イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

水辺で起きた大進化

カール・ジンマー、早川書房。タイトルどおり、水中から陸上、陸上から海中への進化を扱った古生物学の本。主に魚類→両生類の進化と、古哺乳類→鯨の進化に焦点を当てている。
進化に主眼を置いた書物であるが、それを検証するためにさまざまな手段を使用している。主に焦点が当たるのは古生物学だが、解剖学や博物学、分子進化学、分子発生生物学などの領域にも言及が及んでいる。たとえば鰭と手の共通点と差異、哺乳動物が水中で生活する際のさまざまな問題点を、以下に解決しているかなどなど、具体的な例が多数出ているのは非常に頼もしい。
各学問の歴史にも丁寧に触れており、学説の発展をたどる助けになる。僕は子供のころ図鑑が大好きで、この本で紹介されている生物にも名前を聞いたことがあるものが何体かいた。10年以上前にみた知識で止まっていたその生物達は、新たな化石の発見や精密な骨格調査、DNAマッピングなど最新の研究により、根底からその姿を変えていたわけである。
古生物学はけして確立した学問ではなく、DNA解析などの「新しい」手段と化石発掘などの「古い」手段を両方使用して、この十年ほどさまざまな新発見があった。子供のころ抱えて読んだ図鑑の知識を遥かに超える詳細な説明がこの本には満載されており、古生物学が(他の学問領域と同じく)停滞した学問ではないことを教えてくれた。
水生哺乳類である鯨の驚くべき特徴と「なぜそうなったか」を解き明かす進化研究。丁寧な取材に基づいた最前線の学者たちへのインタビュー。上記のような思い出がなくても、このように興味深い題材を丁寧な筆致で捉えているこの本は、非常に面白い。キュヴィエ以来の進化論の推移も丁寧に追いかけられており、横幅の広さとしっかりした土台が両立した良著である。