イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

自衛隊指揮官

瀧野隆浩、講談社。防衛大出身の毎日新聞記者が2002年に書いた、自衛隊に関するルポタージュ。相当に自衛隊サイドによった、ある意味でイデオロギー的なルポである。
自衛隊が「軍」として出動した四つの事件、地下鉄サリン事件、不審船事件、Mig-25亡命事件、87年12月9日のソ連機への警告射撃事件の当事者へインタビューを行い、最後に現在の自衛隊への提言を筆者が行う形を取っている。防衛大出身というキャリアを活かした、距離の近いインタビューは、端からけんか腰で自衛隊を扱う視点とはまた違った偏りが見える。
のだが、ここで取り出される問題は確かに、自衛隊の歪さを浮き彫りにしているように思える。取り上げられた四つの事件は非常に重大な国際危機でありながら、それに対処した自衛隊(と防衛庁)の行動には歪みと不自由が付きまとう。そのことは、確かな事実として認識してよいように思える。
しかし同時に、偏った視座は偏った情報提示を行うという大前提を見逃してはならないだろう。ようは、他の(極端な)ルポタージュと同じく、対立する立場の意見も取り入れて読むのが重要だ、ということだ。そのための材料は、それなり以上にそろっている本ではないかと思う。
自衛隊は今も昔もなーバス勝つ重要な問題だから、声を張り上げるのではなく、自分の声を潜めてさまざまな立場の意見を聞き考える必要がある。庁から省に昇格し、周囲を取り巻くさまざまな法制・行政措置も変化しつつある現在、5年前の事態を一つの位置から見つめたこの本は、一つの判断材料として悪くないと思う。良著。