イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

健康の神秘

ハンス=ゲオルク・ガダマー、法政大学出版局。解釈学の泰斗、ガダマー最晩年の論文・講演をまとめたもの。サブタイトルは「人間存在の根源現象としての解釈学的考察」 主に科学、医学、生命といったテーマについての文章である。
一章一章は短くまとまっており、重厚な思想や考察が展開されているわけではない。が、ガダマーの背骨であるギリシア哲学と近現代ドイツ哲学に支えられたある種の軽快さ、軽妙さをはらんだ文章である。どうにも「古い」と捉えれがち(に思える)ガダマーだが、90年代に発表された論考を集めたこの文章ではとみに科学主義批判を分厚く展開し、サイバネティクスなどにも言及している。
特に統一した論旨があるわけではないが、医学や技術、知識、認識といったテーマへの深い掘り下げは一貫した本書の特徴である。解釈学の一枚看板とも言っていい筆者の本領発揮といったところか、豊富な西洋地の塊を直接叩きつけてくる重厚な言説が、論文・論考集と言う形式により一種の軽さを与えられ、非常に読みやすい。
愚直なまでに真っ向から哲学の言葉で語られた書物であり、精密な言語選択にこだわり、過去の書物の英知を結集するやり方は、ある意味鈍い。だがその鈍さは非常に的確な論理を生み出す鈍さ、遅さなのであり、しっかりと固めた論理の土台の上に伸びる奔放な言葉の端々には、ガダマーらしい実直さと核心が詰まっている。名著である。