イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

魔都 上海

劉健輝、講談社選書メチエ。サブタイトルは『日本知識人の「近代」体験』 1840年から1930年にかけての、上海と西洋列強、上海と日本、日本と西洋列強の関係に関する本。
漢訳西本の一大輸入地点であり、幕府主導の洋行の中継点として幕末の留学生たちが一番最初に触れる「西洋」であった上海と、明治二本が成立し、国民国家として強固な形を従えるに伴い「魔都」として注目を集めた上海を、1870年を転回点に良く纏めてある書物である。江戸期の西洋知識がいかにして上海を足がかりに入ってきたかを丁寧に記述する前半はなかなか珍しい視点から上海を述べた文章で、中国と日本、そして西洋列強の関係がよく見える。
後半は主に文人の目を通じて記述された上海について述べており、谷崎潤一郎芥川龍之介、村松硝風、金子光晴など上海にさまざまな記述を残した文学者の、上海に関する幅の広いスタンスが興味深い。明治期以前の「西洋文明の窓」としての上海と、ツーリズムによって観られ、消費される観光地となった大正期の上海の対比はなかなかに面白かった。
手堅くまとまった記述と、幕末期の記述という新規な視座によりなかなか味わい深い内容となっている。写真も多く、文章も可読性が高い。良著。