら鉄華団を手駒として確保しておきたくもなるよな……』って感じだった。
オルガに語った少年らしい憧れが、どこまで本心なのかねぇ、マッキーは……。
あと露骨に性虐待を匂わせる過去回想で、モンシロチョウが飛んでいたのは劇場版ウテナの冬芽のシーンを否応なく思い出してしまって、うっかり世界を革命しそうになった。

マッキー(と手を結んだオルガ)に対抗するアリアンロッドは、相変わらずジュリエッタとヴィダールが格納庫で親密度を上げていて、『明弘&ラフタといい……MSデッキはデートスポットじゃねぇぞ!!』って感じだった。
ヴィダール的にはジュリエッタにアインの影を見て、失ってしまった『家族』の気配を感じてるっ塩梅なんだろうな……仮面つけても根本的に育ちがいいな、ヴィダール仮面。
意味深な『彼は近くにいる』発言は、やっぱヴィダールにアインデバイスが搭載されている伏線なのかなぁ……どっちにしても、世界の厳しさを反映してろくでもない要素が待ってそうではあるんだよね、ヴィダール周り。

マクギリスが『火星の王』というデカすぎる夢を投げつけてきたことで、お話が落着するゴールが一応見えてきて、その過程でアリアンロッドがどういう立場になるかも、少しわかった気がします。
危うい蜃気楼だろうが、最終目標という意味ではゴールはゴールだからな……『火星の王』が世界の王になったマクギリスからの恩寵である以上、アリアンロッドを潰すことが鉄華団にとっての目標にもなっていくんだろう。
その過程で無視できない犠牲が出ること、ともすれば志半ばで全てが灰燼に帰すことは、今回タカキがドロップしたことで、ひっそりと暗示された部分ですね。
鉄火団の生き様を覚えて生き残るキャラが生まれたことで、残ったメンバー全滅も十分ありえる局面になってきたからなあ……油断できんね、ホント。


というわけで、二期で描いてきた栄光と破滅、変化と不変を一旦まとめ上げ、それぞれの決断と未来を描く回となりました。
お話の真ん中にいるオルガではなく、今回で物語を離れるタカキに一番美味しい役割を割り振ったのは、凄く良い語り口だなと思いました。
凄惨な話なんで、そういう風に去っていくものに花道を用意してくれないと、ちょっと見てて辛いんだよね……ちゃんとやってくれて良かった。

去るものがいても、野望は加速こそすれ収まることはない。
オルガが選び取った『火星の王』への道が、これまで以上の理不尽と血泥で塗れているだろうことは、今回公明に描かれていたところです。
鉄華団が進む危うい道の中で、クーデリアやマクギリス、鉄華団のメンバーが各々の夢をどう輝かせ、あるいは砕かれていくのか。
ここから先の物語を、しっかり見守りたいと思います。