イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジェンダー

イヴァン・イリイチ岩波書店。サブタイトルは「女と男の世界」 女性の経済的圧制の歴史を追いかけた本。強力を通り越し、激烈な本である。まず記述形式が奇矯である。本文三ページに対し、注釈が三十ページに渡ることはざらであり、そこで提示されている思考・分析・論議が非常に重要な意味を含むという形式。
参考文献およそ三百にも及ぶこの膨大な注釈はしかし、作者からの挑発である。ジェンダーという政治的かつ闘争的な問題を語るに置いて、作者は読者に平穏な場所に居座ることを許さない。本文の中で論じられる論題、注釈の中で提示される疑問、それらは全て、作者からのスキャンダラスな挑発、挑戦として叩きつけられる。読み飛ばすことが出来ないほど膨大な注釈はつまり、そのような戦闘方法なのだ。
そのような奇策を取りながらも、やはりこの本の論議の背骨を支えているのは強烈な博識と、参考資料への驚異的な読みである。つまりは西洋智の正当であり、論述のちからなのだ。歴史を丁寧に解析し、資料を読み込み、分析し、論じる。その基本的なちからこそが、この本の土台なのだ。
ジェンダーの問題はその端緒からして闘争の歴史であり、政治的な問題であり、つまりは党派的・多数派的な問題になりがちである。しかし作者は、強烈な知性と高潔な意志を持って、党派から孤立する。性差別主義者も、性機能主義者も、性独立主義者も、全てに対してスキャンダラスな挑戦を叩きつける。
それは、やはり困難な業務なのである。あとがきを見るに、この本は相当な議論と批判を呼び起こしたようだ。先に述べたようなジェンダーという学問領域の特殊性を鑑みれば、それも無理はないと思う。だが、いつだって挑発と挑戦こそが、混沌としたひどい有様を解析し、分析し、そして是正する力になってきたと僕は思う。だから、このスキャンダラスな、1982年という二周りも前に発行された本は傑作なのだ。