イマワノキワ

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グノーシス 異端と近代

大貫隆他、岩波書店グノーシス神秘主義、文学、近現代思想、現代の四つのテーマでまとめられた選集。
グノーシスといえば消費されるオカルトの最たるものであり、なんとはなしに雰囲気のあるタームである。その曖昧さは選集という全体の舵取りが難しい形態の中でもしっかりと問題視され、オカルトを取り扱った書物にありがちな類似と合同の同一視や、類推の上に類推を重ねる無根拠を追い出している。筆者が十名を越える大型の選集でここまで統一した意思を出せたのは評価に値する。
横幅の広い論集であるので、「グノーシスとα」というタイトルの論文が多い。α(それはたとえば禅宗であったりゲーテであったりする)とグノーシスはこのような共通点がある、という記述ではなく、差異に注目し、グノーシス主義という丁寧な定義のないテーマの危うさに留意した記述は、こと期待と観測、憶測と分析の区別がつきにくいジャンルのなかで丁寧な論を運ぶことに成功させている。
これがグノーシス主義はとても新しいもので、何か珍しく、勝ちのあることなのだ、という結論が先にある記述ならば、類似点を掘り下げ、さまざまなものにグノーシス主義の結論を下すことになるだろう。だが、たとえば禅宗という差異点があからさまな問題はもちろんのことながら、ユングやシュタイナーといったあからさまにグノーシスに近接したテーマにおいても、たとえば神智学や教会史学、近代エステリズムなどの諸学から視点を取り、差異を掘り下げていく。
1論文あたり10ページ前後の選集なので、そこまでの厚みはない。むしろさまざまなテーマを幅広くとった構成の中で、グノーシス主義に多角的な光を当てることを主眼にしているように思える。そして、安易な類似ではなく困難な差異をこそ見つめる筆致により、逆にグノーシス主義がヨーロッパの中で与えた影響の幅広さや、神秘主義全体での大きさを感じることが出来る。良著。