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イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

鬼平 -ONIHEI-:第1話『血頭の丹兵衛』感想

新年明けた2017に殴り込みをかける、最大級のダークホースついに到着ッ!
池波正太郎原作の時代小説がまさかのアニメ化、さてはてどうなることかと構えて見ましたが、非常に面白かったです。
公式HPで高らかに宣言されている『原作の魅力に、アニメならではのクールな色気と力強さを兼ね備えた新たな “鬼平”』という言葉に偽りはなく、原作のエッセンスと雰囲気、キャラクターとドラマの魅力を大事に維持しつつ、アニメという表現、2010年台という時代に焦点を合わせた、『今、新しく勝負ができるアニメ』として勝負を仕掛けてきました。
妥協のないバイオレンス、流れ行く時間と様々な変化、情と無法と涙と剣。
このアニメ、相当良いですよ。

というわけで、非常に特殊な角度から勝負を仕掛けてきた鬼平アニメ。
何しろ大衆小説の金字塔として高名を打ち立てている原作、あまりに尖ったアレンジをしてはいろんなものを蔑ろにしてしまいます。
しかし同時に、原作を、もしくは実写版やコミカライズを流し込んでは、アニメというメディアで今勝負をかける意味はないし、ノスタルジーだけに頼っていては体温のない化石が出てくるだけ。
懐旧と斬新、攻めと守りのバランスをどこに定めるかが非常に難しく、また大事なアニメだといえます。

そういう難しさを感じ取っていたからこそ、蓋を開けるまで色々不安だったのですが、実物を見てそこら辺はキレイにぶっ飛ばされました。
今回放送された第1話を見る限り、アニメスタッフの原作へのぶ厚いリスペクトと、『自分たちだけの鬼平』をしっかりやるんだという強い意気込みを感じる仕上がりで、非常に良かったです。
原作を再現することだけに救急として、アニメ独特の強みや間合いを忘れたり、新しいことに目を囚われすぎて、アニメ化に期待するファン(そこには、勿論僕を含みますが)を置き去りにはしない。
攻めるべき所をしっかり攻め、守るべき所をしっかり囲い込み、両方を生かしてより面白く、雰囲気があり、見終わった後『ああ、しみじみ面白かったな……』と頷けるようなアニメになっていました。


ぱっと目につくヴィジュアル面は結構攻めていて、平蔵は月代も剃っていないかなりのイケメン。
ドラマ版の吉右衛門のイメージが強いので最初は面食らいましたが、考えてみれば40代の平蔵を新たに解釈するにあたり、このヴィジュアルは『アリ』だなと思いました。
第1話の筋立てを見ても、平蔵がカリスマと実行力を兼ね備えた人たらしであることは重要で、まつげのセクシーな今回のヴィジュアルは、人間の情にするすると滑り込んでいく平蔵の魅力を、巧くデザインしていると思います。

涼やかな線は日常のドラマでも存在感があっていいですが、何より生きていたのは殺陣のシーン。
アニメでしか実現できないカメラワークの中で、一刀一刀に殺意と鮮やかさが宿る見事な剣戟が、シュッと涼やかな美貌とあいまって、不思議凄惨の気を醸し出していました。
アクションシーンまで比較的しっとりと進めてきた所で、アップテンポなBGMがズドンと鳴り響き、流れるように剣閃が冴える流れの作り方も含めて、見事な見せ場だったと思います。
新しいものを見せるという意味でも、変えた部分を活かすという意味でも、凄く主張とプライドが感じられる勝負所で、あの殺陣は本当に良かったなぁ……新しい鬼平は、プラチナゲームズがゲーム化しそうなくらいスタイリッシュってわけだ。

殺陣のシーンが『急』として機能するためには、そこに繋がる『緩』がしっかり構築されなければいけません。
そこら辺は美術と色彩が非常に良い仕事をしていて、しっとりとした江戸の空気が匂いを持っていました。
江戸情緒に溢れるいい塩梅の建物描写と、かなり特殊な光源の表現、大胆な一色染めの色彩設定がキレイに噛み合って、新鮮味があるのにどこか懐かしい、面白みのある絵に仕上がっていました。
ここら辺も守旧と斬新のバランス取りを巧くやっているところでして、作品全体をしっかりブラッシュアップし、『今通用する鬼平』を叩きつけてやる! という気概を感じます。

ジャジーなBGMも全体の雰囲気づくりに見事に寄与しており、情のあるシーン、凄惨なシーン、場面場面の空気を音に変え、立派に届けてくれました。
何しろ主役は四十代、息子世代の油っぽい悩みなんかも取り扱いつつ、メインのテーマははままならない人の情とか、法を守る鬼の生き様とか、全体的に渋い色合いです。
『俺達はこういう話を届けるんだぜ?』というメッセージを、語らずに理解してもらう上で音楽というのはとても大事なものだと思いますが、鬼平のBGMを聞いているとなるほど、そういう色合いで世界が出来上がっているのだなとストンと納得できて、いい仕事だと感心しました。
全体的な調子をしっかり統一しつつ、シーンごとのムードもちゃんと切り替えて表現できており、かつBGMが全てを塗りつぶしてしまうほど悪目立ちもしない。
非常に抑圧と主張のバランスが良い、仕事をする劇伴だなと思います。


このように外見がしっかり整っているアニメ鬼平ですが、それはあくまで器。
中身にどういうドラマを流し込むかこそが一番大事であり、器を整える理由もまた、そこにあります。
いい感じにスタイリッシュなOPで気分を踊らせつつも、まだ『どんなのが出てくるか解らねぇ、油断はできねぇぞ』と構えていたわけですが、若き盗賊の憧れと無情な時の流れ、新たな出会いを真ん中に据えた、非常に鋭い物語が展開されました。

今回の話は実質粂八が主人公であり、平蔵は彼を導く大いなる父親役といった約どころです。
家族の情を知らない粂八は、盗人三箇条という生き様を与えてくれた丹兵衛を父と崇め、一本義の通った盗人として成長した。
そこら辺は、開幕いきなりぶっこまれるハードコア拷問シーンで、説明されずとも感じ取れる部分です。

しかし時間の流れは青年を鍛え上げると同時に、憧れの対象を腐敗させ、別人へと変えてもしまう。
『悪人だが外道ではない』生き方を教えてくれたはずの丹兵衛はすっかり肥え太って、殺して犯して奪う外道へと堕ちてしまっていた。
縄をかけられたかつての憧れを『別人』と言い切った時、粂八は変わってしまった父を乗り越え、大人への階段を静かに登り、かつての綺麗だった過去を思い出の中で守ったわけです。
クライマックスで頬を伝っているのが、涙なのか雨なのか見えない演出は、定番ながら穏やかな語り口としっかり噛み合っていて、じんわりと情が醸し出される良い見せ方でした。


そんな粂八を鏡にして、シリーズ全体の主人公である鬼平のキャラクターもしっかりと描かれる。
子供だった自分に『固めの盃』を与え、煙管をくゆらせるさまを思わず真似してしまうような、かっこいい大人の姿を粂八は今でも追いかけている。
牢屋の中に酒を差し出した鬼平がするりと、丹兵衛が背負っていた『失われた父』の役割を肩代わりする過程を丁寧に追いかけることで、己が信じる『善なる悪』のために犬の汚名を背負う理由を、視聴者はしっかり納得することが出来ます。
それは擬似的な『父と子』の感情的ドラマの準備であると同時に、盗賊から密偵へ、無法から法へと河岸を変えるドラマの準備でもあり、キャラクター単位の感情のやり取りと、『火付盗賊改方』というお話全体の枠組みを、熱量を込めて視聴者が受け取るために大事な演出です。

粂八が『善なる悪』であるように、情報のためには拷問も厭わず、悪人をその場で切り捨てる覚悟を決めている鬼平たちもまた、悪なる手段を持って善を守る、いわば護法の鬼というべき存在です。
粂八と鬼平の間には憧れの上下関係だけではなく、同じ『善なる悪』として覚悟を決めた同志、親の温もりを知らぬ迷い子としての共感がしっかり埋まっていて、これが盗賊と火盗改メという立場を超え、二人が絆を結ぶ大きな足場になっています。
そして過去の己を裏切り、すっかり畜生に堕ちてしまった『悪なる悪』丹兵衛を、二人の『善なる悪』と対比させることで、過去を振り捨てて未来につながる新たな出会いの煌めきも、しっかり輝く。
主役・メンター・敵役が作り出す三角形が非常に堅牢で、残酷に憧れを腐敗させ、同時に活き方を前向きに改めさせてもくれる時間の流れというテーマが、明瞭に描かれていました。

かつては丹兵衛、今は平蔵と、時間を超えて描写される『酒』『煙草』『女』という『大人のフェティッシュ』の使い方も巧くて、粂八が『父』の幻影を追いかけ、大人になっていく道のりが巧く幻視できる演出でした。
細谷さんの好演もあって、盗賊という生き方、丹兵衛への憧れに一線を引き、新たに平蔵の背中を追いかけながら自分の道を歩き出した粂八の生き方が、悲しさを漂わせつつ爽やかです。
鬼平は何分、江戸時代の公安九課を取り仕切るスーパーお頭なわけで、なかなか成長のドラマを背負えない。
そこで粂八をエピソード単位での主人公に仕立て、青年が過去を振り捨てて新しい人生に飛び込む、成長のドラマを第1話に入れ込んできたのは、非常にクレバーだなぁと思います。
超スタイリッシュなお頭の無双も見たいけど、人情まみれの油地獄を抜け出し前に進むお話も楽しみたいってのが、視聴者の贅沢な願いだからね……両方にしっかり答え、食べごたえのある物語に仕上げてきたのは素晴らしい。

今回のお話は過去と未来、腐敗と新生が同居していて、後ろ向きであると同時に前向きでもある矛盾した物語です。
しかし理屈では割り切れない相反があればこそ、人間の物語には情の体温が宿るし、割り切れないものをエイヤと思いきればこそ、ドラマは決断の鋭さを帯びる。
盗賊としての生き方を捨てて密偵となり、過去の憧れに縄をかける今回の粂八は、そういう人間の矛盾をあえて割り切り、もしくはそのまま飲み込む成長を、エピソードの中でしっかり果たしています。
しかもそれは粂八一人で達成されるわけではなく、完成された大人である平蔵がいればこそ描けたドラマ。
各々のキャラクターが背負った役割を120%発揮させつつ、それぞれが影響し合う奥行きを24分の中でしっかり生み出したのは、『今まさに目の前に、この物語があるんだ』という実感を与えてくれました。

ここら辺の大きなうねりをまとめ上げてくれているのが、池波先生のフレーバーを見事に残したダイアログでして、スッと背筋が立っているのに色気があるセリフたちが、雰囲気を出し、キャラクターの気持ちをこちらに伝えてくれました。
池波先生は地の文ひっくるめたテンポの心地よさが一等好きでして、そういう強みをアニメでもちゃんと感じさせてくれたのは、リスペクトを感じさせて非常に良かった。
書き言葉から発話へと変わる中で、もしくは生身の人間からアニメーション・キャラクターへと変わる途中で、当然テイストを乗っけるメディアもまた変わるわけですが、芯のいちばん大事な部分を残しつつしっかり整形してくれていて、非常にありがたかったです。
賢雄さんを筆頭に、声優さんたちもいい塩梅の演技を乗っけてくれて、これも良かったなぁ。


さてはてそんなわけで、様々な意味でバランスが良い、とても楽しい『鬼平』となりました。
ぶっちゃけ難しい題材だし、公式発言がかなりのビッグマウスだったので不安だったんですが、そこら辺を綺麗にかっ飛ばし、期待に答え予測を裏切る完璧な仕上がりで魅せてくれました。
今、この瞬間、アニメという表現方法でしかやれないことを、しっかりやる。
受け手のノスタルジーにも、作り手のエゴイズムにも堕ちない、非常にクレバーな批評眼とたぎる情熱だけが生み出す見事な作品で、大満足であります。

想像を遥かに超える見事な仕上がりで殴りつけられてしまい、もう期待しか残ってねぇ状態ですが、数多無数に輝く原作の中でどういうお話をピックアップし、どういう料理をしてくるか。
不安が機体に変わった今、非常に嬉しいワクワクが胸の中に湧いております。
鬼平アニメ、ホント凄いアニメなんで、皆さん是非見てください。