イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

芸術と貨幣

マーク・シェル、みすず書房。タイトル通り、芸術の中の貨幣を扱った美術論。強力な本である。芸術の価格、という価値論的視点ではなく、芸術の中に置ける貨幣価値、という意味論的視点にしっかりと根を張り、さまざまな時代、さまざまな方法、さまざまな領域から「貨幣」というテーマを追いかけ続ける。
その横幅の広さを支えているのは、図象学、精神分析、文献学、言語解析などなど、さまざまな分析手法というカタナを自在に使いこなす博識である。そして、その分析の深さを支えているのは、キリスト教美術や、キリスト教を背骨に抱く西洋社会への深い理解という、美学者としいての根本の強さである。
広く、深く。これを実現し、なおかつ大量の図版と適切な言語選択によって可読性まで獲得しているこの本の実力は凄まじいの一言に尽きる。個人的に気に入っているのは、テクスト論的言葉遊び=/分析を多用している点である。僕自身の立脚点の一つであるので、やはり嬉しい。
幅広い対象を、幅広い手法で扱いながら、「貨幣」という一つのテーマをしっかりと背骨に吸えることで論に迷いがなく、深い洞察を成し遂げている。再三言うが、出来ることではない。名著。