ヴィンランド・サガ 第2話『剣』を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
単眼の鬼のように、過去は振り捨てても追いかける。
刃を握り手を血に濡らす日々に疎み、僻地にぬくもりを求めた戦鬼。父となったトールズを追い、ヨーム戦士団が戦の始まりを告げる。
退けど進めど修羅。待ち構えるは謀略と死。それと知りつつも、ただ進む
という感じの、トールズ父さん死亡フラグ満載回である。トルフィン地獄旅も、幸福な幼年期描写でみっしり敷き詰められ、待ち構える嵐に震えるしかねぇ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
恵まれぬ僻地ゆえに戦乱から遠ざけられたアイスランドと、富と暴力がグツグツ沸騰する北海沿岸諸国。地理条件が美麗な背景に焼き付けられ面白い
アイスランドの住人は、遠くデンマークから届いた戦の知らせに沸き立つ。しかし戦場の生々しさから逃げ出したトールズは、浮かれ騒ぎを背に肩を落とす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
逃避地、アイスランド。死を装ってそこに逃げても、結局過去は殺せなかった。殺し、奪うのが当たり前の血まみれの生き方は、戦士を逃さない。
ヨーム戦士団の盾に"眼"が刻まれているのが、良い図象学だなと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
それは戦場の眼であり、過去の目だ。トールズが捨て去った生き方は、じっと彼を見据えて逃さない。誰も業からは逃れられない。
その残忍な冷たさを、無機物の眼がじわりと象徴する。
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トールズは追いついてきた"眼"を押しのけるでなし、悲しみを背負って静かに受け入れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
自分を戦場に押し流し、逃げ出し、追いつかれた巨大な流れ。それはフローキという個人に凝縮されているが、もっと大きなものだ。彼を殺して、どうにかなるものではない。刃では何も切り裂けない。
だが結局刃を握る以外に道はなく、戦争はアイスランドまで到達してしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
デーン人のブリテン侵攻と、それに対する反発行動としての虐殺を火種に、イングランドを巡る闘争が発火していく。アイスランドにとっては何十年ぶりの祭り
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それはトールズにとってはかつての日常であり、浮かれる島民が知らない地獄を、肩を落として思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
遥か彼方、フェロー諸島もブリテンも超えてヴィンランドを見てきたレイフは、唯一人その重苦しさを見て取る。レイフおじさん好きだなぁ…武器を取らないゆえの強キャラ感。
レイフはあくまで交易のために船を使うが、ヨーム戦士団のロングシップは戦のための道具だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
ヴィーキングは主に交易民であったそうだが、それは制御された暴力行使を否定しない。殺して奪って銭が手に入るなら、それに越したことはない。
そういう生き方から、逃げてきたはずなのに。
トールズが背を向けた剣の輝きに、幼いトルフィンが魅了されてしまうのはなんとも皮肉だ。戦場から遠い氷の国では、軍靴は大地を踏み荒らさない。全ては優しく雪が受け止める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
だが木の玩具ではない刃は、赤い血を流す。涙のように、父の掌から滴る
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浮かれモードで戦場に向かう、アイスランドの民(それが、戦場にスペクタクルを見てしまう僕ら現代日本人に重ね合わされ、この後襲うだろう地獄に一緒に乗り付けやすいよう、巧妙に配置されているのは間違いない)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
そこで頼りになるのは家族の思い出でも、木の玩具でもない。鈍い光を放つ暴力だ。
その輝きは妖しく、無垢な少年を魅了する。闇の中、あまりに強く輝く光。それが何を生み出すか、光に見えるものが偽りの救済であることを、父はよく知っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
敵とは誰か。傷つけて良いものなどこの世にあるのか。
血に濡れた問いかけを、少年は気安く蹴飛ばしてしまう。
父が人生を賭けて手に入れ、守りたかった平和という答え。刃を握らず、その甘い輝きに背を向ける生き方。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
船団の到来で破壊された夢が、真っ赤な血を流す。そこに手を伸ばす母は、父の地獄を知っている。
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父のやるせなさ、息子に生き様を解ってもらえない悲しみに、母が寄り添う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
そういう家族劇以上の、かつて血みどろの戦士であった男と、そいつを平和に引っ張り上げた女のロマンスが香るシーンだったのは、とても良い。
父も母も、恋をして家族になった。それは時に、死を伴うほど熱い。
アイスランドの平和な家庭では、想像もつかない重たい過去。子どもたちも知らない戦士のサーガを、二人は共有している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
だからこそ、ヘルガだけがその傷に手を差し伸べられるのだ。そして父が歩んだ血まみれの道は、多分息子が歩くことになる道だ。因果だなぁ…。
何事も己の身をもってしなければ、真実はわからない。どれだけ苦しく、全てを飲み込むほどに暴力的な事実でも、遠くから見れば華やかな祭りでしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
アイスランドとフェロー諸島。2つの戦場での"遊び"の違いが、生々しく教える断絶。
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木剣で打ち合うアイスランドでは、腕が折れただけでやりすぎの大事件である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
フェロー諸島で待ち構える戦士にとっては、キリスト坊主はダーツの的。足がもげて何点、頭が割れて何点の、悪趣味な"遊び"だ。
2つの"遊び"を切り取るカメラの、青く明るい空と、どす黒い曇天。
トールズはため息と覚悟を、トルフィンとアイスランド民は楽観と危うさを抱えて、その薄暗さの中に進んでいくことになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
今回は画面外に追いやられた、投斧が人体にぶっ刺さった時のグロテスク。それを直視した時、彼らの"遊び"は血みどろの現実に変わる。剣を握ったトールズの血は、その予兆だ。
アイスランドの"家"を描く時の、整然とした清貧。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
フェロー諸島に滞在する軍隊(束ねられた暴力)が身を置く、どす黒い頽廃。
過去を語る時、伸びる父の背筋。謀略を弄びつつも、足を机に上げて嘲笑う。姿勢の中に、それぞれの世界が見える。
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美術のクオリティがしっかり物語に噛み合っているのは、このアニメの本当に強いところだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
氷にまみれた貧しいアイスランドと、ものに満ち溢れたフェロー諸島。レイフおじさんが切望していたワインは、温暖な土地では樽に頭を突っ込んで飲める
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雪に覆われた不毛の大地は、だからこそ戦乱から遠ざけられていた。柔らかな繭の中で育った淡い夢は、荒れ狂う戦雲と荒廃した人倫に傷つけられ、壊れていくだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
その時、故郷こそが楽園だったと思えるのか。武器を捨て、敵を作らない生き方を選べるのか。
父にとっては、つまらない日常こそが夢だった。遠くから角笛が届いて、それが覚める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
おそらく、父は死ぬのだろう。話の流れ的にもうそれしかねぇし、それを目の当たりにするだろう息子が、父が背を向けた屍山血河に喉まで浸かる未来も良く見える。なんてヒドい話だ…(褒め言葉)
アイスランドの民は『戦場で散るのは男の誉れ!』と浮かれてるけど、中継地で待ってるのは致死性の罠で、ハメられて味方にぶっ殺される未来だからなぁ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
100の死体と1の栄光が待つ『本物の戦場』すら、平和ボケした田舎者に与えねぇ展開はホント無残な…リアルだからマシってわけでもねぇが。
『アイスランドへの宣教はまだだけど、ブリテン周辺には既に伝道がある程度行き届いていて、しかしクソ野蛮人ヴィーキングは愛の教えなんぞクソっ喰らえだぜ!』って現状説明が、坊主ダーツ一発で飲み込めるのはとても良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
クヌート王がメインなら、キリスト教と暴力に纏わる話もやんのかな?
富は欲と戦乱を呼び、退屈な楽園からは黄金に見える。刃が照らす地獄の輝きは、少年をどこに導くのか。死地と知りつつ歩みを進める戦鬼は、いかに死んでいくのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
重厚な語り口、世界をしっかり切り取る筆の強さが、複雑な情勢を下支えする力強さ。ははーん、このアニメ面白いな…?(今更人間)
ホントこの船の縁の、使い込んだ木肌の質感ね…細かい所まで気が行き届いていて、それが作品世界の生々しさ、シーンが背負うべきムードをしっかり支えている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
どっしり描かれる、アイスランドの清らかな幼年期。それもまた、薄暗い戦雲で覆われていく
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父の流転の決着が、すなわち息子の地獄の始まりって構造も、極めて残酷でよく出来てんだよなぁ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月16日
あらゆる要素がろくでもない未来を指し示す中、船は出ていく。栄光を夢見たものが、水付く屍に変わる平凡な運命が、全てを飲み込んでいく。
次回も楽しみですね。
追記 暴力と無力。相反する天秤を駆け抜けて、答えに既にたどり着いている父。それをはねのけ戦場に赴いて、おそらく運命を捻じ曲げられる息子。因縁は輪廻し、しかし個別の重たさと痛みを持って描かれなければ、真実の表現として刺さることはない。だから、トルフィン少年は地獄を体験する必要があるのだろう。マジヒデェ話(褒め言葉)
ヴィンランド追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月17日
レイフが求めたワイン、トールズが握った刃から漏れた血、キリスト坊主の犠牲と、"赤い液体"が縦糸になって異教世界(過去)とキリスト教世界(未来)を貫通しているのは巧い構造だな、と思う。
そこが行き着くのはキリストの血…犠牲による贖いであろう。
ヴァイキング社会における復讐の重要性を考えると、贖いによって連鎖を断ち切るのは厳しい決断だ。憎悪と復讐の連鎖は延々と続く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月17日
しかし時代の潮流は王権国家とキリスト教によって、ヴァイキングを"ノルマン人"に変えていく。その舳先に立つクヌートがメインにいるのは示唆的だ(まだ登場しないが)
殺して良いものなどいない。血に濡れた過去は、容赦なく現在を見張り復習する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月17日
剣の柄ではなく刃を握り込んだトールズを待つ謀略は、彼に業の支払いを命じる。それは多分彼個人では終わらず、無垢なるトルフィンを同じ道に引き込んでいく。延々と続く修羅道。
そこを断ち切れる可能性は、ダーツの的になった坊主のように無力であり、しかし斧を投げ込んだ暴力だけに身を寄せていれば、同じ場所で延々殺し合うだけだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月17日
ヴィンランド。葡萄の満ち溢れた暖かな場所。人が人でいられる聖なる場所。そこがどこにもないユートピアなのか、泥の果てに掴む未来なのか。
このお話は多分、そういうモノをシビアに問い続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月17日
綺麗な理想だけ吠えていても、暴力は簡単にそれをすり潰す。だが暴力に身を寄せれば、刃は幾らでも血をすする。古くて新しい、人間のジレンマを情け容赦なく問うべく、死体量産行動としての戦闘もクオリティ高く描かれるのだろう。楽しみだ。
僕は自分の脳内ライブラリを参照して、トールズ父さんを『禅僧っぽい』と思ったけども、制作サイドとしては修道士や聖贄たるキリストのイメージなのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年7月17日
オーディンの機嫌で天気が変わる異教世界に、どうキリスト教(を橋頭堡とする王権)が染み込んでいくのか。そこも個人的見どころである