イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

人類は衰退しました

田中ロミオ小学館。ガガガで三冊買ったうちのラスト。ロミオ先生裸子流麗な文章と知識の使い込みで、根っこにあるダーク、シニカルさをポップに見せかけている逸品。とにかく文章が面白く、巧い。
説明もなく衰退し、世界の表舞台から退場した人間。そこに滑り込む"異種"としての妖精。その調停を勤める主人公という構図からは、一見ハートフルなコミュニケーションを想像させる。文章も絵も、文体もこの小説の全てはそれを擬態しているし、話の運びや擬態の巧さ全てを加味して、ある程度以上にそれに成功している。
妖精さんは可愛いし、滅んでいく世界の描写は牧歌的で暖かい。それを実現させているのは田口ロミオの徹底的な力量で、そこだけでも十全に評価出来る小説である。だが。その根っこに流れるのは斜めの構えだ。”そういうもの”への、"妖精さん"と"調停官"というフレーズが想像させるライトノベルへのフレームへの、ヒューマニズムへの、シニカルな姿勢だ。
世界は滅んでいる。人間はもう下がるしかなく、一見何かを成しているかのように見える主人公のコミュニケーションも、ディスコミニケーションであることを認識できていないディスコミニケーションでしかない。よくよく読んでみれば、それは恐ろしいほどに透けて見えてくる、冷徹な悪意だ。人間への斜めの構え、シニカルな視線。通底するのは知性の光で透かした一種の絶望であり、"そういうもの"に反攻する姿勢、である。
巧いのは、それを丁寧に隠しながらも晒し、晒しながらも覆い隠す文章技量だ。ライトノベルとして流通する以上、"そういうもの"に反攻してはいけない。反攻ではなく、抵抗である。ひそやかな毒牙にも似た、知性満ち溢れた偽装工作。僕もまた捻じ曲がった人間だから、そのシニカルと同時に、それを隠蔽するテクニックの巧さと、隠蔽しようとする一種の小狡さにも感心を覚えてしまう。よく出来ている、という言葉は僕にとって、面白い、よりも価値が高いのだ。そして、この小説は面白くてよく出来ていた。文句はなく、続刊を望む。