イマワノキワ

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シリーズ現代思想ガイドブック マルティン・ハイデガー

ティモシー・クラーク、青土社。20世紀初頭ドイツ思想界の巨人であり、現代思想の巨大な源流であるハイデガーの入門書。このシリーズは全体的に読みやすく、掘り下げも的確なのでとても楽しみにしている。筆者の専門が英文学であるため、哲学思想よりも文学・美学者としてのハイデガーに注目している面白い切り口。
まず注目されるべきは紙幅の取り方だろう。一般的にハイデガー思想の重要点とされる前期よりも、後期のヘルダーリン研究・分析に徹底して紙面を割き、ハイデガーが捉える芸術・文学の分析読解を傾力した構成になっている。ハイデガー全体論ホーリズム)をドレイフェスの議論を借りて解説し、そこから個別論としてヘルダーリンの読みへと入っていく造りだ。
文学論としては、ハイデガー特有のニヒリズムへの抵抗を強く意識し、かつドイツ語という存在の持つナショナリズムに強く留意した論の運びとなっている。正直後期ハイデガーの文学研究はそれ自体は注目されないが、二次大戦後の思想界においては巨大な源流となっている重要な見識だし、そこに注目した一般書としてなかなか面白く、文学論としてはなかなかの出来である。
また、ハイデガーの問題点についてもしっかり触れていることも好印象である。ハイデガーを語る上でナチズムとの関連は絶対に回避できないし、彼のドイツ・ナショナリズム全体論の矛盾、全体論から全体主義へと変化する危険性を内包する思想、一種の視野狭窄など、ハイデガーは完全無欠の思想家ではない、ということを丁寧に示している。もちろん、ハイデガーの唯一性、始原性には十全に触れながら。
まぁ前期ハイデガー哲学への言及、分析が少々甘めなのは、紙幅と専門の問題と考え、別の本を手に取るとよいのではないかと思う。なかなか見れない視座から、そこを一転突破で丁寧に論じた良著。