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イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

正解するカド:第5話『ナノカ』感想

密室から愛をこめて全世界へと拡散するスペキュラティブ・ポリティカル・フィクション、今週は二人の天才、二つの解答。
国連安保理という密室に可能性を閉じ込めるか、全世界と敵対して改革を推し進めるか。
ジレンマに陥った日本に国連、異方双方からの回答期限が迫る中、政治代表の犬束総理、科学代表の品輪さんが正解にたどり着き、第三の答えを世界に叩きつける回でした。
メディアや軍、徭さんといった『普通の価値観』を背負うキャラを巧みに使い、閉塞感を際だたせることで物理的・観念的密室を作り出して、対話と試行錯誤によって解答にたどり着き、それが壁のない世界へと拡散していく。
一種の思弁的密室ミステリと、その解答編といえるエピソードだったのではないでしょうか。

今回のお話は『ワム』にまつわるややこしいジレンマを追いかけつつ、政治と科学両面から答えが出るまでの物語です。
徭さんが危惧しているように、ワムは人間社会を変質させ、混乱させます。
資源・寛容さ・理解力など、様々なものが有限であることを前提に組み立てられてきた人間社会。
どちらかが奪えばどちらかが飢えるゼロサムゲームのルールは、『人間社会に湧き出す無限の源泉』であるワムの登場によって、そのルールを書き換えられてしまう。

人間の定義すら変えてしまうだろうこの思弁的爆弾を前に、キャラクターは様々な判断をしています。
報道の現場で現実的政治を追いかけてきただろう言野さんは、安保理日本国政府の政治的綱引きに注目し、戦争と革命の両天秤の行方を気にかけている。
自衛隊として国民の安全を守る使命をもった阿方さんは、戦争をもたらす死の天使としてザシュニナを睨みつけ、文官のトップである犬束総理の決断を気にかける。
徭さんは現在の人間社会を大事にする『普通の人間』として、ザシュニナに直接『あなたは高慢だ。ワムはない方がいい』と言葉をぶつける。

彼らが見ている世界は軒並み、有限のカルマに束縛された旧世界です。
そこで人生の悲喜こもごも全てが展開されている以上、誇りも愛着も会って当然で、変化を拒んだり、思考の足場をそこにおいてしまうのは仕方がないことです。
ワムの可能性、異方との接触で塗り替えられていく世界のイメージを瞬時に抱けた天才たちよりも、旧世界の思考法に囚われた彼らの考えの方が、僕らに近い部分もあります。
こういう部分をぶっ飛ばして、天才だけで話を勧めていくとこの思弁的なお話、非常に飲みにくくなると思います。
なので、事態を先に進める天才だけではなく、新世界についていけない凡人たちも大事に描いてくれるのはありがたい。

思考が旧世界の密室にとらわれているとはいえ、彼らは皆有能で、理性的で、可愛げもある人達です。
世界の変容を作中の価値として描くのなら、旧式の考えに囚われた彼らを愚鈍に貶めることで、相対的にワム革命の地位をあげる描き方もあるんでしょうけど、このお話はそういうことはしない。
安保理へのワム全面提出』という白旗を的確に予測してただけに、言野さんはその後に出てくる『ワムの製法完全公開により、安保理の戦術を無効化する』に度肝を抜かれます。
しかし優秀な報道人である彼はメディア的反射神経を全開にして、目の前で起きている状況を的確に言語化し、偏見なく事実を伝える。
あらゆる分野に最優秀の人材が揃っているのがこのお話なんですが、メディアに言野さんがいること、保守的なポジションにいつつ改革に対応できる才があることは、結構大事だと思います。
メディア抜きでは描写が片手落ちになる現代政治劇だということだけではなく、キャラクターと世界観、テーマの公平性を維持する意味でも。


『予定されている正解にカウンターを当て、出てきた答えに説得力を出す』という動きは、人類だけがやっているわけではありません。
異方側にいるザシュニナと真道さんも、直接的に正解を流し込むのではなく、人類が己の力で正解にたどり着けるよう、様々に手を打っています。
品輪さんを電波暗室に連れて行ったのもそうだし、犬束総理との密談に応じたのも、品輪さんの試行錯誤に真道さんが付き合ったのもそうでしょう。
プラスの風を吹かすだけではなく、『ワムによって発生する問題に、誰が回答するべきか』という問いかけに『国連安保理』『為政者』という『誤答』を用意して、マイナスの方向から正解を導いているのが、なかなか面白いですね。

おそらく真道さんは、交渉官としてワムを筆頭とした異方技術、ザシュニナの問題集を予め知っていて、『正解』にある程度以上目処がついている立場なんじゃないかと思います。
いわば異方マニュアルを先に読んでいる状態だったからこそ、専門分野ではないワム製造法の解明において、品輪さんの力になれたんじゃないかと。
御船先生が目ざとく気にかけていましたが、異方技術(の背景にある異方の価値観、そこから生まれる変化)を前にあまりにも冷静な真道さんもまた、『ノーベル賞十個取る』品輪さんと同等、もしくはそれ以上の異才なんだと思います。

ザシュニナにも御船先生にも見込まれている品輪さんは、ザシュニナにおっぱい揉まれたり、反撃に腕を食ったり、息をするのも忘れて解明に勤しんだり、変な踊りを踊ったり、全世界にドヤ顔を晒したり、圧倒的にチャーミングでした。
そこで終わらず、ワムをザシュニナ由来の独占技術から、全人類に公開された公開リソースへと書き換える技術的基盤をまとめ上げている辺り、つくづく天才だなぁと。
品輪さんが完成させた『紙から作れるワム講座』がないと、メディアによって安保理の独占戦術をひっくり返す総理の戦術も機能しないわけで、日本の政治的『正解』は品輪さんの個人的才覚によって支えられたわけです。
ザシュニナが脳スキャンで知識を与えるわけではなく、顔真っ赤にしてウンウン唸って答えにたどり着くところが、品輪さん個人と人類全体への信頼を感じさせますね。

電波暗室と密談部屋、二つの密室の中で今回のお話は展開します。
それは物理的密室であると同時に、有限のカルマに縛られた旧世界のルール、思考法の密室でもあります。
社会的な常識や大人の立ち居振る舞いを無視し、自分の興味と知識欲に素直に突っ走る品輪さんの自由さ(御船先生いわく『子供』らしさ)を見ていると、彼女が最初から密室にとらわれていない人種だと判ります。
登場したときからフリーダムだったわけですが、そういう人間だから異方の超技術を人間として理解し、与えられる恩恵ではなく(悪用も含めた)応用可能な技術に変換可能だったのかもしれません。

密室と言っても、電波暗室も密談部屋もモニタリングされ、様々な人の目に触れています。
ザシュニナが犬束総理の『正解』を受けて方策を授けた時、密室のはずの部屋には風が舞い起こり、ザシュニナの服はたなびく。
今回選ばれたものが世界の秘密に向かい合った密室は、少数が情報を独占し、多数の運命と意思を決定してしまう密室性とはまた違う、いわば『開けた密室』というべきものなのでしょう。

安保理への回答リミット(そして物語的停滞の拒否)を考えると、ワム問題への『解答』はスピード勝負です。
組織を作って、みんなで意見を出し合って、すり合わせて……という形では追いつけない速度で、問題は一気に流れている。
政治でも科学でも最高の個人を密室に閉じ込め、一足で解答を出すスピードを選んだけれども、それはメディア(言野さんのマス・メディアだけではなく、科学技術も含めたアプローチ可能な媒介)を通じて公開される。
密室に閉じ込める平和か、公開して争うかという二択を押し出していただけに、『開けた密室』という解法は、なかなかに面白いサードチョイスだと思います。


犬束総理は日本国家、全人類を巻き込む巨大な選択を、誰もいない密室で唯一人ザシュニナと向かい合い、自分の意志で決定しました。
ワムの危険性も引っくるめて、全人類がその恩恵と呪いを受け止めるという結論に先んじる、ラディカルで理想主義的、理論的で楽観的な決断でしょう。
総理は人間の善を強く信じていて、ワムという無色透明なただの技術を活用し、人間がより善い方向に変化していく未来に、己と日本、世界全部を賭けたわけです。
このギャンブルにどういう目が出るかは、来週以降を見ないとわからないところです。

このお話は人類のポジティブな部分を強調していて、政府は強力な連帯で結ばれて一枚岩だし、意思決定は混乱なくスムーズだし、意見の違えはあれどディスコミュニケーションはないし、キャラはみんなどっかチャーミングです。
それは理想化ではあるけども、現実の人間もちゃんと持っている部分であり、捏造ではないと僕は思っています。
なので、人間の一番善き部分を信じて展開しているこの物語、犬束総理とザシュニナの決断は、結構本当らしく感じられるのですよね。
ニヒリズムよりもオプティミズムで支えられた物語のほうが、見ていて楽しい嗜好だってのもあるんでしょうけども。

人類史上最もラディカルでリベラルな革命へと舵を切った総理の決断は、人類改革の可能性を残しつつ、安保理決議の背景にあるパワーポリティクスの文法それ自体を無効化する過激さに満ちています。
力の独占と不均衡を前提にした現所の政治・国家・民族体制は、ワムが全世界に拡散しエネルギーが均質化されることで、根本的に破壊・再生される可能性があります。
それは犬束総理が舵を取れるものではなく、ましてやザシュニナが方向づけをするものではなく、『人類みんなが、人類みんなで決めていく』ものになるでしょう。
国家概念の解体まで睨んでいるアナキストをトップに据えている辺り、この世界の日本ホント尖ってるな。

犬束総理の決断は苛烈であり、『俺達は変わりたくなんて無かった』という『普通の人間』からは、強く反発があるでしょう。
そこら辺を担当するのが徭さんかなぁって感じもありますが、あの人も話が通じる人なんで、対立や拒絶とはまた別の交渉が行われ、納得の行く『正解』が描かれる感じもします。
期待、といったほうが良いかな。
キャラがみんなチャーミングなんで、ギャーギャー無理解のまま騒ぎ立てるより、お互いのいい部分を認めあって仲良くやって欲しくなるんですよね。
そういうポジティブな期待感が湧いてくるのh,このアニメがいいアニメだって証拠だと、僕は思っています。

社会的動物である『犬』を『束』ねる職能を、既に名字に背負っている総理。
開かれた密室で決断された彼の理想が、今後どういう風を巻き起こし、世界を変えていくか。
世界史に名を残すだろう革命者(もしくは既存秩序の破壊者)の先鋭的な理想に、人類は共鳴しうるのか。
密室から起きた波紋が広がり、反応が返ってくるのは来週以降になります。
そういう広いところのリアクションをしっかり描かないと、ワムという全人類規模の問題提起は説得力を失い、それを通じて描かれようとしている人間存在への思弁も、薄っぺらなものになってしまいます。

日本国政府電波暗室
密室にカメラを寄せ、一つの『正解』にたどり着いた物語ですが、それは同時により開けた世界への『出題』でもあります。
一体安保理は、人類は、犬束総理と日本が選んだ『正解/出題』にどのような答えを返すのか。
それによって、世界と人間はどう変化し、推進していくのか。
来週が非常に楽しみですね。