イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツスターズ!:第68話『ヴィーナスアークのこわ~いウワサ!』感想ツイートまとめ

徒然チルドレン:第7話『全部熱のせい/罠 / 聞かせてよ / アドバイス』感想ツイートまとめ

天使の3P!:第6話『ベーシストを連れてくな!』感想ツイートまとめ

プリンセス・プリンシパル:第6話『case18 Rouge Morgue』感想

華々しき大英王国は、スパイと下層民の死体の上に成り立っているアニメ、ドロシーの過去が墓穴から這い出してくる第6話。
Case18と時間が飛びましたが、虐げられる立場のやるせなさ、世界を回す歯車の厳しさと、その一部たるスパイたちの優しさと危うさを切り取る筆は、衰えることなく苛烈でした。
チームの頼れる最年長として、これまでのエピソードでも魅力を振りまいてきたドロシーの過去と因縁を掘ることで、スチームパンク・ロンドンの歪さと残酷、それを正そうとするプリンセスの野望が照らし出されるお話。
ここまで話を引っ張ってきたアンジェに変わり、父親との因縁、スパイらしからぬ優しさを抱えたベアトを相棒に据えたのも、関係性の裾野が広がって非常に良かったと思います。


というわけで、全国二億人のドロシーファンが待ち望んだ個別回ですが、脳天気にキャッキャウフフとは当然ならず、因縁と残酷に満ちたしんどいお話となりました。
第1話で少し触って以来、スチームパンクロンドンの足元にどういう階層がいて、どれだけ厳しい状況で生きているかということにはあまり触れてこなかったわけですが、ロウアークラスからスパイになったドロシーを触る以上、どん底の生活は描かざるを得ない。
むしろメイドに舞踏会、高等女学校に専用列車と、美しく清潔なものが続いたからこそ、今回カメラが掘っていくロンドンのどぶ板は鮮明でもあります。
コントロールとノルマンディー公がスパイゲームを遊ぶ最上層が垂れ流す下水は、全部あそこに流れ込んで淀み、腐敗し、一番弱い人々を蝕んでいる、と。

第1話のエイミーもそうですが、スチームパンクロンドンを支える工業技術は、沢山の労働者の血を啜って成立しています。
ケイバーライト障害によって萎えた足、あるいは蒸気事故によって失われた腕を保障する社会制度はなく、一度道を間違えたら二度と帰ってこれない、ジャングルのような都会。
第2話で見せたクラス社会や、第5話で見せた外国人差別と同じように、今の社会では当たり前(になるよう、作中の時代以降奮戦を経て『当たり前』になった)な『平等』という価値とシステムは、このアニメのロンドンでは機能はおろか、存在すらしていません。
差別するのが『当たり前』、踏みつけるのが『当たり前』……今でも世界の実相はそういうもんかもしれませんが、少なくとも表通りで堂々吠えれば非難はされるし、種々のシステムによって回避(の努力)されてもいるものが、ここではむき出しになっています。

プリンセスが玉座に野望を見せているのは、そういう『当たり前』を壊し、アンジェ(とプリンシパルの仲間、スパイ活動の中で触れ合った数多の犠牲者)を隔てる社会的・階層的障壁をぶち壊すためかもしれません。
作中一番過去と本音を見せていないキャラなので推測の域を出ませんが、どうもアンジェとの個人的な安楽だけで留まるつもりは、ないように思える。
第3話冒頭でアンジェは『私』の領域にとどまり、多大な労苦を必要とするだろう社会改革に背中を向けて、『カサブランカの白い家』で身を縮めて暮らそう、と提案していました。
その提案を断り『あなたと何の後ろめたさもなく歩くことが出来る世界』を求めたプリンセスは、今回もメインテーマの端っこで、ロンドンを蝕む社会病理に眉をひそめる。
『より善い世界』なんて大きなものには目もくれず、ただ個人的な好みで『公平な世界』を望んでいるのかもしれませんが、重なるエピソードの中で幾度も、華やかなるヴィクトリア朝が踏みつける犠牲を描いてきているのは、何か意図があるのかな、とも感じます。

今回の話はロンドン最下層で起きた不幸な事故により、弱い人間の家庭が崩れ、社会がそれを一切顧みなかった後の物語です。
プリンセスが求める『より善い世界』が社会改革を含むとすれば、障害者行政や保険制度、医療制度といったフェールセーフにより、マクビーン家の崩壊はなかったかもしれない。
現実のロンドンでも、作中描かれる『この時代』の後に様々な運動があり、現実の理不尽と残酷の間で軋みながら、それでも世界は実際少しずつ『善くなった』わけです。
スモッグと死体が満ち溢れたロンドンのどん底をメインに据えることで、プリンセスが秘めた理想の光がどんなものかが、少しずつ見えてきた感じもします。
プリンセスが壊すべき壁は、王国と共和国を隔てる物理的なもの以上に、社会制度を停滞させている不可視の障壁なのかもしれんなぁ……。
まぁ彼女の価値観が伏せ札な以上、僕が見たいものを幻視している可能性は常にあるわけですが。

プリンセスの秘めた過去の奥に何があるかはさておき、『当たり前』をぶっ壊して『公平な世界』を望むプリンセスたちの願いは、激しい抵抗が予想される闇の中の灯火でしかありません。
彼女たちが二人きり、スパイの世界では『当たり前』の嘘を引剥して本音を口にするシーンは、眩しい太陽の光ではなく、闇の中で揺らめく灯火に見守られている。
王国を欺き、コントロールを偽りつつ少女たちが育む友情と同じように、プリンセスが願う『公』の変化は、ひどく危うく、しかし闇に負けずに輝く願いなのでしょうね。


そういう『公』の領域への眼差しは、萌え萌え美少女アニメが大概触らない危うい部分であり、この作品の独自性と言えます。
身体的障害の描写もこのアニメ独特で、第1話のケルバーライト障害、ベアトの喉、今回の親父の腕におっさんの足と、『当たり前』の身体からは機能としても外見としても大きく損壊/変質してしまったものが、むき出しで切り取られます。
傷ついた異質な身体を補填してくれる優しさや可塑性は、蒸気に満ちたロンドンのジャングルには存在しないわけです。
ぷにぷにな黒星デザインとは異質な要素ですが、そこにフィルターを掛けないことで必要な緊張感をもたせ、シビアな作品世界に嘘をつかない足場にもなっているので、なかなか強力な使い方だと思います。

ベアトの喉は強力なキャラ記号であり、見ている視聴者は皆、あるいは笑いあるいは真剣に、それに注目せざるを得ない要素です。
先週も十兵衛の魔剣から命を守った、歪なる父親の愛の結晶は、今回ベアトが『絶対に触られてほしくないもの』……変質した性器として描かれることで、ダニーがどれだけ壊れてしまったかを表現する物差しになる。
一番守ってほしかった肉親の手で、強制的に変質させられてしまった身体を、異常なほど無遠慮に踏みつけにするところまで堕ちてしまった父。
あのシーンがあることで、逆にそれでも見捨てきれないドロシーの情の深さ、家族というカルマの濃さが強調されます。

やっぱ『家族(特に男親との)関係)』は作品全体を貫く強力な芯として存在しており、今回のお話もドロシーと父親の物語になりました。
あるいは肉体を機械によって蹂躙され、あるいは己の手で殺し、あるいは殴られ泣かれ謝られる。
マトモな親子関係など望むべきもない女たちが、鳩のように身を寄せ合う宿木としてプリンシパルがあるわけだけども、それがぶら下がっているスパイという巨木は、信頼関係を許してくれるほど甘くはない。
作品最大の伏せ札である『アンジェとプリンセスの過去』『10年前の王国分裂の真実』にも、父親との断絶と愛着……ファーザー・コンプレックスが深く横たわっているんだろうなぁ。

今回のエピソードは職業差別の話でもあって、人生に食い詰めたものは死体を洗うか、死体を作る職業になるしかないという、ロンドンのどん底を二人は歩きます。
モルグとスパイの集会所、デイジーとドロシーが身を置く2つの職場はどっちがマシという話ではなく、どっちらも最悪です。
『死体の歯を抜き取る』という、ちょっとダハウやアウシュビッツを思わせる描写を入れることで、ドロシーが流れ着いた地獄が良く見えるのは面白い。
そこで切り捨てて終わるのではなく、どん底にはどん底なりの誇りや楽しさ、小さな救いがないわけではないとも描いてくるのが、この作品のタフで誠実な部分ですが。

貴族の娘だったベアトが、スパイの運命に流されていなければけして立ち寄るはずもない下層だというのは、なかなか面白い描写ですね。
上層と下層が分裂し、垂れ流すクソを上は一切気づかないまま、グレートロンドンは繁栄を謳歌しているわけだ。
文脈としてはポップなオタク文化よりも、ディケンズの"オリヴァー・トゥイスト"やシンクレアの"ジャングル"、あるいは細井和喜蔵の"女工哀史"に近いエピソードな気もする。

スパイになることでベアトは(そしておそらくプリンセスとアンジェも)『壁』を乗り越え、ドロシーと肩を並べて歩くことになります。
恥辱の象徴でしかない喉の機械も、オヤジの声を真似てドロシーに笑顔を届ける魔法に変わり、パブには明るい声が響く。
その裏でオヤジは物言わぬ死体に変わり、『ストリートを歩くものの半分は帰ってこない』というドロシーの予言は、彼女の知らない所で成就する。
下層民のタフさと明るさを感じさせる曲の使い方といい、皮肉で物悲しいエンドシーンでした。

ベアトは『壁』を越えてドロシーと『本当の友達』になったことを喜ぶけども、クラスが交わったのはスパイという最悪の職業に二人が流されたから。
貴族の娘、あるいはパン屋の看板娘として、お互いの小さな世界で幸せに暮す『当たり前』から飛び出さないことは、けして不幸ではなかったはずです。
それは願っても叶わない幽き夢で、その儚さはベアトとドロシーが微笑みながら共有する絆にも言える。
スパイが嘘をつく職業、人を殺す職業である以上、人間として『当たり前』の情や優しさ、他者を信じ魂を預ける脆さは、命取りの弱点にもなり得る。
幸福と不幸が泥まみれの世界で同居し、その境界線がくるくると入れ替わる儚さ、恐ろしさが、切ない展開の中で強調されていたと思います。
プリンセスが取り戻したいのは、そういう『当たり前』なのかもしれん。


なんともやるせないのは親父の描写も同じで、娘を殴り飛ばすゴミクズでありながら、奇跡の再会を永遠にするべく足掻く輝きも持っている。
金だけを求めるクズだったら生き延びたかもしれないのに、娘への情で欲をかいた結果、斧で頭を真っ二つに割られる悲惨な死を迎える。
優しさとエゴイズム、暴力と庇護、輝く思い出とゴミのような現実が交錯しながら、惨めな赤鼻の小男に集約しているのは、なかなか味わいある生々しさでした。

感情のコントロールを失った(ドロシーの所属組織を考えると、皮肉な表現ですが)父親は、失われた妻の姿を娘に見、頭を抱えて泣きじゃくります。
ドロシー=デイジーは幼い子供であり続けることを許されず、父の横暴を許す妻となり、あるいは子供を抱きかかえる母にならざるを得ない。
10年前の革命ですべてを失ったアンジェ、入れ替わりを強要されたプリンセス、父を不倶戴天の仇敵に定めたちせ、その父の手で機械人間に変えられたベアト。
プリンシパルの構成員は皆、『子供で居続けることを許されなかった』という共通点を持ち、最年長のドロシーが一番、子供が『当たり前』に子供として守られる世界、輝ける幼年期を望んでいたというのは、哀しい皮肉です。
あるいはだからこそ、幼く純真に見えるプリンセスが美しき『白』であることを、嘘と知りつつ願うしかないのか。

殴っては謝り、飲んで正気をなくしてまた殴る。
貧困と家庭内暴力とアルコールが作る地獄の車輪が、もしかしたらちょっといい方向に行くかもな、と思った所で残酷に切り落とす。
ガゼルが投げつけるスパイの現実と、それだけ酷い目にあっても情を切り落とせないドロシー、蒸気ハンマーに腕と夢を潰されても愛を壊しきれないダニーも、エピソードを貫く対比の上にあります。
これでガゼルとドロシーに不倶戴天の因縁が出来たわけだけども、それが表面化する時は確実にドロシーが死ぬので、使われない伏線だといいなぁ、と思います。
このよく考えられたアニメが、アレだけ分かりやすいネタ使わないわけがないんだけども。

親父の人生を壊したアルコールを商うパブが、家族再生の夢を見る揺り籠になるあたりも、ラストシーンの残酷さを強調しています。
プリンシパルで唯一成人しているドロシーは、過去エピソードでもワインを飲んでいるわけですが、それは父の人生を狂わした悪魔の水であり、潰れた腕と未来の痛みを麻痺させた癒やしでもあり、略奪された父を取り戻す幻の源でもあった。
美しい友情、明るい明日、家族再生の甘い夢。
クソ以下の人生を明るく楽しく過ごすのに必要な一炊の夢を孕んでパブは歌い、揺れ、そこに父は帰らない。
Case19以降のドロシーがこの残酷な現実をどう受け入れ、あるいは壊されてしまうのか、心配になる終わり方でした。


というわけで、『当たり前』の夢が一瞬輝き、儚く散っていくドロシーの個別回でした。
死体とスモッグに塗れた都市の最下層を舞台にしているのに、そこで煌めく家族の情愛、仲間との友誼には本物の輝きが宿り、そしてそれは悲しくなるほどに無力です。
綺麗は汚い、汚いは綺麗。
スチームパンクロンドンでもおそらく、朗々と響き渡るだろう"マクベス"の一節を思い出させる、苦味と切なさに満ちたお話でした。

これでプリンシパルの結成と各キャラクターのオリジン、個別回での掘り下げを一応終え、クールも折り返し。
細部にまで気を配った世界構築、『家族』や『嘘』といったキータームを活かしたドラマの作り込み、黒星デザインとのミスマッチまで活用した苦味の強調。
色々強い部分があるアニメが、後半をどう折り返し、加速していくか。
来週もとても楽しみです。

追記

活撃/刀剣乱舞:第7話『第一部隊』感想

気づけばクールも折り返し、歴史を守る付喪神の物語も普段と空気を入れ替えて、番外編の第7話です。
幕末の大敗で傷つき悩む第2部隊のお話は一旦お休みにして、本丸の鬼札・第一部隊がその実力をいかんなく見せつける、永禄八年の将軍怨念始末旅となりました。
メインスタッフもこれまでの座組とは一新、アクションの組み立てから話の作り方、作品内のルールまで全部違う、まさに『第一部隊』のためのお話だったと思います。
『今までと違うからダメ』というわけではなく、第一部隊独自の頼もしさと爽快感、喪失に悩む骨喰くんとそれをフォローする三日月の掛け合いなど、全体的にしっとりと落ち着いた雰囲気が良かったです。
今回見せた別角度からの照射が、第2部隊に主役が戻るだろう今後どう生きてくるか、非常に楽しみですね。


さて、兼さんの青春迷い路は一旦横において、スーパーエリート・第一部隊のミッションを追いかける今回。
先週部隊付のこんのすけの鼻が成層圏まで伸びていたのも『まぁしょうがねぇ』となるほどの実力と余裕で、さらさらとミッションを片付けていました。
新米リーダーと凸凹隊員が必死に頭を捻り、現地の人の思いを汲みつつ、時間遡行軍と一対一で獲るか獲られるかでやってきたここまでのお話とは、全体的に気風が違いましたね。

物語開始と同時に結成された第二部隊に対し、第一部隊は物語が始まる前からミッションをこなし、経験を積んできました。
先週審神者が『ようやく部隊単位で送り込めるようになった』的なことを言っていたので、活撃本丸は少数精鋭のエリート刀剣を送り込み、圧倒的な『個』の力で事件を制圧してきたのかなぁ。
現地民が血を流したり、歴史改変の意味に現在進行系で思い悩んでいる第二部隊の面々に対し、よく言えばクール、悪く言えば冷めた感じで任務をこなしている印象を受けるのも、経験値の違い故でしょう。
彼らが主役として思い悩む時代は、活撃が始まる前に終わってしまっていて、『刀剣男士』の刀剣の部分……歴史守護の主命を果たす器物としての役割を、しっかり飲み込めている印象ですね。

チャンバラの作りも、対戦格闘ゲームから無双系アクションに変わったような印象を受け、全体的に『違う』話なのだなぁ、と思いました。
ここまでの活撃チャンバラは、一対多・複数対複数も描きつつ、あくまで息がかかる距離で地面に足をつけて切り合う、対等の殺し合いでした。
相手を殺すということは殺されることもあるわけで、そこを油断なく、一種の経緯と殺意を込めて、目を見ながら殺す。
非常に人間的な業を背負いながら、泥臭くチャンバラを組み立ててきたことで、新人チームが一歩ずつ成長していくストーリーに体温が宿っていたのだと、僕は思います。
戦闘の果てに血を流し、あるいは命を落とす対等性が時間遡行軍との間にあるからこそ、その緊張感から多くを学べる感じといいますか。

一方今回、『100体くらいいたりして』という軽口が真になり、敵はわんさか生えてきます。
暴力の不足を智謀で補うこともなく、真正面から切り伏せ、投げ飛ばす第一部隊の戦いは、戦いを糧にするというよりは、木っ端を切り飛ばし、華麗に舞うかのような剣戟でした。
特に三日月のジジイは『スーパー刀剣人かよ!』と言いたくなるようなぶっちぎり加減で、空中戦はこなすわエフェクト斬撃はぶち込むわ、別次元の強さでしたね。
あそこまで実力があるなら、新人にトドメを譲って経験を積ませたり、自分が前に出て全て制圧するのを嫌がったりするのも、納得は行く。

というか実際、昔は単騎で事件を制圧せざるを得ない状況が多々あって、ジジイなりに若手とチームで戦うときのポジションを、探っているのでしょう。
そこで昔の単騎スタイルにしがみつくのではなく、『最強にして最古参』の頼れるケツ持ちという居場所を柔軟に見つける辺り、ホントよく出来たジジイだな。
形式上山姥切くんがリーダーだし、周りの実力者もしっかり彼を立てる立ち回りをして入るのだけども、実際の要は三日月がしっかり握っているのが、色んな所から感じられましたね。
最強の敵を屠るのも、骨喰の個人的な物語にエンドマークをつけるのも、三日月がやってるわけで。


活劇の主役はあくまで第二部隊であり、かつて第一部隊が乗り越えただろう悩みや苦戦を切り取る筆は、魂の血潮に溢れた熱いものでした。
しかしそこから距離を取り、第一部隊の強みと冷静さを軸に描いていく今回は、切り取るものがかなり違う。
時空の旅人としてすれ違いつつも、そこから大きな影響を受けてきた現地民との接触は極端に少なく、京都の街はまるでゴーストタウンです。
時空を越えてもなお活きる人間の思いから学び、刀剣男士としての己の道を見定める成長の物語は、今回あまり前に出てはこないのです。

そもそも今回の事件自体がイレギュラーケースでして、時間遡行軍が歴史を変えるために狙ってくる大事件……永禄の変は一ヶ月前にすでに終わってしまっている。
これまで敵役をやってくれた時間遡行軍は、アバンの短い出番で斬り伏せられてしまい、敵になるのは義輝の怨霊と、彼がアンリミテッド刀剣ワークスで生み出す『負の刀剣男士』です。
時間を逆戻りして書き換えるこれまでのスタイルではなく、死してなお現世にしがみつき、怨念を叩きつけて歴史を変えようともがくスタイルは、組織だって動いている時間遡行軍にとってもイレギュラーだったのではないでしょうか。

山姥切以外は足利宝刀だったり源氏の重宝だったり、将軍・足利義輝と縁の深いメンバーが揃っているわけですが、例えば陸奥守が坂本龍馬から受けている、あるいは兼さんが土方歳三から受けている程には、影響は少ない。
『かつての主が道を間違えたなら、僕が正す!』みたいなアツさは前面には出てこないで、結構淡々と過去を語り、事件を掘り下げていく。
思うところはありつつも、個人的な因縁よりも今の主命を優先し、刀の下に心を押し殺すことが出来るのは、数多のミッションをくぐり抜けてきたベテラン故でしょう。
むしろその方向付けのために、因縁の薄い山姥切をリーダーに指名しているのだとしたら、審神者はまさに慧眼ですが。


エピソードの主役とも言える骨喰くんも、アバンで足利義輝に握られた『事件の当事者』なのに、記憶が無いから、事件との距離が遠いです。
史実を反映して、今の『脇差』ではなく『太刀』の形態であったことからも、『義輝愛刀』としての骨喰藤四郎は、今の脇差の刀剣男士にとっては他人……あるいは前世や夢の中のような、曖昧な自己にならざるをえない。
明暦の大火で焼け、再刃されてからの記憶しかないため、『足利御物』としてのアイデンティティを内部化できていない彼は、坂本龍馬のように銃を使いこなし、船を操り、目の前の血に憤る陸奥守、あるいはダンダラを着込んで部隊を率いる重責に立ち向かう兼さんとは、対照的な立場にいる。
エピソードが捕らえるべきテーマとの距離感が、そのまま主人公の描き方に反映されているのは面白く、的確な演出だと思います。

しかし、口数少ない骨喰くんも何も感じないわけではない、というのは、先週薬研くんと語り合うシーンで布石を打たれている所。
己が何者か自身が持てないながらも、審神者の主命を帯びて戦場に立ち、初任務には不安も感じる。
そんな中で、圧倒的に頼れる古参兵に囲まれながら戦場の作法を学び、あるいは同じ立場にいた三日月に問いを投げかけ、答えを見つける。
第二舞台を追いかけたときのような分かり易い熱量ではありませんが、失われた過去の自分、あるいは自己の足場が薄い今の自分を静かに探す骨喰くんの迷い路は、なかなか鋭く描かれていたと思います。
薙刀から太刀、脇差になって焼けて打ち直されてと、骨喰くんの不安定な自我は、刀剣としての遍歴が反映されたものなんだろうなぁ。
主役を張るには線が細い印象もある骨喰くんが走りきれたのは、人格・実力・価値観ともにバランス良く隙がない三日月の強キャラ力あってのものだと思うので、ジジイは偉い。

表現の熱量は違えど共通するものがあるというのは、例えば部隊で食事をするシーンが挿入されていることからもわかります。
大福だの朝飯だの、過剰に『食べる生き物』としての刀剣男子を追いかけてきたこれまでとは違いますが、第一部隊だって温もりを共有し、同じ釜の飯を食う仲間。
人間的感情を激しくうねらせ、その燃料として食事を沢山要求する時代が既に終わっているとしても、彼らが道具的存在であると同時に人間的存在であり、『食べる生き物』であることは大事なわけです。
あそこは『情報の収集と共有、そこからの作戦立案』という第二部隊のスタイルを、短いながらも再演するシーンでもあって、第一部隊との近さを匂わせる場面だったのかな、と思いました。
あそこでも『人の素顔など月の満ち欠けのようなもの。俺の知ってる将軍が、あの男の全てではない』と正解出してるあたり、ほんとジジイは完成されてるな。


死を怨念によって引き伸ばし、結果として歴史を歪めた、辻斬り将軍・義輝。
彼の描き方も結構面白くて、アバンで展開する史実の『永禄の変』では普通に斬り合いしてるのに、怨霊になったら高名な『沢山の宝剣を地面にぶっ刺し斬り合う』という伝説を、再演しとるのですよね。
刀剣男子もまた、鉄の塊としての物質的な歴史だけではなく、様々な謂れや伝説、怨念意念を背負えばこそ人化した存在。
時間遡行軍とはまた別の形で、刀剣男士の影打ちとも言える怨霊・義輝が逸話を武器に変えて立ちふさがったのは、個人的に面白い鏡写しでした。
怨霊になってからは薙刀握ってるのは、骨喰くんの出自を匂わせつつ、フロイスの記述を拾った演出かなぁ。

(僕はゲームに触っていないので、アニメの範囲からの推測ですが)かなりのイレギュラーであるが故、事件のからくりが明言されない今回。
話の基調を素直に受け取るとして、惨殺された怨みで歴史を捻じ曲げると同時に、死地を共にした愛刀に自分を止めて欲しいと願った義輝の怨念払いである今回は、凄く刀剣乱舞的だなぁ、と思いました。
怨霊は過去から、時間遡行軍は未来からという違いはあれど、そこには歴史の宿命を素直に受け止めきれない『こうあって欲しい』という業が詰まっています。
かつての主の影響、あるいは生き死にを割り切れない迷妄含めて、因果の迷いを一刀両断する『精神の刃』こそが、刀剣男子に求められる最も大事な鋭さ。
骨喰の初任務が相当な変化球とはいえ、忘却の彼方にいるかつての主、そこに迷う自分自身を断ち切る一撃で終わったのは、なかなか良かったです。

しかし一つ思い悩むところがあって、蜻蛉切さんが命をかけてぶっ倒した大太刀が、ライダーの再生怪人もビックリの気安さでなぎ倒されていたのは、どう受け止めればいいやら。
『第一部隊はマジ超人集団なので、アレくらいは余裕』とか、『幕末で戦った大太刀がスーパースペシャルな相手で、あいつ相手は第一部隊でも苦戦する』とか、色々補足は効くんだけどね……素直に受け取ると、ちょっと引っかかる部分だ正直。
まー第一部隊には第一部隊の、第二部隊には第二部隊の物語があり、戦い方があるってのは今回ハッキリ見えたところなので、ある程度切り分けて見るのが良いかな。
いや蜻蛉切さんマジつえーから……優しさと強さを兼ね備えた超常の愛戦士(ラヴウォリアー)だから……バカにする奴は全員ぶん殴る!!(見えない敵と戦うマン)


というわけで、これまで第二部隊が歩いてきた道とはかなり違う、クールで遠い時間旅行でした。
今回描かれた冷たさも刀剣男士の一面だと思うし、これまで描かれた熱は形を変え、伏流としてエピソードを温めてもいた。
第一部隊という『別の部隊』を主役に据えることで、刀剣男士の、そして活撃という作品の横幅を広げていく、なかなか面白いお話だったと思います。

さて変化球が効いてくるのは、直球が早いからっつーわけで、今回投げた変わり玉をどう活かすか、次回が楽しみです。
今週も大活躍だったジジイに相談を受けてもらった兼さんは、ツンデレ陸奥守や部隊の仲間、自分の中の迷いと理想に、どう向かい合うのか。
話が本流に戻る来週、どういう熱量と間合いで話を進めていくのか、期待が高まりますね。