イマワノキワ

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論争の中の心理学

アンディ・ベル、新曜社新曜社の心理学入門書、「心理学エレメンタルズ」の中の一冊。ワントピックを掘り下げるシリーズらしく、この本のメインテーマは行動主義と還元主義への批判的分析、ならびに心理学における意志と心の受容/拒絶史、といったところだろうか。サブタイトルは「どこまで科学たりうるのか」
心理学が扱う心と、科学であろうとする心理学の間の乖離と、それに伴う各主義の毀誉褒貶を追いかけた本である。各章ごとにトピックが選び出され、語られる形式であるが、各章のテーマは「心理学における行動主義」というメインテーマで纏まっており、関連が深い。この形式をとることで、各章ごとに目的を絞ることで深い分析を行いつつ、各章を連動させることで統一性と可読性を確保させている。
この本において、筆者は19世紀、科学万能主義の時代において、科学であろうとして人文学から生まれでた心理学。それがたどった(たどっている)科学であろう、客観的であろう、というスタンスのほころびを丁寧に突いている。それでいてなお、行動主義を頂点とする記述的心理学のアプローチの成しえたこと、可能性も十全に評価している。
どっちつかずの日和見主義だ、というのは簡単だが、1950年以降特に大きな勢力をなした行動主義の盲点と問題点を指摘し、かつその参与を認めるスタンスは、一つのことを可能にしている。それは、自由意志問題や心脳問題といった、行動主義がおいてきてしまった問題に立ち戻り、それら数値化できず、主観的で、状況によって変わりえる事柄に深い関心を抱くことだ。
学問領域は常に政治的な身振りを伴う。この行動主義批判もまた、心理学の新しい潮流という政治的身振りの一つだ。だが同時に、行動主義が置いてきぼりにしたもの、そして行動主義が確立できたものは存在する。学究の書として細密な分析をもち、かつひどく偏向した視座を織り交ぜた本でもある。ともあれ、行動主義心理学への一批判としてなかなか良くできていると思う。良著。