イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

起証文の精神史

佐藤弘夫講談社選書メチエ。中世(11世紀〜15世紀)日本において、神仏に祈願した証文である起証文の解析を経て、中世日本の心的地図を描いていく本。サブタイトルは「中世世界の神と仏」
徹底した原資料読解を機軸に、かなり野心的な発送が展開される。かといって論の運びに大きな破綻はなく、むしろ丁寧な筆には好感が持てる。一つ一つの記述を丁寧に読み込み、そこに秘められた意味を発展的に展開していく筆致には心踊らされた。特に本地垂迹説の大胆な解釈はかなりの衝撃であり、日本思想史に興味があるのであれば眼を当しておくべきだと思われる。
しかし難点がないわけではなく、筆者の反論拠となるような事象が一切触れられていないことが最大のウィークポイントといえる。革新的な論説を重ねるのであれば、時節に有利な論拠だけではなく、従来の論説の反駁なり、一見自説と反するような資料の読解なり、マイナスをプラスに変換する読みが必要不可欠ではないだろうか。
とはいうものの、内容自体は非常に興味深いし、可読性も高い。プラスの資料読解に関してはごまかしも少ないように感じたし、何より中性の豊穣な側面を新たに見せ付けられる衝撃はなかなか味わえるものではない。良著である。