イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

共感覚

ジョン・ハリソン、新曜社。知覚領域が共有されてしまう現象−例えば特定の単語を色として感覚するなど−「共感覚」についての一般入門書。
心理学の成立当時に良く取り上げられが、行動主義が主流になるにつれ一度は廃棄されたテーマ、共感覚に関する本である。心理学の歴史、発展史から、心理学研究のさまざまな方法、脳生理学、神経化学などなど、さまざまな領域ごとに章立てを行い、丁寧な記述を試みている。語りかけるような柔らかい和訳がなかなか入り込みやすく、入門書という体裁とマッチしている。
共感覚という縦糸と、それにまつわるさまざまな学問領域、そしてなかなか面白くは読めない(ことの多い)心理学がいかにして自説を支持し、補強するのか、という横糸が良く絡み合っている。特に心理学においてPETやMRIなど、脳を検査する手法の発展が、いったんは捨てられ、「ロマン派の神経学」とまで言われた共感覚を主題とすることを可能にしたか、というなかなか取り上げられない主題は非常に興味深い。
飲み込みやすい文体ながらも、遺伝学や脳神経学などを的確に調査し、共感覚という領域を掘り下げる手法は非常に鋭い。断言を避け仮説を提示するにとどめた終わり方も、心身問題まで絡んでくる共感覚というテーマを取り扱っている以上、むしろ慎重というべきだろう。
読みやすい語り口と構成、それでいてしっかりとした研究基盤に基づいた科学的記述と、ライトサイエンスのお手本のようなしっかりした本である。良著。