イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アルジャジーラ 報道の戦争

ヒュー・マイルズ、光文社。「一つの意見があれば、もう一つの意見がある」をモットーに、96年にカタールに設立された報道局、アルジャジーラを取り扱ったルポタージュ。サブタイトルは『全てを敵に回したテレビ局の果てしなき戦い』
湾岸戦争アフガニスタン戦争、イラク戦争と、アルジャジーラ設立以来の軌跡は中東への米国武力介入の歴史と重なっている。が、この本が重視するのはそこだけではない。中東特有の首領独裁体制の説明から始まり、それが報道にも及んでいること、アルジャジーラが本社を置くカタールの状況と、アルジャジーラという組織の特異性を説明する土台をまず丁寧に解説する。
徹底して中道報道を試み、中東のさまざまな国家、政府、組織、宗教者の発言をそのままに報道するアルジャジーラは、何よりもまずアラブ世界から強力な攻撃を受けることになる。イスラエルからはパレスチナの走狗だと、パレスチナからはイスラエルの手先だと、タリバンからはアメリカ寄りだと、政府からはテロリスト支援組織だと、それぞれ罵倒を受けるわけである。
アラブ人のアラブ人による報道機関としての利点を生かし、中東情勢のさまざまなスクープを確保したアルジャジーラは、湾岸戦争でその頭角を現す。自閉した独裁アラブ国家に支局を置いている外国TV局は、アルジャジーラしかなかったのである。『中』から湾岸戦争を報道したアルジャジーラは全世界に注目を浴び、9.11を経て「対テロ戦争」に傾く米国に睨まれつつ、アフガン戦争ではタリバンの、イラク戦争ではフセインの、そして現在継続中の「テロ戦争」ではビン・ラディンの声を伝える唯一のメディアとして活動することになる。その途中で各国政府に支局を閉鎖され、特派記者が米軍の爆撃や狙撃で死亡し、支局を爆破・爆撃され、欧米大手メディアと角を突き合わせながら、アルジャジーラは報道を行う。
簡単に纏めれば、このような経緯を掘り返したルポタージュである。ややアラブ側とアルジャジーラに好意的過ぎる始点ではあるものの、徹底した資料の掘り返しと取材、対立する二つの立場の提示、問題のある発言の中の「一部の理」を見逃さない包括性、事態を丁寧に掘り返しわかりやすくまとめた文章。ルポタージュとしてのクオリティはとても高く、日本では全体的に無関心なアルジャジーラの活動を解りやすく飲み込むことが出来る。
アルジャジーラ設立以来の十年は波乱に満ち、物語としての盛り上がりとしても読ませる力がある。だが、これはルポタージュで、そして誠実なルポタージュである。中東ではどうにもならないほどに情勢の糸が絡まり、人がばたばたと死に、さまざまな抑圧と対立がある。それを伝えるメディアを追求したもう一つのメディアの話しとして、この本は非常によく出来ている。
いまや中東情勢の一つの巨大な極として、アルジャジーラは見逃せないファクターである。それを知るために、非常に良く出来た書物だといえる。名著。