イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

犬はどこだ

米澤穂信東京創元社ジュブナイルとミステリ、両方の武器を自在に操る稀有な作家、米澤穂信。なんでもない日常のなんでもない事件を輝かせる手腕においては当代有数の腕を持っている作家だが、今回はその両方を封じて勝負、という作品である。登場人物は青年期ではなく、アトピーで会社を辞め田舎にひっこんだ25歳。相方は探偵に過剰な期待を抱くフリーター。いつもの穂信とはちと違う。
だがここでも、日常の風景を切り取り、丁寧に話を積み上げる作者の技量は生きる。犬を探して暮らしたい、と願う主人公の下にやってきた失踪人探索の依頼と、その主人公から古文書解読の仕事を回された相方。ひどくどうでもいい内容なのだが、描写が丁寧なのでとにかく読ませる。そしてそのどうでもいい二本の話が非常に丁寧に絡み合い、今までの米澤穂信にはない、凄みすら持ったラストへとつながっていく。この完成された構成は見事の一言であり、とにかく巧い。九割いつもの穂信節で安心安心、と思わせておきながら、最後の最後で新境地を素晴らしい鮮やかさで提出してくる。とにかく瑞々しい小説である。