イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

IBMとホロコースト

エドウィン・ブラック、柏書房。ナチによって行われた大量虐殺に、IBMの提供したパンチカード情報処理技術(ソリューションというべきだろうか?)が重要な関与を成していたことに関する本。日本語サブタイトルは「ナチスと手を結んだ大企業」英語サブタイトルは「The strategic alliance between Nazi germany and America's most powerful corporation」
なんとも難しい本である。眉間にしわを寄せながら二段組450ページを読んだわけだが、その理由は何もショアという行為にまつわる不快感だけではなく、本全体を貫く隠し立てする期すらないイデオロギー臭にもある。
この本の言語選択は確実にイデオロギーの方法論で行われている。散見する「言うまでもなく」「議論の余地なく」といった論を強化する語の使用、「虐殺」「想像も付かないような蛮行」といったショッキングな言葉の乱用、ナチズムの非人間性に対する自明性を確信した言動。ショアは確かにどうしようもなく凄まじい事態で、たくさん人は死んだがそれと特定方向に意見を強制する言葉の使い方とは話が別である。
なのだが、こと資料の発掘の量に関しては非常に丁寧なのである。IBMの社内報、法令、商文書、新聞などなど、さまざまな資料を掘り下げて米国とナチスIBM本社、IBMドイツ代理店であり積極的にナチスに協力した(とされる)デマホクの協力と対立を書いている。前述した偏向により資料が都合よく使われている可能性は否定できないが、それにしてもとにかく膨大な量である。
そのマスな記述を彫って見えてくるのは、戦時下において驚異的な戦術力で資本主義を泳ぐIBMの経済的アクロバットと、それに待ったをかけるナチスドイツとアメリカ司法当局の動きである。ホロコースト描写になるととたんに特定領域にクローズアップされる筆が、この領域では公文書を追いかけ、法令を説明し、根回しを記述し、とにもかくにも丁寧になる。
「国際企業インターナショナル・ビジネス・マシーンズと第二次大戦」という文脈においては(ある程度以上の)妥当性と透明性を有しているように思われる本書だが、前述したようにイデオロギー的な偏向は否めない。例えばドイツ軍によって虐殺されたユダヤ人以外の人種に対する言及はないし、IBMが連合軍とどう関わっていたのか、例えばドレスデン空爆とどう関わっていたかなどの側面からかかれる章はないのだ。
では、いかにもな政治パンフレットの類なのか、といえばとにかく掘っている資料の量が尋常ではない。たとえそこに偏向があったにせよ(そしておそらく確実にあるだろうにせよ)、その総量と深度にはある程度の説得力が宿るし、じりじりとした調査に手間がかかっているのは事実だ。だから、どうにもこの本は難しい本だと思う。個人的に、多国籍企業がいかにして稼ぐか、の具体例としてみるのがいいのではないかと思った。