イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

雨がやんだら

椎名誠新潮文庫。SF小説家、椎名誠大槻ケンヂと並んで、冴え渡るセンスと叙情性をSFというジャンルに持ち込んだことにおいて、高評価されるべきだと思っている、僕の大好きな作家である。最近は冒険家、椎名誠がクローズアップされてしまい、SF小説家としての椎名誠の作品はさっぱり読めず悲しい。
この短編集の白眉はやはり、タイトルにもなっている「雨がやんだら」であろう。椎名SFの特徴である、静かに、何の説明もなく狂っている世界観。そんな中で、けなげに、静かに破滅へと向かう少女の日記。そこには叙情性がある。柔らかな感情の流れを生み出すものが、確かにあるのだ。
そうしてぐるぐると回りながら、男はたくさんの涙を南の風の中に流し続けた。
この文を持って完結する「雨がやんだら」は、雨がやみ、水に沈んだ世界(長編「水域」と世界を共有する)の物語であり、その、「終わった世界」には来ることができなかった少女の言葉の物語である。幾度でも言おう。その物語には、叙情性がある。SF作家椎名誠にしか掬い得ない、外れて狂ってずれ込んだ柔らかい言葉に満ち溢れているのだ。
他の作品も椎名誠らしい奇想に満ち溢れ、とても面白い。だが、狂った世界の中でこそ静かに輝く、真っ赤な血を流すやわらかい心は、「雨がやんだら」と最初の一作「いそしぎ」に凝縮されている。やはり、椎名誠はSF市場に輝く作家なのだ、という確信を深く深くした。