忘却バッテリー 第6話を見る。
クール折り返しにして青春スポ根本番開始、藤堂葵心の旅路前編ッ! である。
スゲーぶっちゃけた話をすると、”ここ”で作品としてのイグニッションがかかるかなり遅咲きのお話だと思っているので、非常に力が入った演出で仕上げてくれて嬉しかった。
小手指のネームドは皆、野球に傷つけられ野球に呪われ、でも野球をやるしかない運命に引きずり回された挙げ句、野球で救われ…また野球に呪われ直す。
そんな祝福と呪詛のつづら折り、最初の一歩を切開していくのがこの藤堂くんのシリアスであり、ファーストストライクがバッチリ真ん中に入る、とても強いエピソードだ。
俺様ボーイの柔らかい傷だらけに踏み込む前に、千早先生のパーフェクト野球教室で一笑い。
マジお猿なまんまで、自分なり”野球”知ろうとしてる圭ちゃんが可愛らしいやら面白いやらで、後にずっしり来るお話のアペリティフとして大変良かった。
やっぱ、宮野さんはつくづくすげーわな…。
後の回想にも響いてくる、スーパー野球マシーン”智将”要圭の変わり果てた姿が、一周回って『あ…なんだかんだ藤堂くん、野球仲間とバカやれてる”今”かなり気に入ってんだな…』と理解らせてくるの、緩急ついてていいピッチングだと思う。
バカはバカなりに、極めて本気だ。
だからこそ、ずっと黙ってたイップスも切り出した。
ワンプレーで全てがぶっ壊れる地獄の先、もう一度野球を本気でやれる…やろうと思える奇跡に出会ったからこそ、藤堂くんは今でも色んなモノが怖い。
怖かったけど、圭ちゃんの心に刻まれた捕球への恐怖が消えるように手を貸し、それが治ったことは心底喜び、負けて謝り楽になろうとする選択を、厳しい言葉でせき止めた。
そんな事しても、出口なんか見えないことを身に沁みて理解っていたからだ。
ここにたどり着いてみると、アニメでの藤堂くんの描き方がかなり精妙に伏線を張り、血をにじませてる傷跡をしっかり画面に写していたのだと、理解っても来る。
ここら辺、原作者がガッツリ、アニメ用ネーム出してる強さかもなぁ…。
圭ちゃんがアタマ真っ白チンパンジーに退化してしまったので、小手指の”智将”は現状千早くんである。
圭ちゃんだけでなく、読者の野球リテラシーも上げる野球教室の描写は、彼も白面の奥で熱く、二度目の”野球”に魂入れている様子を伝える。
(あとロボット人間清峰葉流火が、圭ちゃんにだけは人間の柔らかい部分を気遣る様も)
意地と性格が悪いクールボーイを相棒に、後悔と痛みを渇望を引きずりながらたどり着いた、未来への岐路。
ここでもう一度、野球やるのかやらんのか。
サブタイトルにあるように、藤堂葵は『やる!!』を選んでしまった。
それ故の地獄も天国も、過去の迷妄と哀しいほどに地続きだ。
というわけで、今日も今日とて美術がいいアニメである。
複雑な色合いで変遷する背景は、藤堂くんが巡った”野球”の地獄を雄弁に語る。
後の災厄を予見するように美しい紫の雲から、ズタズタにぶっ壊されての灰色の空、世界のどん底の真っ黒をヌケて、もう一度出会ってしまった光。
阿座上さんのいい声をたっぷり浴びながら、彼の心理が強く反射された世界を、僕らも一緒に旅していく。
大変に辛いが、その千倍藤堂くんは辛いのだと良く分かる描き方をしてくれて、大変良かった。
野球教室だとギャグ要素だった、藤堂姉妹の当たり前な優しさ、可愛さが後半”貌”変えるの、やっぱ良いわな。
怪物バッテリーとの対決は、無敵な俺様像にヒビ入れたかもしれないが、藤堂くんが”野球”に呪われるのは自分のたったワンプレー…それがぶっ壊した(と思い込んでる)先輩たちの未来だ。
チーム一丸となって、全ての時間をそこに注ぎ込むからこそ絆は深まり、一つの勝敗、一つのミスで全部が潰れる衝撃も大きい。
藤堂くんがあのエラーで、自分と”野球”をぶっ壊すくらいに衝撃を受けたのは、彼が先輩たちとやる野球が大好きで、それに全部を捧げていいくらい本気で…つまり、いいヤツだったからだ。
いかつい金髪も俺様な態度も、柔らかく傷ついた心を守るための分厚い殻だったと、ヤンキー球児のミステリがほぐれていく展開。
つーか格の違う強さにぶった切られて、プライド折られて圭ちゃん達を恨むどころか、再開した時に地獄を越える光として眩しく見上げてるの、藤堂くん野球好き過ぎライバルリスペクトし過ぎで、まーた好きになっちまう。
自分を負かした相手ではなく、負けた自分、先輩の未来を奪った(と思いこんでる)自分こそが傷になるのは、公平な責任感の裏側だからなぁ…。
そういう子がドヤンキーになっちゃうくらい、ワンプレーが重い”野球”の呪いもまた、ワンプレーが奇跡になる祈りの裏返しではあって。
ここら辺の明暗禍福が同居している複雑なコクが、前に出てくるのもこのエピソードからなんよね…。
野球で壊れたんだから、野球で治るしかないこの状況で、藤堂くんを導けるはずの大人は極めて冷たい。
球児をスコア製造装置としてしか見ていないこの冷たさは、藤堂くんをチームメイトとして受け止めてくれる小手指…あるいは受け止めてくれていた先輩たちの温もりをより強め、あるいはそういう残酷がザラにある”野球”の顔を、生っぽく削り出していく。
ワンプレーで心と未来が壊れることも、それでもなおぶっ倒れるまで走り込んじゃうことも、殴って暴れて荒くれてなお、もう一度”野球”に出会ってしまうことも、苛立ちと後悔を引きちぎって『やる!!』と叫んでしまうことも、全部ひっくるめて”野球”だ。
どっかナメてるパイ毛ムードが、帝徳にボッコにされ圭ちゃんが本気になり抜けてきた所で、暴かれる”野球”の二面性。
人生をすり潰すほど凶悪な祝福で、ゲロ吐きそうなほど美しい呪詛でもあるからこそ、色んな人を引き付けるキング・オブ・スポーツを、このお話がどう描くつもりなのか。
重苦しく痛ましい長尺でもって、藤堂くんが秘していた個人史が暴かれていく今回は、そこん所を初めて(あるいはようやく)告げていく。
やっぱそういう風に、『自分、こういう話っす。よろしく』と、作品がガッチリ手を伸ばしてくれる瞬間が俺は好きだから、この話数をずっと待っていた。
”忘却バッテリー”、まぁこういう話っす。
MAPPA謹製のヤンキーアクションが、異常な冴えを見せつつ痛ましい、藤堂くんの悲しい暴走。
”野球”やりたいけどやれない、やっちゃいけない辛さに身悶えする彼を、蓮っ葉に見えたお姉さんが優しく見守ってくれているのが、闇の中の微かな光だった。
いかにもサービス要員ッ面で出てきた下着のオネーチャンが、あまりにも”人間”であることを思い知られる話運び、ズルくて好きだ…。
藤堂家のあんま豊かとは言えない生活を、解像度上げて描いてくれたおかげで、限定ラーメンが暴力の嵐に置いてけぼり、虚しく伸びていく寂しさも際立った。
私室の畳の毟れ方とか、背景に喋らせる詩情の巧さが、緩急激しい作風と合ってる印象。
かくして真っ直ぐな野球純情をワンプレーが捻じ曲げ、行き着くべき闇の底へ至ってなお、運命は彼を”野球”へ押し流していく。
第2話では『ああ、天才様たちが偶然出会うのね。あるある…』と、どっかで流していたあの出会いが、引き連れるような痛みと燃え盛るような激情を込めた『やる!!』だったと、6話目にして暴かれるミステリの作り方は、やっぱ好きだな…。
ナメてた相手に顔面叩かれる程、効くパンチはない。
ヘラヘラ野球コメディやってるように思えた奴らは、全員傷だらけの獣で、それぞれの人生と痛みを背負ってなお、ヘラヘラ笑いながらなんとか”野球”しようと、足掻いてきたバカだった。
”人間”だった。
そういう腰の入った衝撃で、”忘却バッテリー”が改めて挨拶をしてくる回なので、それに相応しい火力で暴れてくれて大満足でした。
そういう”匂い”は醸し出してたけども、ガッチリハラワタの奥まで切開して辛さと本気を絞り出すエピソードはここが初なわけで、それが藤堂くんで良かったなと、改めて思います。
あんだけキツい目にあって、それでもなお”野球”しようとする勇気、”野球”やってる仲間に優しく厳しく接する強さ。
藤堂葵…好きだ。
暗く長い苦難の最後に、出会ってしまった最悪のライバルは、眩しい光に思えた。
その先に、何があるのか。
次回、多分俺は泣く。原作でも泣いたし。
とても楽しみです。