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イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

舟を編む:第7話『信頼』感想

別れの盃を飲み干し未来に漕ぎ出していく青年たちの詩、今週は二人の結末。
先々週西岡、先週馬締にじっくりとカメラを寄せた流れを活かし、辞書編集部で運命と出会った二人がどのようなものを築き上げたのか、しっかり振り返る回となりました。
西行』の二文字をディープに考え尽くす馬締の適性、嫌な大学教授相手の交渉を見事に泳いだ西岡の適性、そして男二人のぶっとい友情。
これまでの物語が何を描いてきたかを豊かに描ききる、素晴らしいまとめでした。

というわけで、二人の青年の出会いから始まり、各々の強さと弱さをしっかり掘り下げてから別れにまで繋がるこのお話。
それは松本先生が見事に台詞でまとめてくれましたが、馬締と西岡がお互いの欠点を補い合う、『いいコンビ』になるまでの物語だと言えます(まだ終わってないけど、まぁ『第一部』は)
彼らの強みがどこにあり、辞書編纂という仕事の中でそれがどう発揮されるかを示すため、演出方針の違う二つの見せ場をしっかり作って配置する構成が、非常に見事でした。

辞書編纂という『業』を自分のものにした馬締は、『西行』という一項目に深く潜り、様々な可能性を考えていきます。
長すぎる文章から主観を排し、適切な言葉を拾い上げていく姿は、もはや一端の辞書屋。
その成長を示すのに、『指紋がなくなる』という独特の職業病(?)を持ってくるのが、このアニメのセンスであり面白さだなと思います。
荒木さんのスカウトを受けてから7話、地道にコツコツ積み上げてきた彼の『業』を示すのに、画面を大胆に分割し文字をアニメートしていく演出が、非常に小気味よいです。
絵面として辞書編纂は地味なわけで、画面を大胆にぶった切るレイアウトと『動く』文字の面白さで興味を盛り上げていくのは、アニメにしか出来ない強い演出でした。

知識と的確な判断力を武器に、不要な文章を削ぎ落とした馬締ですが、ここで西岡が独特の視点から『言葉』を持ち込み、良い辞書に必要な『感情』を乗せていきます。
西岡自身は指紋がなくならない自分と、辞書編纂に思い切りダイブする変人たちとの距離を感じているわけですが、しかしだからこそ切りこめる角度がある。
彼もまた、『言葉の海』に一緒に潜ってきた仲間なのであり、例え西岡の『業』が離れることを要求するとしても、これまで共有してきた時間と絆は消えてなくなりはしない。
お互いの思いを伝えた屋上が、シームレスに言葉の波打ち際に変わる幻想的な演出は、そんな繋がりを的確に教えてくれる、良い演出でした。
幻想譚としても、相当に切れ味鋭い演出が随所にあんだよな、このアニメ……そこも好き。


馬締の持つ辞書屋としての内向きな強さをしっかり描写した後は、西岡の長所である外向きの強さをしっかり描写するシーンです。
イヤーな大学教授にゴマすりへつらい、巧く世の中渡っていく……という第1話の西岡から更に一歩踏み込み、自分が背負う『大渡海』の重さ、そこに込められた馬締や仲間たちの思いをプライドにして、あえて頭を下げない強さと正しさを、どどんと叩きつけてくれました。
正直、仲間のために自分を曲げる強さを見せるシーンなのかなと思ったので、下げるべきでない頭を高く掲げ、交渉を強気に乗り切る方向に進んでいった時、非常に新鮮な驚きと、『ああ、そうじゃなきゃダメだよな、プライドのある良い物作ってるんだもんな』という納得を、同時に感じました。
こういう裏切りがあるのは、本当によい。

西岡は交渉能力が高いだけではなく、観察力や世界把握のセンスにも優れています。
西行』のやり取りでも発揮された目の良さは、都市経た享受には似合わない可愛い弁当を見逃さず、不倫をタテに不正な交渉を乗り切るタフさを西岡に与える。
こういう鋭さを的確に描写できると、『離れても一緒だ。ずっとおまえをサポートする』という言葉が上滑りせず、現実に溶接された決意として感じ取れるわけです。
西岡がそう言うなら、そうだろうなという信頼感をキャラに抱けるのは、作品全体にとっても幸せなことだし、作品を好きになる視聴者にとっても良いことなのでしょう。
まぁ、オレが西岡好きすぎって話なのかもしれんけども。

今回は西岡・馬締コンビの頼もしさだけではなく、部を去っていく西岡の身支度も細かく切り取られていて、寂しくも頼もしい感じを受けました。
交渉事な苦手な馬締のために、様々な書類をまとめ、連絡先をしっかりメモしてくれる優しさは、けして声高ではないけれども慎重に切り取られ、ひっそりと画面の中に配置されています。
その穏やかで饒舌な語り口が、やっぱ僕は好きです。

そういう穏やかさが下地になって、恋を成就させた馬締に背中を押され、自分も三好さんとの曖昧な関係に決着をつけ、一歩踏み出す展開もグッと胸に迫る。
斎藤千和の好演もあって、三好さんは頑張る西岡をしっかり支えてくれる『可愛いブサイク』として、いい塩梅の存在感を出していました。
スーツを着て厳しい交渉事に挑む緊張感と、香具矢さんをネタにイチャイチャしてる時のゆったりした感じが言い対比になってて、西岡が生きている世界の奥行きがよく感じられましたね。

そんな彼女の有り難さをじっくり切り取りつつ、『イカスミのパエリアが旨い店』を巡る攻防でエピソードを挟み込み、西岡がたどり着いた場所の尊さを持ち上げていく作りは、彼と彼女が好きな僕にとって、凄く良い展開でした。
第5話で揺れる西岡を受け止めてくれたときから、この二人には是非にも幸せになってほしい、ならなきゃ嘘だろと思っていた身としては、今回じっくり時間を使って彼らの恋の成就を演出してくれたのが、凄く嬉しかったです。
やっぱ欲しいところにキッチリ、欲しい玉投げれるアニメはつえーわ。

気持ちのいいまとめ方という意味では、馬締と西岡の絆を再度確認する今回のタイトルが『信頼』であり、最後に馬締が『信頼』の意味をカードに書き込んでいく終わり方も素晴らしかった。
これまで7話、恋に友情に仕事に悩みつつ進んできた馬締が手に入れたものが、あのシーンにギュッと凝縮されていて、強い満足感を覚えるラストでした。
『愛情』ではないあたりに香具矢さんのポジションが見え隠れしますが、まぁ今回は会社メインで進む話であり、去っていく西岡への永訣の手紙でもあるわけで、送るべき文字はやはり『信頼』がベストでしょう。


というわけで、別れを前にして胸を張り、離れても繋がる海を信じて前に進む青年たちのエピソードでした。
馬締は馬締の、西岡は西岡の強味と弱味があり、それを補い合いながら進んできた二人が、また離れていく。
その途中にあったものがけして無駄ではない、むしろ他と比べられないほどに尊いものだとしっかり確認できる、『信頼』の物語でした。

やりきった充実感を覚える『いい最終回』でしたが、まだまだ話数は続き、どうやら年代がジャンプするようです。
携帯電話やPCなど、小物描写に拘り時代を出してきたのも、時間が飛ぶ構成を際立たせる仕掛けだったのでしょう。
新たな時代、新たな場所で馬締や西岡が、そして新しい仲間がどんな物語を新たに紡ぐのか。
非常に楽しみです。