イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

マラケシュの贋化石

スティーヴン・ジェイ・グルード、早川書房。筆者がさまざまな場所で書いた(主に)科学者にまつわるエッセイをまとめたもの。日本語サブタイトルは「進化論の回廊をさまよう科学者達」となっているが、非常に雑多な内容。
本の大体七割を占めているのが、科学者の人生から末広がりに科学全体のこと、科学的なものの見方に広がるエッセイである。ダーウィンやラヴォアジェ、ラマルクなどの有名どころから、ベリンガーやビフォンなどのマイナーな人々まで、幅広く取り扱っている。が、その知名度に関係なく、筆者の筆は非常に丁寧で分厚く、かつ軽やかだ。
科学の特定分野を解りやすく解説したライトサイエンスではなく、筆者の筆力で押し切る形の科学(者)エッセイ集という形式である以上、エッセイとしての完成度が重要になる。わかり易い書き口と資料を掘り下げる調査力、的確な文章を選び取る目などなど、グルードのこの本はエッセイとしての利点を多数備えている。専門用語が少なく読みやすいし、焦点を絞った入り口から一般性のある結論を導いていく構成の巧みさは特筆に価する。
多分に感情的な発言が目立つが、これはエッセイ集なので別にかまわないと思う。文章にこもった熱で事実を切り取る筆が弱まっているわけではなく、むしろ現代の常識をいったん外し、科学者(とその学説)が生きていた時代の常識を重視しながらうずもれていた知見を掘り返す手腕は「優秀」の二文字である。
科学者伝記以外にも、野球から小進化・大進化まである意味雑多に詰め込んだエッセイ集であり、それゆえに筆者の横幅の広い筆の力を堪能することが出来る。読みやすいが薄っぺらではなく、おもしろいが難解ではない。非常に良質なエッセイである。