イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

反西洋思想

イアン・ブルマ&アヴィシャイ・マルガリート、新潮社。さまざまな場所で発生している反西洋主義(オクシデンタリズム)をその起源や現在のあり方など、横幅の広い視点から書いた新書。
何しろ非常に二千六年末的な話題なので、それだけで興味を引く本だといえる。括弧つきの「文明の衝突」が現実の爆弾を利用して起こっている(といわれる)現在二千六年、主にイスラムで表面化している(ように思われる)反西洋主義は相当に興味深い題材だし、新書特有のとっつきやすさもある。
だがそのとっつきやすさ、食べやすさは省略と戯画化に大きくよっていることは指摘しておかなければならないだろう。議論や資料の用法には少々大雑把なところが見えるし、論理の展開も所々粗がある。大きくざっぱりと切り捨ているがいいが、切り捨てたものを切り捨ててよかったのか、という反省の色は正直なところ薄い。
だがその大きな切り取り方が可読性につながっているのも事実だし、反西洋主義は西洋を基点にして生まれ、西洋の広がりとともに反発として加速していく、という主張はその大仰な切り口を可能にする鋭さも持っているように思える。ドイツロマン主義からキリル主義、そこから民族主義へと広がる思想史の展開はなかなかに考えさせられる物がある。
いろいろと偏向も見えるし、何度もいうように荒っぽく切り捨てている部分はたくさんある。だがそれゆえに読みやすいし、主張の根幹に強い背骨があるもの事実だ。歪みと大雑把な切り口への注意を忘れずに、丁寧に読むとなかなかに面白い本だと感じた。良著。