イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

夜のクラゲは泳げない:第4話『両A面』感想

 夜を自由に泳いでいるように思えた月だって、同じ息苦しさに沈んでいたと解った時から、私たちの音楽が始まる。
 四人のJELEEが本格始動する様子を描く、ヨルクラ第4話である。
 大変良かった。

 ここまで色んな人の手を引き、地べた這いずり溜息ついてる人生を前に進めてきた花音さんであるが、今回は彼女が抱える鬱屈や弱さが暴かれ、JELEEの仲間となった者たちがそれを支えていくことになる。
 この優しさと強さの連鎖は例えば前回、花音と出逢ったからこそ前を向けるようになったまひるが、天の岩戸に閉じこもったキウイちゃんを引っ張り出したのと同じであり、弱くて間違っていて眩しくて強い、複雑な可能性を秘めた少女たちがお互いに響き合いながら、挫折を乗り越えていく様子を多彩に描く。
 抱えたものはそれぞれ違えど、ふさがりきらない傷が時折痛むのは同じで、それでも何者かであろうと顔を上げ、MVに個性と才能を詰め込んで世に問う。
 四人で一つのアートユニットが、己の存在証明を叩きつける時、特権的にリーダーだったり無敵だったりする人はどこにもいなくて、自分と同じ傷だらけの女の子が隣に立っているのだと、クリエイティビティが躍動する中気付いていく。

 顔の見えない誰かに嘲笑われて、立てなくなるほど苦しい思いをしてきた人が再び背筋を伸ばすために必要なのは、同じ傷を曝け出し受け止めてくれる同志であり、優しくしてくれたから優しくし返す、当たり前で大事な互助関係だ。
 一方的に与えたり助けてもらったりするのではなく、色んな才能や楽しさを持ち寄って互いに支え合う平等な距離感が、MVを構成する諸要素を分担しながら、一つの音楽を作っていく制作姿勢と重なり、JELEEの芸術を形作っていく。
 そうして新しい名前を得て、四人であればこそ私でいられる自分を掴み取った先に、どんな影と光が待っているのか。
 まだまだ物語は始まったばかりだが、強さと優しさに満ち溢れたJELEEの在り方はとても眩しくて、その未来もまた夜に輝いていくのだろうなと思えた。

 

 

 

 

画像は”夜のクラゲは泳げない”第4話より引用

 青春の光と影、抑圧と解放を描くこのアニメにおいて、少女たちは狭苦しいフレームに常に囚われている。
 それは過去の思い出と現在の息苦しさで、窒息するほどに満たされている檻であり、ここから抜け出し広い場所を自由に泳ぐ……あるいはクラゲのように流されていくことを、皆が願って物語の中に立っている。
 JELEEとして活動すること、四人でいることがこの窒息生の水槽から、少女たちを開放する答えになっていくわけだが、その開放感をより強く描くためには囚われている現状を的確に可視化する必要があり、暗いフレームに囚われた少女たちの群像は、そんな切迫感を見事に描いてくる。

 冒頭、ここまで話を明るく牽引してきた花音さんもまた何かに囚われ、不自由な場所で息苦しくしている一人なのだと、ロフトからの景色が良く語っている。
 この不自由な情景は幾度かの衝突を経て、皆で集い率直に意見を交換し、一つの音楽を作り上げていくJELEEの景色へと開放されていくわけだが、そういう変化が起こる前には、色んな子たちが同じ檻に囚われていた。
 まひるの舞台パフォーマンスに勇気づけられてなお、傷つけられた痛みにうずくまってるキウイちゃんはモニターの中、自分の大事な女が別のとキャッキャしている様子に引っ張られ、コウモリの翼でフレームの外へ飛び立っていく。
 めいちゃんを嘲笑われる痛みに縫い止めていたスポットライトの灼熱も、もう過去のものとして皆に曝け出されている程度に癒やされ、それを語ることがJELEEの連帯を深める足場にもなる。
 そうやって檻を壊して自分を外に出す強さと信頼は、JELEEを始動させ引っ張るリーダーが仲間に優しくしてあげたからこそ生まれたもので、その眩しさが反射することで、花音さんは自分を閉じ込めるフレームから、自分を開放していけるようになる。

 

 そしてしがらみと後ろめたさ、もしかすると微かな名残惜しさで花音さんを縛っている、サンフラワーガールズの現在地もまた完全開放というわけではなく、花音さんは自分を置き去りに再起動を始めたかつての仲間……それに構って自分を見てくれない/今の自分では見つめられない母を街頭モニタの中、窮屈に睨む。
 海の月たる”JELEE”と向日葵を名に背負う”サンフラワーガールズ”、ネットとメジャーで真逆の存在に見えて、太陽の光に惹かれ反射することで輝く受動的な存在って意味では、根っこが同じだからな……そら複雑に乱反射し、共鳴もする。
 酩酊の中でも確かに妹を思いやる姉が過去を晒すことで、JELEEの仲間たちも花音さんを閉じ込める水槽にどんな過去が閉じ込められているか、上から覗き込むことが出来る。
 見つめ、見つめられ、閉じ込め、閉じ込められる、双方向な感情と痛みの鎖は確かに重たいが、しかし何もかもを動かせなくするほど硬くもなくて、友情と決意と勇気で爽やかに、解き放つことが出来る枷だ。
 皆で力を合わせて一つのMVを作り上げる、JELEEのクリエイティブがそういう不自由と自由を、見ているものに受け入れやすい形にしっかり整形して届けてくれるのは、アートを主題にしている物語だからこその強さだと感じる。

 花音さんを縛る視線もまた双方向で、因縁深き瀬藤メロがブリブリな外キャラ引っ込めて、ドロドロに渦を巻いている執着を向ける相手は、勿論”橘ののか”だ。
 雪音Pを盲信する甘い視線が唯一引っ込み、獣じみた鋭さを顕にしてくる理由と因縁がどこにあるかは、もう少しJELEEの物語が先に進んで描かれるものなんだろうが……チラ見せ段階で既に湿度と重力凄くて、かなり期待している。
 こういう砂糖菓子の外套に執着の刃を隠しているタイプが、一番ヤバいんだって……! 百合色のCloak & Daggerッ!!!

 

 

 

 

画像は”夜のクラゲは泳げない”第4話より引用

 少女たちを捉える水槽がどんな色合いで、そこでどういう触れ合いを経て自由を得ていくか。
 アートに青春を捧げる群像を切り取りながら、細やかな心の動き、出会いと共鳴が描かれていく。
 まひるに背中を押され暗い部屋から出ることにしたけども、やっぱり知らない人怖いキウイちゃんは最初フードとマスクで武装し、JELEEの同志とはやや遠い間合いで一線を引いている。
 黙ったまんまじゃ何にも変わらないと、自分の意志でフードを外して素面で向き合い、かつて笑われたピンクの髪を肯定的に受け入れて貰うことで、マスクを外して嘘の鎧を自分の言葉で引っ剥がしていく。
 登校拒否も否定されるべき間違いじゃなく、沢山ある人間の在り方の一つだと豪快に笑い飛ばしてくれることで、臆病なヒーロー志願者は体重をJELEEに預けていく。
 そうさせる明け透けな明るさと力強さ……第1話でまひるを暗い場所から引っ張り上げた華やかな眩しさが、確かに花音さんにはあって、それが色んな人を引き付け人生を変えていく。
 でもそんな大きな星だって、無傷で無敵な訳では無い。

 自分が岩戸の向こうに連れ出したキウイちゃんの身じろぎを、まひるがメチャクチャ気にかけ背中にかばって守っているのが、あまりに強くて優しくてよかった。
 俺はマジで、自分なり精一杯の勇気を絞り出してるからプルプル震えている人間のことを真っ直ぐ見れて、もし世界がそいつを傷つけるなら自分の体を盾にして守る姿勢見せてる女(ひと)に弱いからよ……。
 キウイちゃんに優しいまひるを見てると、ドンドン好きになってしまうね。

 

 今回のまひるはマジでずーっと、キウイちゃんが自分の好きな人たちと仲良く慣れるかめっちゃ良く見ていて、あんまフツーに親しくなるための儀礼を気にかけない、強火オタクと登校拒否児と負け犬アイドルの間を取り持つ。
 燃え盛るクリエイティブに一心不乱になるあまり、セルフ・ネグレクトに片足突っ込んでいる花音さんの浮世離れは、流行りのカップティラミスを買って皆で盛り上がる、フツーのコミュニケーションを跳ね除ける。
 学校という社会に馴染めなかったドロップアウト組が癖強いのは納得として、一応仮面優等生演じられてるめいちゃんが推しの部屋に入った途端、空気は採取するわワーワー騒ぐわ、激ヤバ生活破綻者っぷり全開にするのは、やっぱ面白すぎるな……。

 しかし量産型を目指し人間関係を泳ぐ能力を、鬱屈した日々の中鍛えてきたまひるは、ただ目標に向けて突っ走ってるだけじゃ辿り着けない連帯を紡ぐべく、一見回り道に思える社会的グルーミングを、しっかりやる。
 色んなトッピングが乗ったピザを分け合い、チョコエッグの中身当てゲームにはしゃぎ、MVづくりには関係ないじゃれ合いが、緊張と警戒をほぐして間を取り持っていく。
 そんな柔らかな繋がりを生み出す能力は、”海月ヨル”を殺してフツーに生きていたからこそ生まれたまひるの強さで、あまりに真っ直ぐすぎる花音さんの足りない部分を、優しく補っていく。
 ここでまひるが手渡した、JELEEがJELEEである証を持っていたことで、花音さんは夜に迷った時自分がどこに行けばいいのか、思い出すことが出来る。
 そうして見つけてもらう喜び、抱きしめてもらう嬉しさは、あの夜の渋谷で……あるいはピアノの発表会で、まひるとめいちゃんを抱きしめた花音さん自身が、仲間に手渡し得たものだ。
 それぞれ美点と表れ方は違えど、皆自分たちらしいやり方で誰かを思いやり勇気づけれるのだと、JELEEの四人が持ってる善さを丁寧に削り出し積み上げてくれる手つきが、彼女たちをどんどん好きになれてありがたい。

 

 

 

 

 

画像は”夜のクラゲは泳げない”第4話より引用

 今回のエピソードは四人になったJELEEが気付く/気付いてもらえる、抱きしめる/抱きしめられる、与える/与えられるという諸関係において、かなり平等で相補的である様子を丁寧に積み上げていく。
 酔態を困惑顔で抱きしめてもらったJKの恩義に報いる形で、姉が大事な妹が見つけた新たな仲間たちに伝える、深めの傷と焦る理由。
 それを受け取ることでJELEEは夜に迷った彼らのリーダーを探し出し、帰るべき場所へと導く事ができる。
 花音さんが仲間のために流行りのティラミス(それがJELEEのための聖餐であることは、カップに刻まれたクラゲからも明白だ)を買おうと思えたのは、まひるが手渡してくれた優しさと信頼の証が、ポケットの中で自分の居場所を教えたからだ。
 与え、与えられ、また与え返す。
 そういう幸せな繋がりがリレーされて、JELEEはJELEEになっていく。

 そこにはただ受け入れるだけの一方通行はなくて、レスバ最強のキウイちゃんが極めて正当に、花音さんがひた隠しにする”期限”の理由を問い詰めれる厳しさがある。
 そこを隠して唯々諾々と、リーダーの焦りにだけ付き合っても対等なクリエイティビティなんぞ成立するわけがないわけで、キウイちゃんがグイグイ行くのは大変正しいと思う。
 正論の切っ先を避ける形で夜に逃げ出した花音さんの事情は、酔いどれ姉貴が色々教えてくれるわけだが、おそらく離婚によってかつてすべてを捧げた母と、花音の名字が違っているのはなかなか興味深い。
 ”山ノ内花音”と”橘ののか”、2つの名前を持つ少女をメインエンジンに据えて展開しているこのお話において、他のメンバーも複数の名前を持ち、それぞれにアイデンティティを宿している。
 花音さんが何故アイドルをやっていて、それがどう崩壊したのかが今回見えることで、彼女の中にはもう一つの名前……母に愛され繋がっていられた”早川花音”と、望む偶像でいられないまま引き裂かれた”山ノ内花音”が、分断されたまま横たわっていることが解ってくる。

 

 モニターの向こう側で、幸せそうに(おそらく母の期待と指示に見事に答えて)微笑むメロを睨みつけながら、花音さんはあまり美味しくなさそうにエナジーバーを頬張る。
 栄養補給さえできればいいと、目的のために最短距離を突っ走って大事なものを取り落とす花音さんが、ついつい蔑ろにしてしまう食と清潔。
 それが魂の糧として、関係性の潤滑油として大事な機能を果たす様子は、仲間たちがリーダーを見つけ直し(あるいはポケットの中の月に照らされ、花音さんが今の自分を見つけ直し)た後描かれるわけだが、その前景としてゴミに溢れた私室の様子、寿命縮める激ヤバ食生活を描くのは大事だ。
 どんだけ熱意と才能に溢れていても、花音さんが一人きりなら補えなかった潤いと華やぎを、JELEEのメンバーは手渡してくれる。
 それがとても大事なものだと思えたから、クラゲの光で自分を見つけた後の花音さんは、一回どうでもいいと遠ざけたはずの流行りのスイーツを、皆のために自分のために買った。
 それがぴったり4個じゃなくて、ちょっと多すぎる6個なのは、花音さんのチャーミングな不器用であり、それが上手く形にできない思いやりが、彼女の中に溢れている証明だと思う。

 そういう上手く生きれない人間の気持ちは、同じ武器用人間だからこそ解る。
 色々ヤバい屈折を抱えつつも、一応制服着込んで学生やれているめいちゃんが想定する明るい場所ではなく、キウイちゃんは不登校仲間の共鳴でもって、花音さんが流れ着きそうな岸辺を直感する。
 この時まひるではなく、めいちゃんのお手々をギュッと握りにいった渡瀬キウイの変化に、俺の心臓は破裂寸前まで追い込まれたッ!!
 まだぎこちない所ありつつ、自分を嘲笑わない仲間と触れ合う中で、体温を預けてもいいと思える相手が増えてきてるんだねぇ……。
 あんだけガチオタであっても、あるいは神格化しちゃててるからこ死角になってる部分がめいちゃんにはあって、その人間として当たり前の欠落を仲間が補ってくれて、見つけるべきものを見つけられる様子が描かれているのは、四人で一つのJELEEがどういう生物なのか、心に届く表現してくれてて良かった。
 不器用人間特有の視力でもって、暗い影に迷いかけてた仲間を見つけ駆け寄ってくる姿の温かさ、ホントこのアニメの良いところだと思う。

 

 

 

 

 

画像は”夜のクラゲは泳げない”第4話より引用

 頼れる仲間に花音さん探索を託し、元量産型は何をしていたかというと、部屋を片付けシチュー作っていた。
 尖った才能と情熱が置き去りにしてしまいがちな、心を安らげ絆を繋ぐ大事な儀式をまひるがやってくれることで、花音さんはもしかすると事件以来ずっと満たされなかった腹を満たして、一人きり狭い檻の中で生きていない喜びを実感していく。
 やっぱ生活に密着した衣食住の描写が、魂の在り方と共鳴してキャラクターを深く掘り下げていく表現が俺は好きだし、乱雑なまま放置されている花音さんの私室が公開されたこと、そこにJELEEが踏み込みまひるがケアする特権を手渡し合っていることが、迷って寂しがって飯食って活きてる”人間”山ノ内花音の顔を、新たに削り出していく。
 第1話であまりに鮮烈に、人生の暗い場所から引っ張り上げられちまったまひるが、量産型クラゲっ子として人間社会上手く漂ってる間に鍛えた力を活かして、恩人に今必要なものを自然体で手渡している姿は、描かれるべきものが描かれるべきタイミングで形になった、物語の醍醐味を感じられた。
 やっぱねぇ……お互い思いやって前に進んでいく、対等で力強い青春が積み重なるの見れるのは最高。

 自分の傷を暴かれたと、まひるに言われた時花音さんが今まで見せなかった弱々しい表情見せるのも、花音さん主導で進んできた物語が新しいステージに入った感じがあって良かった。
 こういう顔を見せないことで、量産型の海から”海月ヨル”を蘇生させた花音さんだって、傷ついてうずくまっていた過去があって、それを知られて仲間が遠ざかっていかないか、心配にもなる。
 ここで出会いの時、ピンクアタマも登校拒否も笑わなかった花音さんへの信頼に背中を支えられて、キウイちゃんが率先して自分の傷を見せること……その真心に花音さんがちゃんとお礼をいうの、とても良い。
 誰かが受け止めてくれるからこそ、これ以上傷つきたくないと一度は影の中に沈んだほどの痛みを改めて切開し、今度は笑い飛ばしたりシチューの滋養で治したり、同じことの繰り返しじゃない未来を作っていける。
 そういうお互い様な関係性を夜のクラゲたちは、探り合い時に傷に触れて逃げ出して、一個一個作っていく真っ最中なのだと解るのは、とても良いことだ。
 JELEEがクラゲをトーテムにしているのは、自分では輝ききれない蓄光性と泳げない浮遊性故だと思ってたけど、『柔らかくて傷つきやすく、でも不死で無敵』って要素も、皆に共通しているからなんだなぁ……。

 

 この個人的な連帯と治癒が、JELEEとしての新しい歌を世界に向かって叩きつけ、バズって自分たちを承認してもらえる武器にもなっていくのが、公私のバランスが取れてて好きだ。
 今回のお話は花音さんのクリエイティビティに引っ張られる形で完成した”最強ガール”とはちょっと違って、四人が私的な空間で顔を合わせ、同じ釜の飯を食ってぶつかり解りあったからこそ、嘘のない自分たちを表現できる楽曲の生成過程を追いかけていく。
 ”月の温度”には今回のエピソードで描かれた私的な体験が、硬めの韻(”冷たいリアル”と”ポケットにある”とか)を交えてより普遍的な詩へと形を変えて刻まれている。
 そうやって、一個人が感じ取ったものをとても鮮烈な強さでもって、色んな人に届け共鳴させられるからこそアーティストはアーティストであり、曲はバズるべくしてバズる。

 その根っこにはアーティストとしての山ノ内花音の情熱とセンスがしっかり居座っているわけだが、適切な飾り方やケアの仕方が分からない花音さんだけでは、曲は数字を手に入れていない。
 欠けたものを補い合えるJELEEだからこそ、MVも楽曲も前より進化し、少ない素材をタイポグラフィーのセンスで魅せてた”最強ガール”より、もっと力強く華やかな新曲で、世界に勝負を仕掛けることが出来る。
 花音さんが己の焦りを秘している間は、身勝手な押しつけでしかなかった”締め切り”に……リーダーを傷つけた古巣との勝負に間に合わせることもできる。
 JELEEの四人が仲間になっていく過程を、花音さん一人にそのアートを背負わせない強さを、ドラマの中で描くことで、生み出された楽曲が何を秘めているのか、どこから生まれてきたのか、クリエイティブの内側に親身に潜り込むことが出来るのだ。

 物語の冒頭においては狭く孤独なフレームに、カノンさんを閉じ込めていたロフトは、お互いの傷を曝け出したクライマックスにおいて、より広々した逆位相から描かれる。
 そこは花音さんの定位置で、しかし一人きりだった時とは違う景色が部屋に広がり、JELEEはそれぞれの才能を呼応しながら柔らかく形を変えて、自分たちの今を刻んだ曲を作り出していく。
 高低差と距離がある、同じ部屋にいるんだけどもベタベタ密着はしてないJELEEの距離感が、ここまでの物語の答えとして描かれているのは、傷を舐め合うのではなく曝け出し切開して、しっかり真心で治療していく彼女たちのスタイルを、上手く可視化していると思う。
 自分たちの出来ること、やるべきことを眠気ぶっ飛ばしてやり切り、一つの証を”月の温度”としてまとめ上げたときには、皆同じものを見て凄く間近に、肩を寄せ合って未来へ進むことも出来る。
 そこに至るまで、ベタベタ引っ付いた距離感でいなければならないという不自由からも、夜のクラゲたちは自由だ。
 そういう爽やかな自由が、少女たちがぶつかりあって見つけた自然体だと思えるエピソードだったのは、大変良かった。

 

 

 というわけで自由奔放な夜の女王の震えを、同志たちに曝け出し抱きしめて、新たな叫びを世に問うエピソードでした。
 生きづらさを抱えた少女たちが、運命的に出逢ってお互い引き合う強い引力をドラマの中にしっかり刻みつけつつ、年頃のチャーミングを山盛りぶっこんで萌えさせてくれたり、アート集団JELEEがどのように作品を作っていくのか、何が歌に込められているのか理解らせる作りで、めちゃくちゃ良かったです。
 こんだけの思いと生き方を、皆に伝わる形に凝縮し翻訳してMVにしているからこそ、JELEEは電脳の海に燦然とバズる存在になっていく。
 そういう納得がちゃんとあるの、匿名アーティスト成り上がり物語でもあるこのアニメを見続けるにあたって、すげぇ大事なことだと思います。

 JELEEが世界に見つかるのも、花音さんが無敵の女神の座から降りて”人間”になるのも、正直もうちょい先だと予測していたので、今回の話運びは嬉しいサプライズでした。
 出会って、照らしあって、傷を暴いて、詩で塞いで。
 四人で一つに混ざり合い、別々だけど同じ夢を形にしていく可愛いクラゲたちが、バズの波に乗ってどこにたどり着くのか。
 次回も面白いものが見れそうで、とても楽しみです!