イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

社会を越える社会学

ジョン・アーリ、法政大学出版局。1990年代のさまざまな変化に伴い、社会学は「社会」から「移動」を中心概念にすえるべきだ、という主張を軸にすえた社会学の本。原著は2000年発行。日本語サブタイトルは「移動・環境・シチズンシップ」英語サブタイトルは「Mobilities for the twenty―first century」
社会学の中心概念に真っ向相撲を挑むだけあって、対象に取る領域は広い。「社会」をテーマに、現行の社会学が対称にしている「社会」が以下に多様かつ統一されていないかを示した第一章から開始し、「メタファー」「旅行」「間隔「時間」「居住」「シチズンシップ」「社会学」と、一章一テーマという形式で多角的な記述をしている。
文献調査の徹底、過去/同時代の社会学者の成果利用/批判は徹底しており、とにかく良く調べられ、良く引用されている。各章のテーマごとに重要な文献を的確に借用、引用しており、既存の社会学をひっくり返す意欲的な書物でありながら、既存の社会学の成果をけしてなおざりにはしていない。かといってオリジナルな視点にかけるわけではなく、移動性というタームにより場所と時間の概念を同時に睨むことのできる論の進め方はなかなかに面白い。
一つ難点を挙げるとすれば、グローバリズムに対応した社会学を目指すこの本において、その視座が徹底して西洋のものであることがあげられる。既存の社会学が当然のものとしていた国民―国家―社会を批判するのはいいが、そこに対峙するものとして超資本主義的グローバリズム「だけ」を掲げるのは少々いただけない。横幅を広く取り包括的な議論を目指した代償かもしれないが、移民・原理主義植民地主義オリエンタリズムと言った、西洋と西洋以外の中間点で発生し、発生している問題に深く切れ込んで欲しかった。
脱西洋を目指しながら徹底した進歩主義・唯一主義が透けて見えるように思えるが、それはそれとして良く調べ上げられ、書かれた本である。重いが噛み応えは十分であり、感じた反感を熟読で跳ね返す、良著特有の分厚さがある。