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イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ViVid Strike!:総評

というわけで、ひっそりと楽しんでいたVivid Strikeの最終話を見終えた。
看板から"なのは"も"魔法少女"も外して挑んだ今作は、Vividの流れをくみつつも大胆な方針変更を行い、別作品・別ジャンルと言っても良い仕上がりとなった。
古今の格闘創作へのリスペクトを交えつつ、血と涙と吐瀉物に塗れつつ、大真面目に殴り合う少女たち。
ともすればヴァイオレンス・ポルノになってしまいそうなテーマを選択しつつ、魔法格闘競技が荒んだ少女に何をもたらすのか、大真面目に真正面から取り組んだ結果、殴り合いを通じて変化していく心と体の躍動を切り取るお話となった。

つまみ食い程度にシリーズを嗜む立場からすると、このアニメが始まった段階でなのはシリーズは自家中毒に陥っていたように思う。
キャラクターや世界設定、物語のテーマが硬直化し、『なのははこうでなければならない』という固定観念が物語が自由に暴れることを邪魔する。
ノルマのように多数のキャラクターの出番をねじ込んだ結果、物語の軸は混乱し、一体何を描いているのか、見ていて何が楽しいか視聴者に届きにくい展開が多数生まれた。
支えてくれるファン層が求める『今までと同じで、より面白い物語』というニーズと、物語自体が求める『今までと違っても、より面白い物語』という欲求が衝突し、どこにも行けなくなっているように、僕には思えた。

そんな状況で生まれた今作、正直最初は全く期待していなかった……というより、マイナス評価からのスタートだった。
なのはシリーズはもはや、自分を律しきれないモンスターになってしまったと思っていた。
しかしその思い込みは、実際の物語を見守る内に殴り壊されることになる。

物語が混乱する原因だった多すぎる主役は、リンネとフーカの二人に大胆に刈り込む。
お話の熱量に直接関係ない設定が付きすぎた部分を大胆に切り捨て、世界の危機ではなく青春のすれ違いを物語の軸に。
サブ・キャラクターはあくまで脇役にとどめつつ、格闘技をど真ん中の軸に据えることで、試合の中で主役級の輝きを作っていく。
シリーズに張り付いていた贅肉をシェイプし、女と女が惹かれ合い、すれ違い、殴り合い、わかり合う、根本的にシンプルなお話としてリビルドしてきたのである。

物語がシンプルであればあるほど、骨格の強さは試される。
虚飾を剥いで殴り合いの熱さで魅せる方向性を選んだ段階で、主役二人のキャラの強さが話を支えることになるのだが、ここでリンネの強烈なキャクター性をじっくり見せたことが生きてくる。
殴り合いを通じて相手を理解し、自分の中のジットリとしたエゴを削り取り、後腐れのない勝敗に一喜一憂し、勝っても負けても鍛錬を止めない。
格闘技の陽性な部分を背負う主人公・フーカの物語をあえて軽めに抑え、怨念や憎悪、不遜と背中合わせの自信のなさと言った、格闘技の闇を背負うダークヒーローとして、リンネの話をじっくり展開させたのだ。

第4話の生々しいいじめ描写と、それに耐えに耐えついに爆発する、天性の暴力。
それはブルース・リー映画のような『有徳者の反撃』のカタルシスを確かに備えつつも、目を背けたくなるような生々しさに溢れ、リンネが背負う危うさと弱さを切り取るものだった。
殴り合いは綺麗事ではなく、他人を見下したり、支配したり、その支配を力ずくでひっくり返す、剥き出しの暴力に支えられている。
それは格闘技が持つ真実の一面であり、ここから逃げてきれいな話だけを積み上げても、展開される物語は嘘になってしまう。
ある種の開き直りすら感じる、リンネ周辺の妥協のない描写はその実、このアニメが女の子が血しぶき撒き散らして殴り合うさまを楽しむ暴力ポルノであると同時に、なぜ殴り合いというテーマを選んだかに答える誠実なアンサーでもあった。
小倉唯の怪演がリンネの大きな魅力になっていて、正直『おお、こういうのもやれるのか』と失礼な感想を抱いてしまった。きれいな頃合いの演技は、普通に『小倉唯』なのがまた面白い)

矛盾に満ちたテーマを背負うべく、リンネの歪みもまた家族への愛情というポジティブなものから生まれ、それを踏みにじられたからこそ変質してしまったという描写を貫いたことが、彼女の魅力に大きく繋がっている。
それは同時に、リンネの闇の中に一筋の光が存在し、お話はただ薄暗い答えに引きずられたまま終わるわけではないと、視聴者に暗示することになる。
あまりにも強すぎ、同時に弱すぎるリンネ(とジルコーチ)は変わらなければならない。
しかしそれは言葉ではなく、暴力によって歪みを叩き壊すことでしか起こり得ない変化であり、だからこそこのお話は『殴り合い』の物語なのだ。
フーカもただ明るいだけのキャラクターというわけではなく、様々に屈折し闇を秘めてなお、周囲の助けで光に向かうことが出来た少女として描かれていたことが、闇の中に光を宿したリンネと響き合う、良いキャラ付けだったと思う。

リンネ周りの描写を怠けなかったことで、立ちふさがる壁であると同時に救うべき被害者であり、身勝手な加害者でもある彼女の複雑な立ち位置がはっきりと見えた。
それはリンネ単体でとどまらず、彼女という強い壁に思い切りぶつかることで、トーナメントで挑むキャラクターたちもまた、己がどんな存在なのかを強く主張できるようになった。
リンネの圧倒的なパワーに砕かれたミウラも、紙一重でそれを跳ね返したヴィヴィオも、己のファイトスタイルに恥じることなく、全力でぶつかることで、キャラを一気に立てた。
この話が『暴力と暴力の比べ合いにより、対話に至る』というなのは式"お話"の伝統を受け継ぐ以上、軋み合う肉と肉、砕かれる骨によって己の存在を証明するのは、ダラダラと萌えキャラロールプレイを続けるより遥かに説得力があるし、『なぜ、殴り合いなのか』というテーマ性への問いに答える回答でもある。

リンネ軸の物語が続いた結果、中盤フーカは割りを食うことになる。
怪物的フィジカルと捻くれたメンタルを持つリンネに対し、試合はカットされ強さの根源もわかりにくいフーカは正直、存在感が薄かった。
しかしその飢餓感すらも計画されたものであり、トーナメントという既定路線から大きく外れた野試合にたっぷり時間を使う中で、彼女がどれだけリンネを思い、その思いを伝えるためには拳しかない状況が、濃厚な説得力を持って叩きつけられることになる。
『あいつの目がムカつくから、一発殴る』というサラッとした答えの奥には、孤児という厳しい境遇の中で笑顔を教え、未来に希望を持つことを教えてくれたリンネへの愛情、そんなリンネが闇にとらわれてしまっている現状への怒りが、しっかりと宿っていた。
コレでもかと言うほど回想を積み重ね、拳にキャラクターの歴史を乗せて殴り合う展開の中で、フーカはリンネの救済をめぐる物語の最後を担当するのに相応しい、まさに主人公に変化していく。

それはリンネが背負っていた格闘技の負の真実、人間の負の真相を認めた上で、希望の拳で殴り飛ばす展開だ。
綺麗事で不都合な真実を消し飛ばしてしまうのではなく、どうにもならないカルマを真正面から描いた上で、それを上回る希望を説得力を込めて何度も積み重ね、人間が変わるドラマを盛り上げる。
殴り合いにはリンネが象徴する薄暗い部分もあれば、フーカが担当するポジティブな側面もある。
光も闇も引っくるめて全てを出し尽くし、ズタボロに傷つきながら心を重ね合う少女たちを通じて、このお話はひどく真っ当で、ありきたりの結論をいつでも語っていた。
それはシンプルだからこそ、何度も語らなければいけない真実であり、同時にありきたりだからこそ、パワーを込めた物語以外では語りきれない主題だ。
このアニメは、ちゃんとそこに到達しているように、僕は思う。


キャラ描写を徹底的に殴り合いの中でやるためには、それを構成する一つ一つの技、キャラクターの肉体に説得力がなければならない。
魔法少女』を看板から外し、ダイレクトに痛みを伝え合う描写。
迫力のあるアクション作画を要所要所でしっかり決め、『美少女が殴り合う』というイカモノ的魅力を超えて、単純な殴り合いの興奮をしっかり高めていったことは、このお話の根本を支える土台だ。
かわされる拳と蹴りに『あ、当たったら死にそう』という説得力が宿っていればこそ、渦を巻く凶器を乗り越えて心を伝えようとする少女たちの気概もまた、しっかり輝くわけだ。

そしてこのアニメの暴力は、醜さを伴う。
殴られれば顔が歪み、歯が折れ、血が流れてゲロも吐く。
鍛錬を終えたリンネの太ももは格闘技者にふさわしく分厚く、いわゆる『萌えキャラ』への記号的な視線を跳ね返すような、タフな主張に満ちている。
なのはシリーズの後継として、セクシャルなものを含んだきれいなサービスが要求されていると制作サイドが理解していたのは、例えばEDのある種のんきなカットとか、予告のゆるふわなやり取りとかを見ても判る。
その上でなお、自分たちが選び取った『殴り合い』というテーマに相応しく、強靭で傷つきやすく、血も涙もある生身を少女たちにしっかり宿したのは、英断だと思う。

覚悟を込めたダメージ表現、血湧き肉躍る個々のアクションだけではなく、勝敗をいかにして組み上げ、興奮を作っていくかという、ブックメーカーの手腕も見逃せない。
リンネの過去、つまり『強くなる理由、今強い理由』を分厚く見せ、規格外の豪腕という強みをしっかり強調させた上で、強者だったミウラの肋骨を砕く鮮烈な決着を持ってくる。
そのダメージが視聴者から抜け切らない内に、体格に恵まれないヴィヴィオが負けを予感される中、己の強みを活かしきった連撃でリンネを撃破する想定外の、しかしやられてみれば納得の展開。
トーナメント内部での決着という梯子を外された後の、リング外だからこそ出来る主人公二人、極限の決戦と、そこで混じり合う魂の炎。
最終話でアインハルトとの決戦をあえて描かない(しかし、どちらが勝ったかは推測はできる)ことも含めて、『誰が勝ち、負けるのか』という最もシンプルな興奮をないがしろにせず、しっかり組み上げ楽しませてくれた。
『視聴者の予測は裏切りつつ、期待は外さない』という、守ることがとても難しい鉄則を最後まで維持したのは、とても凄いことだと思う。

看板から"魔法少女"を外したとはいえ、魔法の都合の良さ、少女のキャッチーさを適宜必要なタイミングで盗用し、展開が止まらないように進めていくのは流石だ。
後遺症が残るようなハードなダメージ表現をしても、魔法があるから大丈夫。
凄惨で重たい殴り合いが続いても、合間合間に萌え萌えなシーンを挟んで胃をスッキリさせるから安心。
ここら辺の冷静な見切りを維持することで、血まみれ一辺倒で物語が展開しすぎず、いい具合に息抜きできた気がする。
格闘ゴリラがゴリラしているシーンと同じくらい、女の子がちゃんと可愛く可憐なのは大事だ。


二人の主人公軸でしっかりまとめ上げつつ、サブキャラクターの扱いをおざなりにしなかったことは、群像劇としての魅力と誠実さを作品に与えている。
いまいち頼りないフーカを鏡にすることで、ヴィヴィオやアインハルト、ミウラの実力の高さがはっきりと見え、それを豪腕で上回るリンネの怪物性も強調された。
そういう強さのスケールだけではなく、少女たちがなぜ殴り合うのかをしっかり問い、答える展開に個々の尊厳があったことは、ともすれば圧倒的な蹂躙になってしまう『殴り合い』において、とても大事だと思う。

殴り合いの舞台に立たないキャラクターもたくさん出てきて、ワチャワチャと賑やかで楽しい空気を作ってくれた。
彼女たちはあくまで脇役としての立場をはみ出さないが、それでも強キャラとして必要なオーラ、闘争だけが繋ぐ絆の証明として、少ない出番でしっかり魅力をアピールしてくれた。
彼女らがたくさん出てくることで、色んな奴らが沢山いて、『やり方は違えど、みんな同じ方向を向いている』という安心感が出たのは、とても良かった。
彼女たちが顔を見せることで、看板から外しても『なのは』なのだ、という姿勢を証明することにもつながっていたと思う。

圧巻なのは最終話の構成で、ここまで話を支えていた『勝つか、負けるか』の興奮をあえて省略して作った尺を、リンネが高慢に踏みにじったキャラクターに回したことだ。
己の強さと弱さに溺れて、ないがしろにしてしまったキャリーや、一瞬の回想シーンで描かれた敗者達が、格闘技の光を見失わず同じ道を歩いている。
その瞬間、リンネのキャラクターを立てるための踏み台にされたはずの彼女たちは、各々の人格と尊厳を備えたキャラクターへと変わり、このお話がリンネやフーカといった『選ばれた主人公』だけのものではなく、とても広いものを捉えていたと証明されるのだ。
『勝つか、負けるか』を大事なエンジンとして扱いつつも、そこを超えて『魂を救えるか、否か』が話の軸にあった物語である以上、アインハルトとの勝敗に描写が伴うことよりも、このお話が何を描いていたのか、ダメ押しに確認しておくことが大事。
そういう見切りがしっかりされた、素晴らしい最終回だったと思う。


魔法少女版"あしたのジョー"(ハーモニー演出も多用されてるし。西村純二は出崎好きすぎ)、もしくは可愛い"喧嘩商売"
男たちが汗と血潮に塗れ己の存在を証明してきた歴史の中に、このアニメは刻まれてもおかしくない強度を持っていると、僕は思う。
『殴り合い』が持つ光と闇を、二人の主人公にしっかり背負わせ、濃厚なアクション描写のなかでしっかり問い、答えていくタフさが、このアニメにはあった。

そして、あえて『なのは』から外れることで、(僕の目には)失われているように見えた『なのはらしさ』もまた、回復されたように思える。
看板から"なのは"を外しつつ、キャラクターとしてはほぼ描写はなくとも、彼女たちがかつて見せていた直向きさ、暴力に飲み込まれる弱さと、そこから引きずり上げる強さ。
流れる血と涙をインクに、想いがぶつかり合う戦場をキャンバスにして描かれる、少女の形をした人間の咆哮。
そういう生々しい優しさを、別角度からしっかり切り取り、作品に仕上げたVivid Strikeは、猛烈に『魔法少女リリカルなのは』なのではないか。

特定のキャラクターが無意味に再登場することではなく、特定の設定をこねくり回すことでもなく、作品の血潮であるテーマ性をしっかり受け取りつつ、真新しい表現で自分なりの吠え方を果たすこと。
リブートに必要な熱量と誠実さをしっかり持って、新しい挑戦を見事に成功させた作品だと思う。
Vivid Strike!、いいアニメでした。