イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

エディプス・コンプレックス論争

妙木弘之、講談社選書メチエフロイトの提唱したエディプス・コンプレックス概念と、それをめぐる弟子たちの対応に関する本。巧妙な本である。精神分析学の発展と、エディプス・コンプレックス概念の変化発展を機軸に、フロイトという非常に強力な「父」に反発・反抗・離反していった弟「子」−アドラーユング、ランク、ラカン−や女性−アンナ・フロイト、クライン−たちとの関係を、実際の精神分析や、精神分析学会内部の政治学と絡めながら語っている。
エディプス・コンプレックスという問題を、フロイトという父と息子/娘との関係性の枠の中で/を使って語る、という視点は、精神部席学士問いs手も、また、エディプス・コンプレックス概念の発展史としても、非常に巧妙で、かつ面白い。豊かな学識と鋭い見識が相まって、非常に強烈、かつぐいぐいと読まされる強力な力に満ちている。
選書という限られた紙幅であるが、論の運びに妥協はないし、言説の誠実さは清廉な印象すら受ける。そして、フロイトから始まり、さまざまな対立を経てきた精神分析学会のスキャンダルは、他でもない精神分析学の方法によって解体され、読者にさまざまな問いを投げかけてくる形になっている。それは答えではなく、さまざまな可能性の提示と、エディプス・コンプレックスの普遍性の提案だ。野太く腰の据わった文章と、題材の選び方の巧みさ、そして、言説としての鋭さ、精密さにより、それらの投げかけは、確かに読者に届く鋭いものになっていると思う。名著。