イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

子ども兵の戦争

P・W・シンガー、NHK出版。「戦争請負会社」でPMCの状況を鋭くえぐったシンガーのルポタージュ。取材対象は世界中の紛争地域で兵士として使われる6歳(もっと下のこともある)から18歳の少年少女。
統計データの正確な出所が不明瞭。段落頭で挿入され、書体を変えて「祭り上げ」られた少年(少女)兵証言の提出法が、装飾的であることを通り越してソープオペラ的ですらある。解決策の提出が楽観的過ぎる発想に支えられている。あまた、気になるところのある書物だ。扱っていることは陰惨だし、語り口もそれを隠そうとはしていない。
それでも、読むべき本である。方法論的な問題はそこまで大きくないように、僕には思える。たしかに兵士証言のあまりに映画的な使い方は問題があると思うし、具体的な数字を大量に出すのはいいが、その大元が明瞭ではないので、統計の魔力で飲み込もうとしている印象はぬぐえない。だがそこをさておくとしても、いくつかこの本には希少な点がある。
一つには多数の取材対象に当たり、実際の戦争において、いかにして少年少女兵士が「使用」されるか、その利点は何か、その原因は何かを丁寧に分析・記述していることである。戦争行為は子どもを排除してきたし、戦場において「そういう生き物」はいてはならない、という固定観念は、たしかに子どもがAKを握って人を殺している、という現実の前に吹き飛ぶ。筆者は倫理・道徳的な位置に立ちながらも、自分の位置がいかに実効性が「ない」のかを理解しているし、子どもがいかにして兵士になるか、させられるかという過程と、何よりもその最中、その後から視点をずらすことがない。
この、人道主義の無力さを知ってなお、書くという粘り腰の姿勢。それがこの本の二つ目のレアリティである。この本に書かれていることは陰惨で、悲惨で、沈鬱で、とにかく気が滅入ることばかりだ。しかも、フィリピン、ペルー、コンゴ、リベリアイラクミャンマーイスラエル……。世界中の紛争地帯で冷戦終結後急増している、ひどく量的な事象だ。
そのことそれ自体、事態は陰惨で悲惨であることを、筆者は冷静に、しかし鋭い筆の力を用いて丁寧に書いていく。それが起こっているということ。それがあるということに立脚し、徹底的に事態の側面を掘り起こしていく。その姿勢は正しくルポタージュであるし、その上で事態解決法の提案に一章を裂いているのは、たとえそれが人間への楽観的過ぎるように見える信頼に支えられていても、誠実な姿勢だと思う。
この本は不愉快だ。「戦争請負会社」は軍事状況の変化を追いかけたミリタリー知識として使用することも出来たが、この本は出来そうもない。そういう、内側にじわじわと起こってくる不愉快さがある。だがその不愉快さは、この本の語り口にでも、まして筆者にでもなく、この本が取り扱う子ども兵士の問題それ自体が持っている不愉快さなのだと思う。それを切り取ってくる筆の力と筆者の姿勢は、やはり稀有なものなのだ。傑作。